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作成年月日:2016年12月7日

海外情報プラス

海外情報−中国11月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、危機管理、その他(企業経営)

インセンティブ制度についてA

先月に引き続き、インセンティブ制度をテーマにレポートさせて頂きます。

インセンティブ制度の導入と賃金テーブルの関係

インセンティブ制度の導入に伴い、現行の賃金規程や賃金テーブルとの整合性を図り、明文化してゆく必要があります。ある日系サービス会社の事例ですが、売上拡大施策のひとつとして、営業職に対するインセンティブ制度の導入と同時に賃金テーブルにおける基本給の下方調整を実施しました。目標の業績を達成すれば、基本給にインセンティブ給が加わり、現行よりも本人収入が増加する仕組みですが、多くの従業員は逆に不満を感じました。企業にとっては、給与に対する考え方と賃金比重の変更であり、業績に応じたインセンティブ給の支給は従業員のモチベーション向上のための施策でしたが、従業員にとって賃金構成の主要項目である基本給を下方修正することがマイナス印象となり、社歴の長い優秀な従業員の退職を招いてしまいました。結果的にインセンティブ制度の目的である従業員のモチベーション向上とは逆効果となったケースです。このように従業員のモチベーション刺激を目的にインセンティブ制度を導入しても、それに伴う賃金ルールの変更で従業員のモチベーションを下げてしまうことがありますので十分に注意が必要です。

インセンティブ制度の導入タイミングについて

インセンティブ制度の導入のタイミングも非常に重要です。リーマンショック時の事例ですが、ある日系サービス会社がプロフィット部門の従業員に対するインセンティブ制度を導入しました(先月レポートA売上リンク型)。前述の事例同様、同時に賃金テーブルの改定も実施し、基本給を若干下方調整しました。当時の大変厳しい景況下でのインセンティブ制度導入は、従業員にとっては基本給の下方調整による人件費削減のバランスを取るための口実にしか感じられず、やはり、幹部を含む優秀な従業員たちが退職してゆきました。どんなに素晴らしいインセンティブ制度でも、導入タイミングによって従業員のモチベーションに与える影響が大きく変わってしまうため、インセンティブ制度は景気の動向が良い時期に導入してゆくのが最も効果的と言えるでしょう。

インセンティブ制度による弊害とその防止策

別の日系サービス会社の事例です。インセンティブ制度の導入後、個別従業員の売上関与率の統計を分析した結果、一部の従業員が他のメンバーとほとんど協業せず「一匹狼」的な仕事のやり方をしていることが明らかになりました。

この企業では、個々の従業員の顧客管理能力の向上を目的とし、従業員が営業活動におけるオープニングからクロージングまでを単独で行い売上を獲得した場合のインセンティブ比率を、他のメンバーとの協業で売上を獲得した場合よりも高く設定していました。(先月レポートA売上リンク型)

先月のレポートにおけるサッカーの例えに置き換えると、自分に回ってきたボールを誰にもパスせずにドリブルでゴール前に持ち込み、自らシュートを放つというプレースタイルです。積極性という点では評価できるかもしれませんが、ドリブルの途中で敵にボールを奪われることや、空いたスペースにフリーでいる他のメンバーに敢えてパスを出さないことも多く、個人プレーでの得点しか狙っていない状況です。他のメンバーと協業していれば、チームとして更に得点が加えられたであろうチャンスを大幅にロスしているケースです。このようなプレーが続けば、他のメンバーからもパスが回ってこなくなってしまい、チームの連携プレー能力のダウンに繋がり、必然的にチーム得点力(売上)のブレーキになってしまいます。また、単独ゴールを追求するあまり、ファール(不正行為)を犯してしまうリスクも増大します。

このような弊害はインセンティブ制度の設定内容により防止することが可能です。最も重要な点は会社としてインセンティブ制度導入の目的を明確に定めておくことです。また、インセンティブ制度の導入後に問題を発見した場合にでも、すぐに制度を改定し、改定理由を従業員に伝えてゆくことが大切です。

導入経過に応じたインセンティブ制度の変更

インセンティブの導入経過に応じて、制度の見直しを図ることも重要です。導入時には従業員のモチベーションを刺激していた制度でも、一定期間が経過すると、それが当たり前となり、従業員のモチベーション向上効果が薄れてしまうためです。これを防止するためにはインセンティブ制度の実施状況を分析し、インセンティブ制度に毎年変更を加えてゆくことが効果的です。

前述の日系サービス会社は、現在、先月レポートAの売上リンク型のインセンティブ設定をしていますが、従来は同@の目標達成型でした。目標を達成しなければ、インセンティブ給は支給されないため、インセンティブ制度自体が有名無実化し、従業員のモチベーションを全く刺激できていませんでした。そのため、管理数値の変更は行わず、制度をよりシンプルな売上リンク型に変更したところ、従業員のモチベーションの向上に成功しています。目標レベルを下げ、達成できるように案も検討されましたが、それでは従業員のモチベーションを刺激し、売上を拡大するという目的が達成できないため、最終的に売上リンク型の制度を採用しました。売上リンク型の場合、従業員が担当案件の進捗状況を見ながら、自分でインセンティブ給を計算できるという点が効果に繋がっています。

 

日系企業にとって、市場としての中国の重要度は益々高まっており、販売拡大を目指す日系企業がインセンティブ制度を導入する流れも加速してゆくことが予想されます。インセンティブ制度の効果は、中国で実施したインセンティブ制度のノウハウを日本国内でも導入したいと考える経営者もいるほどです。総じて、インセンティブ制度は多くの日系企業がまだ着手していない人事施策のひとつであり、活用次第で従業員のモチベーション向上や売上増加が実現できる秘策になると言えるでしょう。 業界や企業によってケースは異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上