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作成年月日:2019年6月17日

海外情報プラス

海外情報-中国5月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、異文化、危機管理、その他(企業経営)

想定外の退職について

はじめに

先ずは、タイトルである「想定外の退職」に対して、違和感のない方と違和感を覚えられた方の両方がいらっしゃると思います。

中国勤務を経験されている方にとっては釈迦に説法となりますが、中国では日本と異なり、常に従業員の退職を想定しておく必要があり、従業員の退職に想定外はあり得ないという考え方がセオリーになっていると言えます。

従業員の退職には様々なリスクが潜んでおり、近年、中国における日系企業では、退職への対応は、採用よりも難しいという認識が定着しています。

今回は、ある日系企業の実例を参考に、従業員の退職を想定しておくことの必要性についてレポートさせて頂きます。


部下の退職を想定していなかった日本人副社長

先日、ある日系商社の日本人副社長(副総経理)より、(退職を)想定していなかった従業員から退職願が提出されたというお話しがありました。副社長は中国勤務3年目とのことでした。退職するのは、遠隔地域の拠点に勤務し、組織上は副社長の管轄部門に所属する従業員です。副社長が自ら採用を決定し、入社後も期待を込めて接してきた従業員であったため、退職を考えていることを全く想定していなかったとのことでした。当然、慰留に努められたと思いますが、法律や就業規則に基づく退職願は慰留工作が成功しない限り、最終的に受理するしかありません。

職業観の違い

副社長がこの従業員の退職を全く想定していなかったことが大変意外でした。おそらく、この副社長は他の従業員についても退職を想定したことがなかったはずです。

その理由は非常に単純で、日本と中国の職業観の違いによるものです。現在、日本特有の終身雇用の考え方は薄まりつつありますが、それでも入社した会社において、できるだけ長く勤務したいという職業観は現在でも根強く残っています。また、雇用や働き方の多様化が進んだことで、逆に長期雇用の位置付けも変化しており、雇用期間に対する意識は企業、求職者の双方で強まっている現状です。

ですから、副社長の日本人としての職業観だけでは、従業員の退職を想定していなかったことは当然とも言えます。日本で有名な企業であれば、従業員の退職を想像することは更に難しいはずです。日本企業で勤務していても、現地従業員の職業観が日本人と同じとは限らないということです。

従業員の退職を想定する

実際には、所属部門や役職、職種に関わらず、従業員一人ひとりについて、退職を想定しておくことが必要です。そのためには、日頃から積極的に従業員とのコミュニケーションを図っておく必要があり、従業員の退職を想定する場合、考えるべきポイントは大きくふたつに区分できます。退職要因と退職時の対応です。

退職要因には主観的なものと客観的なものがありますが、従業員の状況に応じ、その両方を想定しておくべきです。主な退職要因をご紹介します。

 

【主観要因】

① 業務内容、待遇、昇進等に関する不満や悩み 退職要因として最も多く見られるケースです。評価制度における個人面談等において不満や悩みを打ち明けてくれる従業員はまだ良いのですが、不満や悩みを溜め込んだまま、突然退職するケースも少なくありません。特に待遇に関しては、全ての従業員が不満を抱いていると言っても過言ではありません。 先の実例でも、恐らくはこの要因によるものであることが容易に想像できます。

 

② 上司や同僚、顧客等、人間関係に関する不満や悩み 上司の交代によるモチベーションの低下、他部門の同僚との業務上のトラブルに起因する人間関係の悪化、顧客や取引先からのプレッシャーと上司や社内の板挟みになるケースなどです。人間関係に伴う不満や悩みが退職を考えるきっかけとなります。

 

③ 会社の経営状況や管理体制等に対する不満や悩み 経営状況の悪化や管理体制或いはコンプライアンス上の不備が従業員の長期的キャリアプランに影響し、将来への不安に結びついています。

 

【客観要因】

① 本人の健康問題(病気、怪我、メンタル等)に起因する状況 健康を選ぶか、仕事を選ぶかという二者択一の状況ですが、仕事が原因で健康に問題が生じたと考える従業員も少なくありませんので注意が必要です。

 

② 家族の健康問題に起因する状況 本人ではなく、家族の健康上の問題により退職せざるを得ないというケースです。家族構成は本人の承諾のもとで、入社時のシートに記入してもらい把握できます。

 

③ 本人及び家族のその他の事情に起因する状況 個別の従業員によりますが、個別従業員の状況によっては、子女の教育や本人らの住居に関する問題で退職する可能性も存在します。

退職した場合の対応についても想定が必要

退職時の対応についても大きくふたつに区分でき、退職者本人に関する問題と業務に関する問題の両方に対する対応を想定しておく必要があります。

 

【退職者への対応】

① 労働契約上のリスク 労働契約に定められた会社側の義務を履行していなかった場合にトラブルとなります。

② 労働契約以外のリスク 労働契約上の問題がなかった場合でも、退職する従業員が会社のコンプライアンス上の問題等を指摘し、トラブルとなるケースが多発しています。

③ 上記①、②への対応により派生するリスク 退社時のトラブルへの対応により、新たなトラブルや悪影響が発生するケースです。

 

【業務への対応】

① 社内からの後任者選出または欠員補充による採用

従業員が退職した場合、社内での後任選出、或いは業務の振り分けが可能か否か、欠員補充が必要かを予め想定しておくことが必要です。 先の実例においては、社内での後任選出が不可能なため、欠員補充を検討していますが、経験者であることと高い語学能力を有することが条件となり、採用までに一定の時間を要することになるはずです。 また、遠隔地での採用であることも採用長期化の原因になるはずです。

 

② 業務及び顧客、取引先の引継ぎ

特に重要なのがプロフィット業務の引継ぎです。引継ぎに不備があれば、売上の減少や顧客の喪失に繋がります。欠員補充の採用に時間を要する場合、引継ぎができないまま退職となるケースも発生しています。

 

③ 上記①、②に付帯するリスク

退職とともに顧客や取引先も自分のリソースにする従業員や、在職中に知り得た会社の機密情報を本人が特定できない方法により会社に残っている元の同僚に漏らす従業員も発生しています。 事例のケースでも特に注意と対策が必要ですが、後手となっている現状では、そこまで手を回すことが難しくなっています。

 

総じて、従業員の退職を想定しておくことで、退職時に後手に回らない対応が可能になることは勿論、日頃から業務のあらゆる場面で退職に伴うリスクを想定することにより、退職及びそのリスクを防止することができるようになります。実例のケースでは、遠隔地の従業員ほど、普段からのコミュニケーションが大切であることを再確認できます。これは日本本社と現地法人に出向する駐在員でも同様です。駐在員が現地駐在先で退職する可能性はゼロではなく、本社は駐在員が退職した場合の対応を準備しておく必要があるためです。

中国においては、想定外の退職はあり得ないという前提で、普段から優秀な従業員の退職を防止する人事管理を進めることが最大の防止策となります。業界、職種によって状況は異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上


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