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作成年月日:2019年9月16日

海外情報プラス

海外情報-中国7月分

作成者:中国 上海 杉川 英哲
分野:人事・労務、危機管理、企業経営

人事制度の見直しによる経営効率の向上について

はじめに

中国では第3四半期も残すところあと数週間となりました。今期業績の落着が固まり、中期計画の見直しや来期計画への準備を開始する時期ですが、米中貿易摩擦や通貨問題など、環境要因による不確実性が高まるなか、各業界において中国ビジネスに携わる皆様が大変苦労されているかとお察しします。


人事制度と経営効率について

このような状況において、先日、ある日系企業の社長(総経理)より人事制度に関する各種の問題についてご相談がありました。中国国内において数千名の従業員を抱える大型企業です。 社長は日系大手企業グループから派遣された方で、10年以上の中国勤務経験があり、現職は2年目となるそうです。業績は大変好調ですが、この2年間の業務において「ルールでそうなっています」という従業員のコメントを何回も聞いており、歴代の社長が承認したルールに対し疑問を感じる点が多々あるとのことでした。 人事制度については、前任社長がその時々の状況を考慮し、董事会の承認も経て決定しており、管理面でのレベルは非常に高いということですが、ルールが経営効率の向上を妨げている面もあると考えられています。

人事制度に潜在する問題

人事制度に潜在している問題として、社長は以下の内容を挙げられています。

・幹部層の賃金と賞与が突出している。

・勤怠管理が人事の主要業務になっている。

・人事制度の新たな取り組みへの提案がない。

・拠点により人事制度の運用が異なり、公平性に欠けている。

・各種手当が実際の業務とリンクしていない。

・人事考課の根拠が有名無実化している。

・賞与が会社業績とリンクしていない。

・中堅層の流出(退職)リスクがある。

・複数の部門が給与計算に携わっている。

 

人事制度のあらゆる分野に問題が潜在していますが、現時点では表面化していないことがポイントです。これらの問題を集約すると地域、職層、評価、待遇面に絞ることができると言えるでしょう。

 

先ず、地域的な問題としては拠点ごとに業績と組織の成長に差異があり、本来は地域性を考慮した人事制度が必要になっているところ、各地域で共通した制度となっているため、実際の運用が不可能な内容が存在しています。地域ごとに法令が異なる状況においては、法令に基づく人事制度を実施すればよいのですが、地域による業績の差異を評価に関連付けることができていません。評価は地域拠点の業績ではなく、全社業績を基準に行っているそうです。良い業績を達成した拠点の従業員のモチベーションに影響することは明らかです。

 

次に職層的な問題です。社長自身は、会社の現在の成長は会社設立当初に入社した幹部層の努力の賜物であると認識していますが、幹部層の賃金と賞与が突出しすぎているようです。中堅層との差異が非常に大きくなれば、次世代を担う中堅層のモチベーションに影響し、退職者を招くリスクになっています。これは会社の成長スピードを鈍化させるばかりではなく、事業の持続性に直結する重要な問題です。

 

また、評価的な問題については、評価の根拠が曖昧であるばかりか、評価の根拠が存在していなかったことが最大の問題です。逆に、これだけ大きな日系企業が、これまでどのように根拠なしで昇給や賞与決定を実施してきたのか疑問です。社長はこの状況を問題視し、着任初年度からすぐに目標管理制度の考え方を導入しています。人事制度上は長年存在してきた評価ルールですが、実際には評価根拠がなく、ルールは有名無実化していたことになります。

 

待遇面では上述の職層的な問題が賞与を含む幹部層の年収として顕著に表れています。社長のお話しでは、幹部層の年収は給与20か月分相当に上り、実際の業績や業務責任、同業他社の水準とも合致していません。評価制度を実施せず、職層別に賞与基準をルール化していますが、業績を支える現在の中堅層がこの状況をどのように感じているかは容易に想像できます。社長からは幹部層の定着率は高いというお話しもありましたが、これは中堅層が退職してゆくという意味でしょう。

歴代社長と本社の責任

これらの人事制度上の問題は明らかに歴代の社長の責任です。同時に業績だけで現地法人の社長を評価してきた本社の責任でもあると言えるでしょう。歴代社長や本社が見て見ぬ振りをしてきた人事制度が、経営の効率化を目指す現社長の負担となっています。同時に社長の責任として最も重要と言える次世代幹部層の育成に対する制約になっており、企業の持続可能性を考えるうえでも重要な問題になっています。 解決の方向性としては、現在の人事制度が過渡期を迎えているという前提で、現幹部層の既存利益を保持しながら、段階的に制度を改訂してゆくことになると思われます。 業界や企業によって状況は異なりますが、ご参考にして頂ければと思います。

 

以 上