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作成年月日:2017年3月8日

海外情報プラス

海外情報−中国2月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務

賃金相場のギャップについて

 

賃金相場のギャップが新たな人事課題を生む

この時期、日系企業における既存従業員の昇給、労働契約満了に伴う欠員補充、新規設立による新規採用等の場面で賃金相場のギャップによる問題が増加しています。企業と従業員或いは応募者間の賃金金額に対する認識の差が拡大していると同時に、企業の人事管理業務の新たな問題として表面化してきたと言えるでしょう。

 

昇給実施後の大量退職が会社全体の業務レベルを低下させる

ここ数年、昇給後に従業員が多数退職するケースが発生しており、特に事務系職種でその傾向が顕著になっています。昇給後の退職であるため、昇給額に対する不満や将来の昇給に対する失望等が原因になっていることは非常に明白です。

同時期に多数の退職者が発生する場合、すぐに業務に支障が出ると同時に、長期的にも会社全体の業務レベルの低下を招くことになります。

欠員補充の募集を行っても、前任者の賃金が基準となり、また、面接を実施しても実際に経験を有する前任者と比較すると目劣りがし、採用に対して積極的になれないという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

また、後任が採用できた場合においても、業務を習得して前任者と同じ業務レベルに到達するには一定の時間が必要となります。

このように、賃金への不満を原因に退職した従業員の欠員補充が企業の人事管理業務における負のスパイラルとなる可能性は非常に高く、また、後任の採用コストを考慮すると、従業員が納得できる範囲での昇給を実施し、従業員の退職を防止したほうが企業にとってメリットが多いのが現在の状況と言えるでしょう。

事務系職種においては、営業系職種のように目標管理制度等による評価と昇給の基準と仕組みの整備が難しく、職種に応じた等級に基づく賃金テーブルで昇給幅が限定されてしまうことが大きな要因になっていると考えられます。

因みに、退職した従業員は往々にして、他企業の事務系職種に就き、自社在職中よりも多くの賃金を得ているのが一般的です。

 

人件費予算の甘さが採用難を招く

退職者の発生に伴う欠員補充ニーズのほか、新規設立や事業の拡大或いは再構築のための人材確保が急務になっている日系企業も少なくありません。

ある日系販社では、従来はローカル系商社を通じて行っていた欧米向け業務を自社に移管するために貿易会社を新設しました。欧米向け業務に必要な新たな人材の確保について相談を受けましたが、人件費予算の設定が現在の賃金相場に対して大幅に低く、ほぼ最低賃金レベルでした。

これでは貿易事務と営業アシスタントを兼任し、英語で欧米顧客と直接連絡を取り合えることのできるような人材は採用できません。どのように人件費予算を組まれたのかを伺ったところ、取引関係のあるローカル企業の賃金テーブルを参考に予算を作成されたとのことでした。

その後、この企業は当初考えていた2名の採用を1名に変更することで予算上の調整を行い、人材募集を進めていますが、当初2名で分担する予定だった業務を1名で行うことになるため、必要な人材に対する要求が更に高まり、別のかたちで賃金のギャップを招いています。最新の賃金相場に対する事前調査があまりにも甘すぎた結果と言え、根本的な事業予算を見直し、適切な人件費予算を確保しなければ、採用活動は進展しないでしょう。

 

二次面接後の応募者辞退増加が示すもの

日系企業の採用活動の特色のひとつに、一次面接では賃金には触れず、二次面接で賃金を決定するケースが多いことが挙げられます。

現在は年間を通じて最も採用活動が活発化している時期に突入していますが、今年は二次面接実施後に応募者側から辞退するケースが目立っています。ほとんどのケースで賃金のミスマッチが原因になっており、企業側は賃金テーブルや既存従業員とのバランス等から賃金を提示(オファー)しますが、候補者側がこれに応じるケースは減少しています。結果、企業は欲しい人材を採用できておらず、採用活動も長期化しています。  日系企業全体として面接における従来のシナリオを変更すべき時期が到来しているのかもしれません。ポイントは「先小人、後君子」の考え方かもしれません。

 

なぜ賃金テーブルを改定しないのか

ビジネスにおいて環境変化への適応は不可欠ですが、なぜ多くの日系企業は賃金テーブルの改定に消極的なのでしょうか。

その答えのひとつとして、大多数の日系企業において、賃金テーブルを含む規定類の改定が董事会の承認事項となっていることが挙げられます。董事会で承認を得るためには、董事メンバーに賃金相場の現状と自社とのギャップを説明するところから始めなければならず、そのための客観的データの収集も難しいという現実が存在します。また、賃金テーブルの改定により人件費コストが増大することが自身のマイナス評価に繋がると考える総経理もおられるようです。

明確な問題が存在し、その解決方法はわかっているのに、本質から外れた事情が原因となり問題が解決できない典型的なパターンです。

董事会メンバーが最新の賃金相場を認識し、総経理に対し退職者増加や人材採用難の解決法として賃金テーブルの見直しを提案してゆくかたちであれば、総経理も賃金テーブルの改定に積極的になれるのではないでしょうか。

 

なぜ賃金テーブルを改定しないのか

最後に、ある会合における日本人駐在員のお話しをご紹介します。 「俺の給与なんて毎年数千円しか上がらないのに、俺の部下は毎年1万円ずつ昇給してるって、おかしないか、なんでやねん。」

多くの日系企業において、これが現実でしょう。日本の認識で中国の昇給ベースを考えられない時代に突入しているのです。 業界や企業によってケースは異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

業界や企業によってケースは異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上