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シンガポール

作成年月日:2009年10月29日

職業能力基準、職業能力評価制度

4.1 職業能力基準

 雇用訓練庁(Workforce Development Agency:WDA)は、労働者技能資格(Workforce Skills Qualifications:WSQ)を2005年に設立した。その目的は、継続教育訓練(Continuing Education and Training:CET)により人材開発及び技術形成を支援することである。WSQは技術形成戦略であって、特定の産業と職業に関する職業能力基準及び一般的な就業能力技術を職業訓練に結び付け、CETによって得られる資格が確実に認知されるようにするものである。WSQは成人労働者を対象とする。成人労働者は広範囲の訓練を受け、認可証明や資格を得て、就業能力や産業や職業に適した技術を高め、企業の価値を増し、変化の激しい今日の経済環境において競争力の維持を目指す。WSQはまた、労働者にキャリア向上の機会と明確な進路を与えるものである。2007年までに、WDAは10の産業のために12の枠組みと147の資格を作っている。

4.1.1 制度概要

 労働者技能資格(WSQ)は国の運営する資格認定制度で、労働者を認定、評価、訓練、育成し、就業能力を維持、向上させるものである。WSQは一連のキャリア向上進路を設定し、労働者が技術を高めキャリアプランを立てる手助けをする。カリキュラムは学力主体ではなく実務能力主体である。WSQの諸プログラムは正式の資格を要せず、すべての労働者にとって極めて利用しやすくなっている。WSQの実務能力主体訓練プログラムの基になっているのは、研修生の基準に対応した能力、特定の技術の熟練度と知識である。このプログラムでは例えばロールプレイングのような評価作業を通して進級させる。実務能力主体の訓練プログラムでは、各特定産業で求められる能力を注意深く選択し、知識や技術を評価し、能力が身に付いた場合、参加者は次のレベルへ進むことが許される。また、これら実務能力主体の訓練プログラムは弾力的な訓練方法を用いている。例えば、ロールプレイング、グループ討論、訓練コースに関するフィードバックといった大人数方式、又は少人数グループ活動により受講者が大いに参加できるのである。自らの決定や行為に対する所有者意識が生まれる結果、参加者は開発の主導、決定、資源をコントロールし、影響を及ぼすことになる。
 この実務能力主体訓練プログラムは、また、完全習得学習の教授方法を用いており、すべての参加者は十分な時間と適切な訓練方法により1つの技術あるいは知識を習得できるのである。訓練が十分完了したか否か確認するに当たり2つの評価方法がある。その第1は基準に基づいた評価である。この場合、学習者は一定の明確に定められた基準に照らし合わせて評価される。その第2は証拠に基づいた評価である。この場合、学習者が研修によって一定レベルの能力を習得したという証拠を集めて評価が下される。
 WSQの能力主体訓練プログラムの利点は、労働者がその特定の職務に要求される能力を確実に身に付け、能力習得時や大きな成果がある場合は自信が高まり、労働者が技術を職場に移転できることである。WSQの主目的は、継続教育による諸資格と就業前訓練(pre-employment training:PET)のない産業に高度な専門能力をもたらし、ギャップを埋め労働市場の柔軟性と技術の移動性を改善し、成長産業における技術の転換と企業間の移動を可能にし、労働者が自らの技術レベルを比較判定する基準を確立できるようにすることである。WSQは4つの基本原則に基づき成り立っている。

  1. 権威
     労働者は自らの技術がその産業において通用し、認められているという自信と保証を得る。
  2. 受けやすさ
     技術向上のための訓練は利用しやすく構築されている。成人労働者がWSQに受け入れられるためには学歴資格は不要である。現有の仕事経験、信任状、それに現有の技術が認められればよい。
  3. 適合性
     訓練が産業と雇用者のニーズに適合し、研修生が職を見つけ、維持するために就業能力を身につけることが極めて重要である。
  4. 昇進
     研修によって得た技術が労働者のキャリアアップと各分野での卓越を可能にする。

 WSQシステムは全産業を通し、すべての職業レベルに対して3段階の技術群を設定している。最下層に位置するのが一般的技術群で全産業を通してすべての労働者に当てはまるものである。中間に位置するのが産業群別技術群で、1つの産業群内で共通して有用なものである。最上層になるのが特定職業上の技術群である。これら3つの技術群がWSQの枠組みの基となり、作業、監督、経営管理各レベルの労働者の訓練に資するのである。

図4‐1 WSQによる3段階の技術群
図4‐1 WSQによる3段階の技術群

※出典:
Singapore Workforce Skills Qualification,
http://app2.wda.gov.sg/wsq/Contents/
Contents.aspx?ContId=934

 WSQのシステムは12の枠組みから構成されている。各枠組みは能力基準、カリキュラム訓練、評価ガイド、資格書類、それに能力マップから成り立っている。この12の枠組みは、2つの主なカテゴリーに分けることができる。1つは一般技能・技術の枠組み、もう1つは産業別の独自の技能・技術の枠組みである。一般技能・技術の枠組みは、就業能力技能制度(Employability Skills System:ESS)とサービス優秀WSQから成り立っている。ESSは職場における識字能力と計算能力(WPLN)、職場における職務上の技術(WPS)から成り立っており、職場にとって必要不可欠な技術である。サービス優秀WSQはすべての産業に共通して当てはまるサービス・レベル上の能力、特に経営レベルのサービス能力である。また、もう1つの産業別独自の技能・技術の枠組みは、地域及び社会サービスWSQ、金融WSQあるいは金融業能力基準(FICS)、飲食サービスと調理能力にかかわるWSQ、情報通信WSQ又は情報通信技術専門家のための国家情報通信能力枠組み(NICF)、園芸・造園産業におけるすべてのレベルのプロのための造園WSQ、精密工学WSQ、小売業WSQ、警備保障WSQ、宿泊サービス分野にかかわる旅行業WSQ、旅行業、温泉・健康増進WSQ及びWSQ制度のかかわる全産業のトレーナー、評価者、カリキュラム開発者といった人材の訓練と養成のための訓練WSQを含む。
 なお、現在整備中の他の枠組みには次のものがある。一般技能・技術の枠組みカテゴリーである、職場の健康安全専門家WSQ、職場の健康・安全職WSQ、航空宇宙WSQ、製造一般WSQ、プロセス工学WSQ、林業WSQ、創造分野WSQ、人材及び指導者WSQ、及び温泉・健康増進WSQ(旅行業WSQに属する)である。

4.1.2 整備状況

 雇用訓練庁(WDA)は産業界の指導者達と協力して有用な資格認定のシステムを構築する。労働者技能資格(WSQ)は、各産業の関係者を動かし産業技術及び訓練協議会を設立、技術基準、評価戦略、訓練カリキュラムの作成、検証を行う。同評議会は諸訓練機関、労働組合、業界諸団体と雇用者から成り立っている。評議会の目的は第1に、産業能力マップを作り、産業界のニーズに応えられる適切な諸技術を特定することである。これら技術は就業能力、職業能力技術、産業に適した技術及び知識に分けられる。第2に、評議会は能力基準とカリキュラムを作り、特定の職務に必要な技術、知識、それに態度をリストにし、良好な職務遂行レベルの基準にする。このカリキュラムは、さらに訓練プログラムと評価計画を設計するための青写真と指針になる。第3に、評議会はキャリアを基にした訓練、進路向上、技術を認めてもらうために必要な技能・技術の資格を把握している。
 WSQシステムの開発は以下の7つのステップを踏む。

  1. 産業及び人材ニーズの分析の実施
     経済諸官庁と産業界の先導的企業・組織と協力のもと研究が行われ、必要とされる技術、労働需要、グローバル競争を指し示す産業成長傾向を特定する。
  2. 産業の発展分野の調査と特定
     優先分野あるいは重大な技術格差を特定し、WSQの産業枠組みに起こる結果を予測する。ここで産業界の利害関係者が発展を可能にする枠組み計画に同意、支持することが極めて重要である。
  3. 人的技術及び訓練協議会(Manpower Skills and Training Council:MSTC)の設置
     MSTCは種々の産業の企業と組織の上級管理職から構成されている。これら管理職は大企業、中小企業、諸団体、労働組合及び経済諸官庁の代表者である。MSTCの役割はWSQの枠組みを構築し、該産業分野の人材、技術ニーズ、労働力養成計画、WSQの開発、実行を含む産業維持、変換戦略にインプットすることである。
  4. コンピテンシー※1基準(Competency Standards:CS)と産業別枠組みの検証と承認
     能力マップは以下の枠組みから成り立っている。すなわち、産業枠組み資格書類、能力基準、カリキュラム、訓練及び評価ガイドである。これら枠組みは基準評価報告と共に、協議会による検証、承認を必要とする。
    ※1
    コンピテンシーとは、職務の内容や仕事の役割に対して期待される成果を導く上での行動特性をいう。詳細は4.2(1)に記載。
  5. CSと産業別枠組みの早期導入者と優良提供者による実施
     早期導入者は組織内、と外の訓練提供者を含む。優良提供者はWDAから資金提供を受けている訓練機関で、訓練と就職斡旋を行う。このことにより、正式に産業に導入される前に枠組みの改善が可能となる。
  6. 訓練提供者の能力開発
     能力開発のための介入には訓練提供者との一対一の相談、ガイドブックの出版、セミナーやフォーラムの開催、年次継続改善見直し期間中に強みや改良点を特定することが含まれている。
  7. CSと産業の枠組みの継続的な見直し、評価を行うこと
     このことが枠組みを継続的に改良増強し、業界のニーズを確認し適切性を確実にするのである。

図4‐2 WSQシステム開発のための7つのステップ
図4‐2 WSQシステム開発のための7つのステップ

※出典:
Singapore Workforce Development Agency, http://app2.wda.gov.sg/data/ImgCont/487/
SupplementaryGuideforACTACU2007v1.pdf

4.2 職業能力評価・資格制度及び実施状況

  1. 職業能力評価
     コンピテンシーとは、特定の職務や機能を適切な知識と手腕・態度をもって遂行する能力を指す。コンピテンシーには習熟した手腕や知識を新しい状況又は環境に異動する能力も含まれる。

    図4‐3 コンピテンシーとは
    図4‐3 コンピテンシーとは

     コンピテンシー基準(CS)とは、職場におけるさまざまな立場や役割の人々に期待される能力、知識、態度・行動についての評価基準である。CSは訓練と評価用のカリキュラムに結び付ける必要がある。CSを構成する諸要素がCSの対象となる産業を特定する労働者技能資格(WSQ)枠組みである。これら諸要素は以下のとおりである。
    • コンピテンシーのある機能を記述する、コンピテンシーカテゴリー
    • コンピテンシーを簡単に特定する方法である、コンピテンシー単元コード
    • コンピテンシー単元タイトル
    • 特定の仕事上の役割、職務、機能を説明し、証明に認められた最小限の技術、知識、能力のセットである、コンピテンシー単位
    • CS全体を要約する、コンピテンシー記述子
    • ベンチマークとなるに値する、コンピテンシーレベル
    • コンピテンシー単元に与えられるWSQ単位システムに基づく単位数
    • 遂行基準と期待される成果、職務遂行能力ありとする範囲と内容
    • 学習者が習得しなければならない知識の裏打ち
    • 能力の質を証明する証拠

  2. 資格制度
     技術基準と訓練モジュールを含むWSQに認定された国家公認の資格が7つある。すなわち、卒業学位、卒業証明書、専門家学位、学位・専門家学位、上級証明書、高等証明書及び証明書である。
     卒業学位、卒業証明書の保持者は、プロセスと結果に高度の自律性が与えられる組織・資源管理といった自主的かつ戦略的思考・判断を要する専門的職務活動で学んだ技術、知識を実際に応用できる。
     専門家学位保持者は、複雑な技術、専門的職務、特に最小限の監督とある程度の自律性を要する組織・資源の管理といった予測の難しい職務状況に適した技量を持っている。また、戦略的思考と判断を通して最新の事態進展状況を理解できる。
     学位・専門家学位保持者は、高レベルの技術的、専門的職務活動に応用できる技量と理論的概念、知識を有している。専門家学位保持者は、最小限の監督のもと、個人的説明責任を果たし、自主性を発揮することを学んでいる。
     上級証明書を持つ労働者は、他の労働者の指導、計画立案、人員配分のような複雑で決まりきらない職務活動をする能力を持っている。それらの職務は一般的監督とある程度の抽象的かつ理論的手続き上の知識を必要とする。
     高等証明書を有する者は、上級証明書と類似のレベルの技量ではあるが、より難しく、非日常的で複雑な職務につき、適切な判断と推論がしばしば必要な第一線の監督者に適しており、人間関係の知識を持ち理解するものである。
     証明書レベルの労働者は、初歩レベルの基礎的、操作的仕事のような定型的、安定的、かつ予測可能な仕事をする。基礎的理解力を有し、知識は実地経験から得られたものである。緊密な監督と明快な指示が必要である。

  3. 実施の現状
     例えば、以下が小売業界におけるコンピテンシー基準の一例である。
    コンピテンシーのカテゴリーはマーチャンダイジング、マーケティング、販売、顧客サービス、店舗運営それに支援サービスを含む。カテゴリーごとに、一連のコンピテンシー単元がある。マーチャンダイジングとマーケティングの場合、コンピテンシー単元は、商品仕入れ、展示の調整、マーケティングと販売促進支援を含む。コンピテンシー単元ごとに一連のコンピテンシー要素がある。これら要素は、市場、製品、供給の分析、製品群の計画立案、供給業者との関係確立を含む。

     コンピテンシー基準(CS)は、法的、産業界、企業の必要に加えて、企業や業界の職務要件を満たす必要がある。

    【小売業界の事例】
     男性ファッションブティック会社の人材開発・教育マネジャーは、新しいグループのファッションマーチャンダイザーを育てるに当たり、能力基準を企業のニーズに適合させる必要がある。コンピテンシーのカテゴリーはマーチャンダイジングとマーケティング、コンピテンシー単元は購買、さらに細かいコンピテンシー要素は市場、製品、供給業者の分析に重点を置くと、男性購買者のファッション市場と男性ファッション衣料の潜在供給業者を分析することが妥当である。企業ニーズに適合させることは重要である。それにより、法的(消費者保護法、環境・公衆衛生法)、産業界の(関連実践規約、職場安全衛生法)、組織の(組織の政策と手続き、健康と安全のガイドライン、標準操作手続き)必要要件に適合する。

  4. 資格取得方法
     WSQ資格を取得して技能向上と技能転換するためには、2つの方法がある。訓練と評価、もしくは評価のみの方法である。

    図4‐4 WSQ資格取得方法
    図4‐4 WSQ資格取得方法

    ※出典:
    Singapore Workforce Development Agency,
    http://app2.wda.gov.sg/data/ImgCont/487/
    SupplementaryGuideforACTACU2007v1.pdf

    1. 訓練と評価
       訓練と評価の進路は、在職者に新しい技能を身に付け成長させることを意図している。訓練は職場内あるいは職場外で受け、訓練後、労働者はWDAによって評価される。訓練には3つの方法がある。
      1. 教室での座学
         この形が最も一般的である。この訓練プログラムはスケジュールどおりに講義があるが、双方向的で学生中心のやり方をしている。ワークシート、操作道具、パワーポイント・スライドのような多種類の学習、授業道具がある。
      2. オンライン学習
         教室内授業と類似しているが受講者はマイペースで学ぶことができる。学習者は事前準備し、コース始業前に資料やCDのような教材を受け取る必要がある。オンライン学習のガイドとして取扱説明書も与えられる。
      3. 実地訓練
         実地訓練では通常の作業で使われる実際の道具、機器、書類、材料が提供される。これは職業としての仕事に極めて実効的である。

       訓練進路では2つの評価が行われる。第1の方法は推進役付き学習で、労働者は目標設定と評価といった自分の仕事のすべての局面に大いにかかわる。推進役は「付き添いガイド」として行動し教材を与え、支援をする。第2の方法は、職場評価を通す方法である。職場評価では実際の労働環境で、実際に労働する状態で評価する。職務遂行能力の評価に当たって、この方法は極めて実際的で有効である。
    2. 評価のみ
       既に経験を積み有能な労働者で、自らの能力の証拠を持ち、その能力の証明書を希望する場合の進路である。評価はAOP実施機関と呼ばれる専用の評価センターで行われる。AOP実施機関ではチャレンジ・テストを行い、受験者の持つ能力とその能力が業界の事前に決めた職務遂行能力基準とどのように合致するかを評価する。
       事前学習の認定(Recognition of Prior Learning:RPL)は労働者の能力と知識、仕事あるいは人生経験を訓練前に認めるので、受講者は経験のある科目について単位を請求できる。その経験を証明するのは書類、第三者の報告、ビデオによる記録、証明書、レジュメ、訓練評価書、訓練記録である。

4.2.1 制度概要

 労働者技能資格(WSQ)の主な受益者は雇用者、労働者それに訓練実施機関である。雇用者にとってWSQは最良事例の基準になり、職務記述書整備の指針となり、業績管理システムと訓練計画を改善し、従業員のキャリアパスを確立し、訓練ニーズ分析の手引きとなり、有能なスタッフの採用を容易にし、従業員の能力評価を可能にしてくれる。 労働者にとってWSQはキャリアパスの計画に役立ち、技能を高め、能力を明確に記述し、移動可能な能力証明書を作り、既定の職務基準に照らした能力評価をし、職場の最良事例を支持、推進するものである。訓練実施機関にとってWSQは明確かつ適切な訓練結果をもたらし、訓練の質を保証する。

4.2.2 評価の実施状況

  1. WSQの活用による労働者の学習と養成
     労働者の学習と養成にWSQの枠組みが用いられている。この枠組みは訓練ニーズを特定し、訓練効果を評価するツールになっており、その結果、労働者がその職務範囲内で適任者となるのに役立っている。これは採用の時から雇用期間中可能である。この目的のため以下のステップが取られる。
    • 労働者の能力と知識が産業・職業基準に達していない領域を評価し特定する。
    • 労働者の能力や知識のギャップを埋めるために必要な訓練のタイプを特定する。
    • 労働者に関連した訓練を実施する。
    • 訓練が労働者に有効か検討するため、訓練後に評価を実施する。

  2. 能力プロフィールへの活用
     WSQの枠組みを使って労働者の仕事ぶりを測り能力のレベルを決める。これにより雇用者は労働者が必要産業基準に到達していない分野を特定し、労働者に個別の適切な訓練を処方することができる。これで学習過程を加速し不要な訓練コストを減少させ、その結果、雇用者はすべての従業員を訓練に送り出さなくて済む。訓練後、雇用者は訓練の有効性を評価、検査する必要がある。WSQ枠組みはまた、キャリア開発と発展用の能力プロフィール作成にも使われる。人材部(Human Resource Development:HRD)あるいは訓練開発部(Training and Development Department:TDD)は組織内の異なった職務上の役割ごとに能力プロフィールを用意する。プロフィールを用意するに当たり、組織全体に必要とされる能力、労働者の一般的役割、さらに労働者の機能的あるいは職務上の役割を特定しなければならない。これらの能力プロフィールを使って労働者のキャリア開発を進めることができるのである。
     例えば、旅行代理会社の人事マネジャーには旅行案内人の能力プロフィールを作成する責任がある。人事マネジャーは、最初に、旅行案内人の職業と職務分析、2番目に、WSQの旅行業能力基準に基づいた旅行案内人の現在の能力レベルマップを作り、そして3番目に、マップを用いた能力プロフィールを作成しなくてはならない。

    表4‐1  旅行案内人の能力プロフィールの例
    職務範囲:旅行プログラムの業務実行
    職務記述:
    ・旅行客の出迎えと登録、必要な認識票の発行/安全具の配布
    ・旅行客の案内と他の情報提供
    ・旅行客の用事の世話
    コンピテンシー単位 旅行客への情報提供
    コンピテンシー要素 旅行客の道案内
    旅行客グル−プの手助け
    土台となる知識
    • 現在位置から目的地への明瞭な道案内提供の重要性
    • 場所の知識
    • 地域の知識
    • コミュニケーション能力
    • グループのニーズに気づくことの重要さ
    • グループのための情報の取りまとめの重要さ
    • グループリーダーと協力して情報サービスを扱うことの重要さ
    • 旅行客の要求を見つけ出す。(例えば自由回答式質問法で)
    職務遂行基準
    • 現在位置から目的地への最も直接のルートを見つける
    • 明瞭簡潔な案内の提供。例えば:
      ‐目的地へのルートの口頭説明
      ‐場所又は地域地図を使って現在位置を確認
      ‐地図上で目的地を指し示す
      ‐場所又は地域地図上に目的地へのルートをマークする
    • 旅行客が目的地への道順を理解していることを確認 口頭説明の繰り返し等
    • 目的地へのルート上の目印を教える
    • 旅行客に必要に応じて使えるよう場所又は地域地図を渡す
    • グループリーダーと情報サービスを調整/ツアーの調整
    • 以下を含む事前手配の確認
      ‐グループ用の事前購入券
      ‐特別なツアーあるいはプログラム
      ‐訪問場所での食事の特定着席時間
      ‐特別な必要事項、例えば車椅子の賃貸
    • 訪問地に関する資料をグループリーダーに提供
      (地図、パンフレット、スコア・カード等)
    • 個々の情報要求に対応
    ※出典:
    Singapore Workforce Development Agency,
    http://app2.wda.gov.sg/data/ImgCont/487/
    SupplementaryGuideforACTACU2007v1.pdf

     人事マネジャーは能力プロフィールを利用して旅行案内人の現在の能力レベルを評価、昇級の場合次のレベルに必要な能力があるか調べ、キャリア上昇に役立つ訓練プログラムのことを話し合い、研修後、次のレベルへ進む能力があるか観察する。

  3. 組織内の品質保証への活用
     WSQの枠組みは組織内の品質保証にも利用される。この枠組みはキャリア開発、訓練進路、国で認定された資格ですべての産業の能力マップをフルにカバーしている。この枠組みはまた個々の仕事や仕事のグループに求められる、一般的な就業能力や特定の職業上の能力も対象にしている。企業の品質が産業の基準に同調している。この枠組みを通した品質保証の努力により組織の実践活動や政策が更新され産業基準に合致し、産業基準に照らし合わせた労働者の継続的実績評価、労働者への助言、再訓練につながっている。品質保証は継続教育と訓練推進の信頼性と成功の支えになっている。品質保証は能力開発と継続改善の原則に基いて発展した。能力開発推進活動には、WSQ関係者のための実際的指導書の出版、訓練・評価の上級証明書(Advanced Certificate in Training Assessment:ACTA)の発行、WSQ関係者のための開発プログラムの計画と体系化、実践者をWSQの最新の状態に再教育するためのフォーラム、ローカル関連専門家の能力基準開発とカリキュラム開発者への養成がある。

     品質保証システム2段階のプロセスである。
    1. 第1段階:実施前認定
       この認定はコース及び組織監査に必須である。認定コースはWSQの産業基準が設定した能力基準の必要事項を満たし、信頼のおける組織によって提供される。これらコース提供者は認定訓練実施機関(Approved Training Organization:ATO)として知られるが、2つの認定基準を満たさなければならない。1つはコース基準で、コース提供組織のカリキュラム開発能力を判断し、WSQの能力条件に則っているか評価する。もう1つは組織基準で、組織が訓練と評価を実施するに当たって品質と専門家気質があるか実際の仕事ぶりを調べる。

    2. 第2段階:実施後認定もしくは継続的改善見直し
       これにより訓練の有効性、受講した従業員が満足するような効果と成果があったかが監査される。認定ATOの役割は、実施に当たって訓練と評価の実施基準を維持し、設計と実施の品質を上げることである。内部品質保証システムは定期的に認証される。

4.3 相互認証

 WSQは、WSQの能力基準のどれでも1つ、必要条件を満たした労働者に達成賞(Statement of Attainment:SOA)を授与する。1つのSOAはWSQの1単位となり、10訓練・評価時間に相当する。
 前述の7つのWSQ資格は、希望の資格の全SOAを得た労働者に与えられる。これら7レベルものWSQ資格があるということは、要求される能力、知識の複雑性、説明責任のレベルの高さが産業により異なること示している。

表4‐2 WSQ資格レベルと最小必須単位数
レベル 資格 最小単位数
7 卒業学位 15
6 卒業証明書 15
5 スペシャリスト学位 15
4 学位/プロフェッショナル学位 20
3 高等証明書 15
2 上級証明書 10
1 証明書 10
※出典:
Singapore Workforce Development Agency,
http://app2.wda.gov.sg/data/ImgCont/487/
SupplementaryGuideforACTACU2007v1.pdf

参考文献

  1. Singapore Workforce Development Agency. (n.d.).
    http://www.wda.gov.sg/
  2. Singapore Workforce Development Agency. (2007). Qualifications Singapore workforce skills qualifications system: An introduction.
    http://app2.wda.gov.sg/data/ImgCont/487/
    SupplementaryGuideforACTACU2007v1.pdf
  3. Singapore Workforce Skills Qualification. (n.d.).
    http://wsq.wda.gov.sg/
  4. Singapore Workforce Skills Qualification. (2009). What is WSQ?
    http://app2.wda.gov.sg/wsq/Contents/
    Contents.aspx?ContId=934

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