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作成年月日:2019年5月24日

海外情報プラス

海外情報-中国4月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:異文化、危機管理、その他(企業経営)

賃金テーブルの改定について

はじめに

賃金テーブル改定については、本欄のテーマとして過去にも2回取り上げ、改定が必要な理由や改定時の注意点をレポートさせて頂きました(2016年9月及び2017年9月)。 2017年9月のレポートにて、賃金テーブルは5年ごとに見直しを行い、10年以上未改定の場合は絶対に改定が必要であることを述べさせて頂きましたが、先日、賃金テーブルを10年以上改定していない日系商社社長よりご相談がありましたので、参考までに最新の実例として紹介させて頂きます。


調整手当の比率が高い賃金構成

同社は設立10年を超える日系商社で、順調に発展してきました。従業員の定着率も比較的高く、管理職の社歴は概ね10年以上となっています。設立数年後に人事制度を整備し、あわせて賃金テーブルを設定していました。

 

賃金テーブルは等級に応じて設定されており、基本給、職務給、総合職手当、役職手当、日本語手当、資格手当、地域手当により構成されています。

 

毎年、目標管理を実施し、その評価に応じて賃金テーブルに基づく昇給を行ってきましたが、ここ数年で等級と実際賃金の整合性が大きく崩れ始めたとのことでした。この間、賃金テーブルを改定したことはありません。

 

直近の賃金明細を拝見したところ、全ての従業員に「調整手当」名目での支給があり、その比率は非常に高いものでした。総支給額における調整手当の比率が最も低い従業員でも20.0%となっており、最高比率では64.1%に達していました。本来、調整手当とは給与や税金、社会保険の修正や賃金テーブルの端数を調整するために設定されている項目ですが、賃金テーブルを改定せず、設定を超過した昇給分を全て調整手当で支給してきたためです。

 

また、新入社員数名については、等級すら未設定のままで、賃金明細には総支給額しか記載されていませんでした。プロフィット業務が多忙なため、ここ数年の昇給は総支給額に対する昇給率のみを基準に実施してきたとのことでした。また、賃金テーブルの設定範囲では新たな人材が採用できず、新規採用者の賃金は応募者の希望額を基準に社内バランスを考慮して決定してきたとのことでした。

 

賃金相場と賃金テーブルのギャップ

同社が賃金テーブルを10年以上改定していないということは、10年以上前の賃金相場で現在の給与を設定しているということです。この10年間で賃金相場は大きく変化しており、社内と社外の賃金に対する認識のギャップが生じることは当然です。

 

上海市の月平均給与の推移を見てみると、2008年の3,292元から、2018年は6,504元の1.97倍となっています。また、同じく最低給与では2008年の960元から、2018年は2,420元と2.52倍になっています。平均賃金相場は10年間で約2倍に達しており、毎年7%前後の昇給を10年間継続すれば平均賃金相場の増加率に近づきます。実際に同社を含む大多数の日系企業では、毎年平均5%前後の昇給を実施しており、10年間継続勤務した場合の賃金は概ね2倍以上となっているはずです。つまり、賃金テーブルは改定していないものの、現実的な賃金レベルは賃金相場とは大きくかけ離れていない状況です。

 

賃金テーブル改定の流れ

上述の状況から、同社の賃金テーブルの改定作業は次のような流れとなります。

① 調整手当をゼロに戻した場合の総支給額を確認

② 実際の日本語レベルと手当の支給状況を確認(社長)

③ 実際の資格と手当の支給状況を確認(社長)

④ 現行賃金テーブルにおける①~③後の総支給額に該当する等級を確認

⑤ 実際の等級と④の等級の差異を確認後、個別従業員を再評価(社長)

⑥ ④~⑤に基づき、賃金テーブルの基本給、職務給、総合職手当、役職手当の金額を調整

⑦ 各従業員に対し、今後3~5年間の一定昇給率での昇給を試算、確認

⑧ ⑦による等級の昇級状況を確認

⑨ 一定等級以上の従業員について、現行総支給額に基づく年俸額の基準を設定

⑩ ⑨に基づき、年俸対象者の今後3~5年間の昇給を試算、確認

 

これにより、等級・役職・賃金の整合性が復活し、調整手当名目での支給をゼロにすることができます。同時に一定等級以上の従業員に対しては年俸制を導入し、柔軟で合理的な賃金設定を可能にしておきます。また、前年度の平均昇給率を用い、今後3~5年間の昇給を試算しておくことも必要です。試算結果によって、個別従業員の昇級の可能性を把握することができ、従業員の活用や育成を検討する際の参考となります。

 

全ての作業過程が重要ですが、上記⑥の金額調整は特に重要な作業となります。全ての従業員の賃金を実際の等級や役職の範囲内に収める前提で、全体的にバランスが取れた金額を設定することは非常に難しい作業です。総支給額のみで賃金が設定されている場合には、何に対してどのくらいの賃金や手当を支給しているかから検討を開始する必要があり、更に複雑な作業を要することとなります。

 

総じて、日系企業の社長の多くが賃金テーブルの重要性と改定の必要性を感じているはずです。事例の日系企業の社長が改定に着手できなかったのは、社長の業務負荷が年々高まってきたことが主な原因だと感じますが、むしろ、現地従業員を納得させるだけの昇給を毎年実施してきたこと、昇給を実施できる業績を達成してきたことを評価するべきでしょう。この時期に賃金テーブル改定を準備しておけば、来年度からの運用には十分間に合います。賃金テーブル改正の必要性を感じられている企業は早めに着手されることをお勧めします。業界、企業によって状況は異なりますが、参考にして頂ければと思います。

以 上