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作成年月日:2017年9月8日

海外情報プラス

海外情報−中国8月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、法務・税務、異文化、その他(企業経営)

新規採用者の入社後の要求について

 

「先小人後君子」ではなく「先君子後小人」

中国で従業員を採用する際、内定或いは入社後に、再度、待遇条件の追加や変更を求められるといったケースを経験された方も多いかと思います。面接において待遇条件に関する内容は特に丁寧に説明し、書面による確認を行っているにも関わらず、今尚、このようなケースが発生しているのが実情です。

中国には「先小人後君子」という諺があります。直訳では「先に小人、後に君子」となり、実際には「言い難くても重要な事は先に話しておくほうがお互いのためになる」という意味を持っています。(※言いずらいところを先に詰めておけばあとはいざこざなく余裕を持った態度で臨めるの意)諺の語順を入れ替えて逆の意味で使用する場合もあり、決定事項を覆そうとするようなケースでは「先君子後小人」と言い換えることができます。

既に本人が採用通知書や労働契約書に署名をしているにも関わらず、内容の追加や変更を要求する行為は文化の差異や個々の性格等が原因となっていると考えられますが、この「先小人後君子」という諺のロジックに当てはめようとすることで「ダメもとの要求」が出し易くなっていることは否めません。結果的として「先君子後小人」となり、手のひらを返されたような後味の悪さが残る場合も多く残念です。今回は最近発生した事例をご紹介させて頂きます。

内定後に補充住宅積立金を要求

先日、中国に販社を持つ企業の社長より、補充住宅積立金(補充住房公積金)に関するご相談がありました。現地法人で採用内定を出した営業マネージャーが補充住宅積立金を希望しているとのことで、内定通知後に次のようなやり取りがあったとのことです。

 

営業M:補充住宅積立金はありますか?

社長:私はわからないので担当者に調べさせます。

営業M:前職では補充住宅積立金が●%があったので、ぜひお願いします。

補充住宅積立金とは、法定(強制)の住宅積立金制度(住宅消費をサポートするために積立金を徴収、管理する制度)の一種の補充制度です。納付は任意(非強制)で、掛け金の比率も一定基準において企業が決定できます。一般的には従業員に対する福利厚生的な意味合いを持たせた人事施策の一環として認識されています。広い意味では商業医療保険と同じように従業員のモチベーションや定着率の向上を目的とした法定プラスアルファの福利施策のひとつです。

 

このケースでは、営業マネージャーが内定後、直接、社長に質問と要求を行っている点が問題です。補充住宅積立金の有無については採用面接時に質問できたはずだからです。現地の状況に詳しくない社長に直接質問することで、補充住宅積立金が検討されることを図っているように感じます。この営業マネージャーの賃金は前職とほぼ同じでした。社長としては、せっかく内定を出した営業マネージャーの辞退を懸念し、また、福利厚生レベルを落としては申し訳ないという思いから、営業マネージャーの希望を受け入れる方向で検討されていました。

 

しかし、この営業マネージャーに補充住宅積立金を付与する場合、他の既存従業員にも同様に付与しなければ社内の公平性が保てないことが問題です。仮に全社員に適用する場合、手取り額を維持するために賃金を再設定する必要があるため、少なからず人件費コストが増加することは想定されていませんでした。

 

上記より、検討の結果、会社が補充住宅積立金を将来の課題とすることとし、営業マネージャーの要求は暫時預かり事項となりました。内定後のダメもとの要求に可能性を持たせてしまった事例です。

 

入社後に勤務時間の変更を希望

また、ある日系商社の日本人副総経理からは「試用期間中の営業アシスタントが勤務時間の変更を希望している」とのご相談がありました。この営業アシスタントは入社後約1ヶ月でまだ試用期間中ですが、宗教活動への参加を理由に勤務時間を規定の9:00〜18:00から8:30〜17:30に変更することを希望しているとのことでした。勿論、この企業はフレックスタイム制度を導入している訳ではありません。

 

日本人副総経理は、宗教活動への参加を理由としているため、希望を受け入れなかった場合に信教の自由を妨げることになるのではないかという懸念を持たれ、早退の扱いで賃金を控除するという対応を検討されていました。

 

前述の事例同様、規定の勤務時間は通勤可否を確認するために採用面接時に必ず確認している事項です。勿論、就業規則と労働契約書にも明記されています。合理的な理由による継続性のない遅刻、早退、欠勤は当然認められるべきですが、このような個人的な理由による早退は認められません。法的にも宗教活動への参加を理由に就業時間を変更しなければならないという条項は見当たりません。

 

また、必然的に業務上必要な残業ができないこととなり、その業務は他の誰かがやらなければなりません。入社したばかりのため、既存メンバーのモチベーションや社内の雰囲気にも悪い影響を与えるリスクも高く、この営業アシスタントの希望を受け入れるべきではないと助言させて頂きました。

 

背景には就職難と採用難の混在が

今回の事例はあくまでも氷山の一角であり、実際に内定や入社の後に希望や要望を出すケースが多発していると考えられます。結果的に要望を受け入れている場合も多いはずです。背景には人材市場に「就職難」と「採用難」が混在していることが考えられます。

 

自社データにおける上海地区の状況ですが、市場には欠員補充を主体として継続的に求人情報が発生しており、なかなか採用が進まないまま蓄積し続けています。

一方、求職者数は夏場に一時的な減少があったものの、安定推移しています。但し、企業と求職者のニーズは細部での一致が見られず、双方が面接を繰り返しても、なかなか採用に至っていないのが現状です。このような状況では、双方が条件を譲歩してそれぞれ採用、就職活動を行っているため、求職者側には譲歩していた部分を内定後或いは入社後にあらためて要求してみるというマインドが感じられます。

 

企業としては、従来のルールに満足せず、従業員や応募者のあらゆる希望や要求を想定し、必要に応じて新たにルール化しておくことで、スムーズな対応ができるようになるはずです。ポイントは従業員や応募者からの希望や要求に対して後手の対応にならないことです。長期的な視点から、特例処理を行うこともトラブルの原因になるためお勧めできません。業界や企業によってケースは異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上


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