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インド

作成年月日:2009年9月2日

労働力の送出・受入れについて

5.1 関係法令及び制度の概要

 現在インドには、外国人労働者の招請に関する特定の法律は制定されていない。そのため、入国、居住、出国に関して制定されている1946年外国人法が外国人労働者にも適用される。就労目的でインドに入国を希望する外国人は就労ビザもしくは就労許可を海外のインド大使館、領事館に申請する。初めは1年間の就業許可が与えられ、その後契約期間に基づき就労許可が与えられる。インド国内で就労する技能外国人労働者の配偶者に対するビザに関する条項が近年注目されている。就労ビザによりインドに入国する外国人の配偶者はXビザを入手する必要がある。もし配偶者もインド国内で就労を開始する場合は、本国にいったん帰国し、就労ビザを入手しなければならない。
 インドから海外への労働者の送出を規定する法は、1923年移民法であり、インド国民の移住にかかわる法律を統合し、修正したものである。
 本法令は、法律内容を明確にするため下記の重要な定義がある。

  • “移民”とは、移住を意図する者、既に移住しているインド市民を意味する。これには移民の被扶養者は含まれない。また、18歳に達したのち、3年以上インド国外に居住していた者も含まれない。
  • “移住”とは、人材紹介会社介在の有無又は雇用主の支援の有無にかかわらず、就業を目的としてインド国外へ出国することをいう。
  • 雇用主とは、インド国外の国及び地域において雇用するか、もしくは雇用機会の提供を申し出る者すべてをいう。
  • 人材紹介会社とは、雇用主のために採用業務並びに採用された者、又は採用を希望する者との交渉を含む一切の事項に関して雇用主の代理人業務に従事する、インド国内在住の者をいう。
  • 採用業務には、採用を目的とする募集広告の実施、インド国外のあらゆる国、地域において雇用を確保、又は雇用の確保や支援に関して広告を通じて提供を申し出ることが含まれる。また、インド国外のあらゆる国、地域において、個人との通信、交渉、契約又は調整の実施も含まれる。
  • また、本法令には、中央政府による移住保護局長(Protector General of Emigrants)、1名及び数名の移民保護官(Protectors of Emigrants:POEs)の任命に関する規定がある。

移民保護官(POEs)は、移民保護局長の管理監督の下、次の職務を遂行する。

  • すべての移住希望者及び既に移住している者への助言による保護及び援助をする。
  • 本法のすべての条項、関連規則を遵守する。
  • 移住希望者の利用が予想される輸送機関(船舶等)を臨検する。
  • 移住国への移動、又は移住国に居住する間において移住者が受けた待遇及びインドへの帰国時の待遇に関する調査を行う。
  • インドに帰国した移住者への援助及び助言をする。

 人材紹介会社は、登録機関であるPOEsが発行する登録証に従わずに職業紹介の業務を行うことはできない。登録証は、人材紹介会社の財務面の健全性、信頼性、適切な事務所の確保及び人材送出取扱い経験を勘案して付与される。なお、人材紹介会社は銀行保証の形で30万~100万ルピー※1の保証金を預けることが要求される。この保証金は登録証の条件を正しく実行する保障及び、労働者の帰国費用にも充てられる。この登録証は一定の期間ごとに更新されなければならない。本法の規定及び本法の下での規則は、登録証の更新にも適用される。外国の雇用主は、本法の下で適格とされる人材紹介会社を通じるか、あるいは本法に基づき発行された正当な許可に従う場合を除き、インド国民をインド国外の国あるいは地域で採用することはできない。また、許可取得を希望する雇用主は、管轄当局に申請する。管轄当局は、申請者に保証の提供を含む所定の条件の遵守を要求することができる。
 POEは、次の理由により許可申請を却下することができる。

  • 申請者の提案する雇用条件が、差別的又は搾取的な場合。
  • インドの法律に照らして違法な性格を持つ業務を含む雇用。インドの公共政策に違反するか又は人間の尊厳及び品格を犯す雇用。
  • 申請者の経歴、財政状態、自由になる設備及び過去に当申請者に雇用された者の労働及び居住用件を考慮して、当申請者への許可証発行が公共の利益とならない場合。
  • 雇用主が、採用予定者に対し雇用を提供する国における状況を考慮した場合、就業を目的としてその国に移住することがインド国民の利益にならない場合。
※1
1ルピー=1.8833円(2009年9月2日)

 インド国民は、移住許可をPOEより取得しなければ移住できない。移住許可申請は、所定の項目を記載した規定様式が用いられる。移住許可申請は、移民者自身、人材紹介会社又はこの件に関与する雇用主を通じて行われる。移住許可申請書には、すべての雇用条件が含まれた雇用契約書の正本を添付しなければならない。また申請書には、申請者のインドへの帰還が必要になった場合の費用負担の保証規定を示す文書を添付しなければならない。移住許可を発行するにあたって、POEは賃金及び労働条件が搾取的ではなく、旅費、宿泊及び医療に対し適切な条項が備わっていることを確認するために、雇用契約条件を精査することが求められる。
 POEは下記を理由として申請を拒否することができる。

  • 雇用条件が差別的又搾取的である場合
  • インドの法律に照らし違法な性格を持つ労働に従事し、インドの公共政策に違反し、人としての尊厳と品格を損なう雇用
  • 申請者が非標準的な労働と居住条件で労働を行う場合
  • 申請者が就業を希望する当該国の状況、あるいは申請者が就業を希望する雇用主の前例が申請者の移住にとって利益にならないと判断される場合
  • もし、申請者がインドへの帰国が必要とされ、その際発生する費用について取りきめがなされていない場合

 中央政府は、インドの主権及び保全、インドの安全保障、インドとの友好関係又は公共の利益を考慮し、移住を禁止するに足る十分な根拠があると思われる国に対しては、告示の上、当該国への移住を禁止することができる。また、移住が許可され、移住者が移住先の国において病気の発生や深刻な環境汚染、戦争行為、内戦、暴動、政治的騒乱の勃発で移住者が生命の危機にさらされる重大なリスクがある場合、当該国への移住を不許可とすることができる。また、インドが当該国との外交関係を持たないために、移住者を差別、虐待、搾取等から保護できないとの理由から移住が不許可となる場合もある。人的資源の自由な移動を促進するために、現在、一定のカテゴリーに入る者は許可義務から免除され、ECNR(Emigration Check not Required:移民審査不要)カテゴリーに区分されている。中央政府は、外国との友好関係、外国雇用主の評判及び海外プロジェクトの遂行のため承認された企業又は公共事業体の実施方式が条件を満たしている場合、こうした外国雇用主あるいは公共事業体又は承認された企業に対し、本法の一部あるいはすべての条項の適用を免除することがある。ECR(Emigration Clearance Required)パスポートを所持するインド国民は、就業以外の目的でECR対象国を訪問する場合には移民許可を取得する必要はない。

5.2 労働力移動の規模

  1. 労働者の流入
     労働者の流入に関する公的データは見られないが、Hargue-based Permits財団の調べによると、5万人以上の高技能外国人が国内企業及び国内多国籍企業で働いていると推定される。また、ネパール開発研究所による1997年の調査で約75万人のネパール人がインド国内の民間部門で働いており、又25万人のネパール人が公共部門で働いていると推定している。

  2. 労働者の流出
     表5‐2は2003年から2007年間の就業のため外国に移住した労働者の総数を示す。当データは移民保護管により移住許可が与えられた数である。

    表5‐2 移住労働者数
    労働者数(万人)
    2003 46.6
    2004 47.5
    2005 54.9
    2006 67.7
    2007 80.9
    ※出典:
    Ministry of Overseas Indian Affairs, Govt. of India, “Annual Report 2007-08”.

5.3 労働力移動の要因

  1. 流入
     現状、インドへの労働者の流入はそれほど大きくない。インドの人材は量的、品質的に極めて安定しているため、外国からの流入は近隣諸国から非公式手段で一部行われているに過ぎない。極めて少数の高技能労働者がインド国内の多国籍企業が必要とする先端技術部門に流入している。

  2. 流出
     先進諸国への労働者の流出はインドの経済成長の重要な要素と受け止められている。政府の移住に対する戦略は首尾一貫した、自由でかつ漸進的な政策を発展させることですべての利害関係者を包括する移住政策で改革、及び最善の方策を実施することである。インド政府は、移住希望者が世界的規模で人口配当(労働力人口が増加し、経済成長を促す状態)の恩恵が得られる政策を積極的に策定している。海外雇用促進評議会(Councilor Promotion of Overseas Employment)がこのためのシンクタンクとして機能することが提案され、その役割は労働市場調査、国際労働市場における雇用機会を見極め、関係者に対し市場情報を提供し、不足技能を明確化し、その不足技能を適切に補うことを計画する。

5.4 送り出しの所管機関

  1. 在外インド人省(Ministry of Overseas Indian Affairs:MOIA)
     労働者の国際移住についてはMOIAが管轄する。同省が担当する主な機能は次のとおりである。
    1. PIO(Persons of Indian Origin:海外に在住する非インド国籍のインド人及びその子孫)及びNRI(Non-Resident Indians:海外在留インド人)からなる海外在住インド人にかかわるすべての案件。
    2. 「移民法1983年」の下、インドから海外への移民及び移民の帰還。
    3. 外務省と協議、連携し、海外在留インド人が集中する国において「在外インド人センター」の設置及び管理。
    4. 労働雇用省(Ministry of Labour and Employment)の同意の下、海外の技能熟練人材に対する要求に対応する職業及び技能訓練を提供する研修機関の設立。

     1983年移民法の下で、MOIAの移民保護管理局長が管轄する。同局長は、デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイ、チャンディガール、コーチン、ハイダラバード及びティルバナンタプラムの地方事務所を監督する。

  2. 移民保護管理局
     移民保護管理局は、外国での雇用を求めるインド国民の移住を管理する権限を有する。その主な機能は以下のとおりである。
    1. 最低雇用基準の設定及び雇用契約書の検証。
    2. 海外の職業斡旋システムの認可。
    3. 移住許可の付与。
    4. 移住に関する国民からの苦情処理。

     MOIAにおける移住政策部門は、インドからの労働者移住に関連するすべての政策案件を処理する。同部門は、移住管理の改善、法律改定の提案及び移住改革の実施のための政策立案の責任を持つ。

5.5 送出労働力の属性

5.5.1 受入国

 2007年の国別受入数を下記表5‐3に示す。

表5‐3 国別受入数(2007年、単位:万人)
インドからの移住労働者
アラブ首長国 31.3
サウジアラビア 19.5
マレーシア 3.1
カタール 8.8
オマーン 9.5
クエート 4.8
バーレン 3.0
ヨルダン 0.1
その他 0.8
合計 80.9
※出典:
Ministry of Overseas Indian Affairs, Govt. of India, “Annual Report 2007-08”.

 このデータは、実際に発給された移住許可を基にしているが、雇用のために海外に出国する多くの者は移住許可を必要とせず、不法移住も行われていることを考慮すると、このデータは完全なものではない。しかし、この情報によりかなり多数の未技能及び低技能労働者が各国に移住していることは明らかで、こうした移住がガルフ湾岸諸国に集中していることが見て取れる。2007年1月15日付エコノミック・タイムズ紙の「技能労働者市場」と題する報告では東南アジア、特にシンガポール、マレーシアがインド人移住者の重要な移住先に分類されている。また、2月5日付で同紙はドイツ、オランダ、フランスなど非英語圏ヨーロッパ諸国でインド人を労働力として求める声が高まっていると報じている。これらの多くの国々は世界中の技能労働者を引き入れるため、自国が多重なビジネス文化を持つ国であることを積極的に宣伝することに努めている。

5.5.2 職種

下記5‐4はインド移住者が従事する主な職種で種々の情報源から入手した。

表5‐4 インド移住労働者の国別、職種
インド移住者の主な職種
中東諸国 運転手、建設労働者、家庭使用人、大工、電気技師、整備工、 現場主任、石工、塗装工、配管工、溶接工、測量技師、料理人、機械工、機械操作員、仕立屋、事務職、医療専門技術者、会計士、エンジニア等専門労働者
米国、カナダ IT専門技術者、医師(専門医)、エンジニア、教師
ヨーロッパ IT専門技術者(英国、ドイツ、オランダ)、農業従事者(イタリア)、金融サービス、IT技術者、建築技師、科学技術関係(スコットランド)、金融サービス、IT技術者(ロシア)
北欧諸国 IT専門技術者(スウェーデン、フィンランド)、 科学技術分野での知識労働者(デンマーク)
東南アジア 家庭使用人、農園労働者、医師、IT専門技術者
オーストラリア、
ニュージーランド
情報通信技術者、医療サービス、教育
※出典:
Dr. B. A. Prakash, “Indian Migration to the Gulf”, Manorama Yearbook 2007.
※出典:
Binod Khadaria, “India: Skilled Labour Migration to Developed Countries; Labour Migration to Gulf”.
※出典:
Economic Times, “NZ to amend immigration laws to attract skilled labour”, 7 December 2006.
※出典:
Economic Times, “Skill Market place”, 15 January 2007.
※出典:
Economic Times, “Fast Train to Europe”, 5 February 2007.
※出典:
Economic Times, “The Global Indian Takeover”, 26 February 2007.

5.5.3 年齢

 インドからの移住労働者の年齢構成に関する総合的な統計は、いかなる情報源からも入手ができない。「インド人移住者のプロファイル:ケララ州及びパンジャーブ州の比較研究」とういう報告では、両州の移住者のほとんど、10人中9人、が、45歳以下の男性である。しかし、パンジャーブ州からの移住者は30歳以下が55%に対し、ケララ州は31%となっている。

5.5.4 技能水準

 2007年1月15日付エコノミック・タイムズ紙によれば、インドからの移住者の大部分は低技能及び半技能労働者であるが、一方で本国への送金などでインドの外貨獲得への最大の貢献者となっている。また、インド人技能熟練労働者及びホワイトカラー労働者は、全移住労働者のわずか20%を占めるにすぎない。在外インド人省(MOIA)の2007~08年度年次報告書では、中東諸国への移住労働者の大半は半熟練労働者及び未熟練労働者であり、2007年の海外在住労働者からの本国への送金額は270億ドルに達したとしている。
 MOIAは、移住政策を秩序あるものに改良することに積極的である。こうした改革は国内、二国間、多国間の面で政府の特別な介入を通じ移住者に力を与えることを求めている。新たな移住政策の策定、実施において同省は下記4点の基準に基づくべきであるとしている。

  1. 移住手続きの簡素化、透明化、有効化を進め、正当な移住を促進する。
  2. 無法な中間業者及び人身売買を行う業者に対し、法の制定により不法移住を積極的に防止する。
  3. 移住の実施において各関係部門間の能力を高める。
  4. 移住に対する二国間、多国間協力の強化を積極的に進める。

 潜在的移住者に対する技能向上計画及び出発前のオリエンテーションに関する計画は、既に始まっている。フィリピンなどの労働力送出成功例から倣い、受入国での福利(女性の労働規定など)を調整する「海外インド人センター」の創設を進めている。

5.6 送出労働力の技能水準の評価制度

 移住労働者の評価は受入国において実施されており、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国などではポイント制度が導入されている。ポイント制度は、学位、職業資格、語学力、保証人、職務経験、労働市場への貢献度などに応じて点数を付与し、合計が基準点数に達するか否かにより審査するものである。

5.7 受入れの所管機関

 インドへの労働者の流入に関し労働問題を担当する組織はないが、外務省及び各国の在インド大使館が外国人のビザ問題に関する法の準拠に責任を負っている。

5.8 受入労働力の属性

5.8.1 送出国

 インドへの労働者の送出元はネパール、ブータン、スリランカ、バングラデッシュなどの近隣諸国が中心で、高度の技能を持つ労働者は少数ながらヨーロッパ、米国、日本からが主である。

5.8.2 職種

 近隣諸国から流入している労働者は、家事手伝い、農業労働者、非熟練労働者など主として非組織部門の労働に従事している。先進国からの高技能労働者は各人の技能に関係する高技能分野の職業に従事している。

5.8.3 年齢

 近隣諸国からの移住労働者の中には極めて若い労働者がおり児童労働者と思われる者もいるが、年齢に関する明確なデータはない。

5.8.4 技能水準

 技能労働者は比較的中年であるが、年齢に関する明確なデータは存在しない。

5.9 受入労働力の技能水準の評価

 国内に居住する流入労働者の技能評価の組織化されたシステムは存在しない。これら流入労働者について国内労働者と同様の技能評価システムが実施されることが望まれている。

5.10 労働力送出・受入れに関する二国間・多国間協定

【主要な二国間・多国間協定】

  1. 2007年4月、労働、雇用及び人材育成に関する覚書が、在外インド人省(MOIA)によりクウェートとの間で調印された。この覚書では、クウェートにおけるインド人の雇用に関する協力関係の強化、インド人労働者の福利及び保護のための基準の設定、紛争解決のための共同作業部会の仕組みの提供、インフォーマルセクター及びクウェートの労働法が及ばない部分での労働者に関する懸念の表明が含まれている。2008年2月に開催された第1回会合では、共同作業部会が、クウェートにおけるインド人労働者の福利及び保護の向上のための雇用条件を規定する“雇用契約モデル”を採用している。
  2. 2007年6月、MOIAは、ポーランドとの間で同国における建設、道路工事及び農業分野でのインド人労働者の就業に関する協議を開始した。これは、在外インド人労働者の移住先国の分散化を図るMOIAの戦略の一部である。この協議の焦点は、インドからの合法的労働力移動における協力関係を強化するための適切な二国間の手段を検討することであった。
  3. 2007年7月、インドからEU諸国の一部の国に対する合法的移住及び移住者管理を実施する覚書が国際移民機構と締結された。この覚書ではEU加盟諸国内における就業機会の増大を基に合法的な移住、移住者管理と情報を広める能力の強化を行う。
  4. 2007年11月、既存の協定に対するインド人労働者の規定、保護及び福利に関する追加の協約が、カタールとの間に調印された。協約では、紛争解決のための実効性のある両国合同協議委員会の提供のほかに、インフォーマルセクターにおける労働者も協定の対象となった。
  5. 米国との間でMOIAは、相互の国で就業する両国国民の利便のため、社会保障に関する協力促進のためのアプローチについての協議を開始している。
  6. MOIAは、ドイツとも社会保険に関する協定の交渉をしている。協定では、他国で就業している労働者は60カ月を限度として、就業先国への社会保障費用の支払免除措置が図られる。
  7. カタールとの協定では、契約期限前に帰国した場合の賃金全額支払い及びその他の権利の提供、非組織部門における労働者の福利確保のための骨子が規定されている。
  8. インドとベルギーとの協定では、60カ月までの短期契約で就労するインド人のベルギーにおける社会保障費の支払いが免除されている。ベルギーにおいて60カ月以上就業し、社会保障費を負担する場合、インドへの帰国時にその給付金の移転の権利が付与される。
  9. 米国は、インド人による米国での社会保障費支払分を必要年数分働かずに帰国した場合でも返還する協定をインドとの間で検討中である。
  10. インドとポーランドは、労働者移住を管理する覚書に調印予定である。
  11. MOIAとIOMとの間で、「アジアとEU間における管理・合法移住を促進するためのプログラム及び地域対話」と呼ばれるプロジェクト実施のための覚書が調印された。当プロジェクトはEUが支援しており、インドを含むアジア10カ国及び欧州の5カ国が参加している。既に実施段階にある当プロジェクトは、移住管理者への能力強化の機会を提供し、欧州諸国における外国人労働者市場の開発及び賃金連鎖におけるインド人労働者の格上げを図るものである。当プロジェクトの最も重要な成果は、移住者資源センターの設立、国ごとの技能の概略、技能証明に関する報告、プロジェクトに参加するEU諸国におけるインド人労働者の試験的採用及びすべての利害関係者に対する知識、態度を基礎とした情報の提供、実施状況の調査となる。

 労働移住に関する多国間枠組みについては、国際労働機関(International Labour Organization:ILO)が策定したものがある。この枠組みは、「労働者移住に関するILO多国間枠組み:労働者移住に対する権利を基本としたアプローチのための非拘束的な原則及び指針」として知られている。この枠組みは、労働市場のニーズ、自国の移住政策決定する国家の権利、国際労働基準やその他の手段を広範に適用するための適切な行動を考慮したものである。また、国際的労働移住政策の発展、強化、実施に関して、政府、雇用者及び労働者の組織に対して実務的な指針を提供することを企図している。またこの枠組みには、特定の指針に関して最良の取り組みを導入している国の実例も含まれている。この枠組みの鍵となる規定は以下のとおりである。

  1. ディーセント・ワーク
     移住労働者を含む労働年齢にあるすべての男性及び女性は、自由、公平、安全、人間の尊厳の条件下、ディーセントかつ生産的な仕事を得る機会が促進されるべきである。ILOのディーセント・ワーク提言は、すべての人々に対し自由に選択された雇用、職場での基本的権利の認識、基礎的、経済的、社会的な家族のニーズ、責務、労働者及びその家族の社会的保護の適切な水準を満たす収入の手段を促進する。
  2. 労働移転に関する国際協力の方法
     政府は、雇用者及び労働者の組織との協議を通じ、雇用を目的とする管理移住を促進するため、国際的な協力に関与するべきである。政府、雇用者及び労働者の組織は、労働移住政策の一貫性を促進するため、国際的及び地域レベルでILOと協力するべきである。労働者移住に関する非拘束的ILO多国間枠組みを基礎とした労働移住に関する協調的アプローチの発展を視野に入れ、ILOは他の関連する国際機関との協議を促進するべきである。
  3. 世界的な知識データベース
     知識及び情報は、労働移住にかかわる政策及び実践の立案、実施、評価のために重要である。したがって、その収集及び活用には優先的順位が与えられるべきである。
  4. 労働力移転の効果的管理
     すべての国家は、労働移住管理のための独自の政策を展開する国家主権を有する。国際的労働基準及びその他の国際的手段及び指針は、各国の労働移住政策が調和的、効果的かつ公正なものとなるため、それぞれに見合った形で重要な役割を果たすべきである。通常の労働移住拡大に関しては、労働市場のニーズ及び人口変動の傾向を勘案し、検討されるべきである。社会的対話が健全な労働移住政策の発展に必須であり、推進かつ実践されなければならない。政府及び社会的パートナーは、労働移住政策に関して一般市民社会及び移住関連団体と協議をするべきである。
  5. 移住労働者の保護
     すべての移住労働者の人権は、その地位にかかわらず促進され、保護されなければならない。特にすべての移住労働者は1998年のILOの「労働における基本的原則、権利宣言」及び第8回ILO協定と関係する国連の人権会議において反映された補足事項における原則及び権利を基に利益が享受されるべきである。別段規定がない限り、すべての国際労働基準は移住労働者に適用される。移住労働者及び移住労働者の保護に関する各国国内の法令諸規則は、該当する国際労働基準及び他の該当する国際的及び地域的手段の指針に従うべきである。
     移住労働者の保護には、国際法に基づいた適切な法的基盤が要求される。移住労働者の保護にかかわる国内法及び国内政策の立案において政府は、特に通常の状況における自国民、移住労働者間の公平な扱い、すべての移住労働者保護の最低基準に関して、1949年移民労働者条約(改定)(第97号)、1975年移民労働者条約(補足規定)(第143号)及びそれらに付随する第86号及び151号勧告を指針とするべきである。また、1990年の「すべての移住労働者及びその家族の権利の保護に関する国際条約」に含まれる原則も、考慮に入れるべきである。
     国内法及び国内政策は、雇用、労働監督、社会保障、母性保護、賃金保護、労働安全衛生の分野、農業、建設、ホテル、レストラン分野において、該当するほかのILO基準による指針に従うべきである。特に該当すると考えられるのは、1925年均等待遇(災害補償)条約(第19号)、1947年労働監督条約(第81号)、労働条項(公的契約)である。すべての移住労働者の権利は、国際労働基準及び該当する地域的手段に基づいた国内法及び諸規則の効果的な適用及び執行により保護されるべきである。
  6. 虐待的移住慣行の防止及び保護
     政府は社会的パートナーと協議し、虐待的慣行、移住者の密輸及び人身売買を防止する手段の策定及び実施を図らなければならない。また政府は、変則的な労働者移住の防止へ向けた取り組みを行うべきである。特に、労働移住の計画、準備、移動、到着、受入、帰国及び復帰といった移住のすべての段階において移住労働者を指導する、規則的かつ公正な労働移住手続きが送出国と受入国の双方で推進されるべきである。
     送出国と受入国双方の政府は、1997年民間人材紹介事業所条約(第181号)及び勧告(第188号)にしたがって、移住労働者のための民間人材紹介サービスに対する認可及び監督に関して十分な配慮を行うべきである。
     政府及び社会的パートナーは、文化的多様性を尊重しつつ移住労働者への差別を防止し、人種差別、外国人に対する恐怖あるいは嫌悪と闘う方策を取りながら社会的融合、一体性の促進を図るべきである。労働移住の雇用、経済成長、発展及び貧困の軽減への貢献は、認識されかつ送出国と受入国双方の利益のために最大化されなければならない。

5.11 送出労働力の技能水準に関する二国間・多国間協定

 前述の労働移住に関するILOの多国間枠組みには、送出労働者の技能水準の評価に関する規定は含まれていない。また、送出労働者の技能水準評価に関する二国間協定も存在しない。ただし、新たなILOの「地域技能及び雇用可能性プログラム」(SKILLS-AP)を通じての「アジア・大洋州における技能開発に関する協力の枠組み」が存在している。このプログラムの下、加盟国間で相互技能証明に関し、いくつかの情報交換が実施されている。

  • 技能及び資格に関する相互認定の達成
  • 国家資格の枠組みの開発方法
  • 地域的能力基準(アジア)
  • 訓練、認定及び資格の相互認定に関する国際的な指標
  • 訓練提供者及び獲得した資格の品質保証

5.12 労働力移動の問題点

  1. 送出労働者
     中東へのインド人移住労働者に対する問題は下記のとおりである。
    1. 施設の不十分性
       低賃金の移民労働者は狭い居住地に追い込まれ、施設が不十分であることが多い。人材紹介会社が、雇用主と共謀して無知な求職者を欺く不幸なケースもしばしば見られる。例えば、一般的慣習として、労働者が空港到着時に雇用主に旅行書類(パスポート等)を引き渡すよう要求され、これらの旅行書類が雇用主の管理下に置かれることで雇用主が労働者を不当に支配する力を持ち、雇用条件が無視されたり、変更されたりする。
    2. 中東諸国への移民労働者が直面しやすい問題
      1. 労働契約書に記載された賃金及び手当が否認され、技能労働者が低賃金で非技能労働者の仕事を強制させられる
      2. ビザ取得の保証人となりながら、雇用主が空港に移住者を出迎えず、移住労働者に不当な苦痛を与える
      3. 賃金の不払い、遅延(特に契約期間終了が間近の場合に発生する)
      4. わずかな給与の中から労働許可手数料を差し引く
      5. 認められている1日8時間以上の長時間労働の強制
      6. 正当な超過勤務手当の不払い
      7. 居住地から作業場までの移動手段が貧弱で不十分
      8. 2年経過後のインドへの帰国航空運賃の不払い
      9. 労働裁判所へのアクセスの制限
      10. 料理人、メイドとして雇用されたインド人女性に対する不当な扱い
    3. パスポートの返却拒否
       労働者が雇用主の同意を得ずに就業先を変える場合、雇用主が労働者へのパスポートの返却を拒否し、結果的に労働者が不法移民となることを強いられることがある。

  2. 受入労働者
     インドに移住する労働者の最大の問題は、インド文化への同化の問題である。また、労働者の中には非合法活動を行う者が含まれているかもしれず、近隣諸国から労働者が大量に流入することに対して治安面での懸念もある。

参考文献

  1. Bureau of Immigration India, Ministry of Home Affairs. (n.d.). Instructions for foreigners coming to India.
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    Expat better half comes off worse in work-visa-law.

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