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作成年月日:2017年2月8日

海外情報プラス

海外情報−中国1月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、異文化、危機管理

相次ぐ営業担当者の不正について

中国の新年度に入ったばかりですが、日系企業からは営業担当者の不正に関するご相談が相次いでいます。発覚していない潜在的なケースを含めれば、実際には相当数の不正が発生しているのではないかと感じます。

ご相談を受けたのは全て商社で、いずれも営業担当者が自ら起業した別企業との取引により、私利を図るというケースでした。

ケーススタディ@

ある日系商社のケースです。インセンティブ制度構築過程において、営業担当者別の過去売上実績の分析を行っていたところ、新規顧客である中国企業との取引内容に不透明な箇所を発見しました。

この中国企業を内密に調査したところ、自社の営業担当者が法人代表になっていることがわかりました。取引開始時の調査では、法人代表が別人であったことを確認していましたが、いつの間にか法人代表が自社営業担当者に変更されていたとのことです。 取引内容の分析が進むにつれ、この営業担当者がどのように私利を図ったかについて明らかになり、不正の証拠となる資料やデータもすぐに探し出しました。

この企業では就業規則において、在職期間中に他の雇用主との労働契約を締結すること、業務において私利を図ることを禁止しており、不正リスクの防止や対応措置についての対策が整備されていました。

企業側は不正の証拠を全て入手、把握したうえで、営業担当者との緊急面談を設定し、直接本人に不正行為の有無について確認しました。確実な証拠を突きつけられた営業担当者は、自らが法人代表である会社と取引関係があることは認めましたが、これらの行為は就業規則における禁止事項への違反には該当しないと主張していました。

他の取引先も含めた信用問題にも影響する問題であり、就業規則の他の違反事項にも抵触しています。営業担当者は最終的に自らの不正行為を認め、企業措置としての労働契約の即日解除を受け入れ、「労働契約解除通知書」に署名しました。所謂、懲戒解雇です。不正発覚から2日後のことでした。

勿論、懲戒解雇の成立後、直ちに事務所のキーやIDカード、貸与していた全ての備品を返還させ、PC端末にも一切触れさせず、システムの登録パスワードも無効にする等の措置も実行しています。

ケーススタディA

別の日系商社のケースです。本社部門による監査を控え、総経理が営業部門に対し、未回収売上の回収を強化するよう指示したところ、約2年間売上が回収されていなかったある中国企業から、突然、未回収金の一部が入金され、今後の支払い計画書まで提出されました。

総経理は約2年間未入金で、損金処理すら想定していた中国企業の動きとして不自然さを感じ、この中国企業を詳しく調査したところ、自社の営業担当者が法人代表となっていることがわかりました。

企業はすぐに本人との面談を設定し、事実関係の確認を行いました。営業担当者が自らの不正を即座に認めたため、就業規則に基づき、情状にも配慮しながら労働契約解除の措置を取りました。

ところが、労働契約の解除から間もなく、この営業担当者が労働契約の解除に際して経済補償金が支払われていないことが違法であるとして労働関係仲裁機関に提訴しました。法令に基づく調停が開廷され双方が主張を行いましたが、仲裁機関はやはり企業側の主張に正当性があることを認めました。企業は損害賠償の追究は行わないこと、今後は双方が関与しないこと、いかなる訴訟も起こさないという約定を締結し、本件を収拾しています。

不正の発見について

上記2つのケースに共通するのは、それぞれ「インセンティブ制度構築準備としての業務実績分析」、「本社監査に先立つ未回収売上の回収強化」といった通常業務以外の特別な業務の過程において不正が発覚している点です。 逆に言えば、通常業務において不正を発見することは非常に難しいということになるでしょう。

就業規則の重要性

また、ケーススタディからは就業規則の重要性が浮かび上がってきます。いずれも不正の発生を想定した就業規則となっていたため、企業が優勢を保持しながら先手を打ち、スピーディーな対応を進めることができています。

就業規則の整備に際して「万一の際には関連法令が根拠となるのだから、就業規則には関連法令に基づくと記載しておけばよい」という考え方もあるようですが、実際に問題が発生した場合には、法令の解釈に対する双方の意見の食い違いが争点となり、そこで問題を長引かせてしまう可能性が高まります。

就業規則は関連法令に基づいているだけでなく、関連法令や案例を深く理解したうえ、自社の状況を考慮して作成されている必要があります。

営業担当者の不正増加の背景と企業の管理責任

企業としては、営業担当者の不正が増加している背景や企業としての管理責任を考えることも重要だと思います。不正が悪であることは不変です。しかし、これまで会社に貢献してきてくれた社員がどうして不正に走ってしまったのかを考えることができる総経理がいるとすれば、その胸中はきっと複雑なものであるはずです。

 

不正の主な動機は経済的なものですし、誰でもたくさんのお金が欲しいのは当然です。ほとんどの企業の従業員は、企業の業績に貢献し、評価されることで賃金収入を増やしたいと考えているはずですが、ある日、賃金収入の増加に疑問や限界を感じた時、悪と知りながら「不正の念頭」が芽生えるのでしょう。

実際のケースに接すると、この「不正の念頭」を芽生えさせてしまう責任は決して本人だけの問題ではないようにも思えます。

 

多くの日系企業にとって、中国でのビジネス環境は年々厳しいものになっており、駐在員だけではなく、現地従業員も強いプレッシャーと戦いながら日々の業務に取り組んでいるのが現状です。しかしながら、現地従業員の平均昇給率は年々減少しており、賃金収入の増加に対して大きな期待が持てない状況になりつつあります。

 

また、ご存じの通り、営業担当者は求められる売上目標と自分の賃金収入を比較する傾向があり、自己の業績に対する評価及び賃金収入の増加に非常に敏感です。

 

企業としては、営業担当者に対するあらゆる面での適切な管理が必要となっており、KPI(重要業績評価指標)や実績等の数値管理を強化する傾向にありますが、同様に個々の営業担当者のモチベーションや悩みをケアする点においても積極的な施策と管理が必要だと感じます。それが営業担当者の不正防止にも繋がるはずです。

 

また、上記ケーススタディの共通事例を踏まえ、営業担当者が中国企業との新規取引をスタートさせる場合には、念のため、詳細な企業調査を実施されることをお勧めします。尚、入社時に人事情報管理用の従業員シート(自己申告書)を使用し、家族構成や名前等の情報を把握しておくことにより、家族の名義を使用した不正発生防止の一助となるでしょう。

 

業界や企業によってケースは異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上