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タイ

作成年月日:2016年12月

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タイ国情報 2016年11月

今月は、コラート日本人会とOVTA共催の労務管理セミナーを中心に、タイで起こっている労務関連のニュースをご紹介します。セミナーでは、今後のタイ企業が取り組む課題は何か、特に工場の自動化、ロボットの導入について日系企業が今後取り組まねばならない課題を紹介します。また、産業の国際化、高度化、人口の高齢化に向かう中でのタイ日系企業の労働事情、雇用関係を考えたいと思います。

 

1. 工場の集約化について

2. 労働争議で、調停に入るには

3. ラオス工場とタイ工場の有機的な関係

4. タイの産業政策と労務管理(11/23 OVTA労務管理セミナーの基調講演から)

5. 技能開発センターの事例(ナコンラチャシマ県コラート労働局)



1.工場の集約化について

在タイ25年を経過したT繊維工場が1年かけて、同じ県内にあった2工場を本社の1工場に集約した。会社側は、法的の措置はすべて行って従業員の配置転換を行ったが、旧工場の800名の従業員は200名近くが退職。残り600名が移動命令に従ったのである。本社の工場は従業員数1,800名にも達したが、在庫管理、素材管理倉庫を同じ敷地内で建設することで、1工場の従業員の作業場を確保できたのである。

T社の定年制は55歳で、50歳から早期退職を認めていた。しかし、40歳代後半のタイ人従業員は家庭の事情で、旧工場なら勤務で来たが、本社工場までの通勤時間と距離で、家族の世話ができないなど、退職せざるを得なかった。タイの労働法では、工場がすべて移転する場合は、それに伴う退職には解雇手当も含めて支給する必要がある。しかし、同社の場合は、従来からある2工場の1か所から本社工場への配転であり、それに従うかどうかは、本人の意思であり、解雇ではない。このため、解雇手当を支払う必要が無かったのである。また、工場集約の背景には、すでにカンボジアに子会社を設立して、低コストの繊維製品は、国外工場の生産に切り替える方針をもっている。

同社の糸から生地生産、染色部分は装置産業であるが、縫製部門は労働集約部門でもあり、国際競争力を考えると、低賃金の労働者の活用が欠かせないのである。言い換えると、タイとカンボジアに工場を持つがゆえに、タイ国内の工場の集約ができた事例である。

 

(写真は、T社の新しく建設した原料在庫、製品を在庫する倉庫)

2.労働争議で、調停に入るには

T 社は、自動車部品メーカーとして10数年の歴史を持っているが、メーカーの機種変更から、コスト削減か、新しい顧客開拓が求められていた。コスト削減には、日系よりも地場系の部品メーカーをアウトソース先として活用をして、一定の成果が上がってきた。

ところが、10月に入って、会社側から業績が赤字のためボーナスの削減を提案したところ、従業員側は労働組合を結成。残業拒否闘争を行ってきた。一部、業務委託としてある工程を委託先に委託していたが、労働組合から委託先の従業員にも残業を拒否するような動きがあった。そもそも、日本の本社からは、赤字にも関わらずボーナスを支給するのかどうか、昨年の実績が2か月であったものを削減できないのか、との要請からボーナスの支給月数の削減を組合に提案した次第。ところが、社内で残業拒否、ストの動きがあると本社に報告すると、前の指示を撤回して、支給月数を上げても良いから、早急に妥結するように、指示がきた。現地子会社の社長としては、本社の方針変更のその通り対応せず、話し合い路線の延長で、調停に入ることになった。一回目は双方の主張の繰り返し。2回目に経営側が当初の1.5か月を上乗せして、1.8か月とした。しかも、支給日は年内と、2017年に入ってからの2分割でとなった。たまたま、赤字ではあるが、内部留保もあるため支給できるが、名目としては、創業20周年の記念に、長年勤務してくれたタイ人に報いるとして、上乗せの0.3か月分は今回限りの支給とした。

 

(写真は、T 社工場)

 

3.ラオス工場とタイ工場の有機的な関係

11/22に日系のN大手精密機器メーカーのタイ工場を訪問した。従業員数、ピーク2006年48,000人が、合理化を進めて現在6,325名(男子1,428名、女子4,897名)うち日本人が35名である。

各工程は、細かな作業工程ごとに分かれて、精密機器だけに、各工程ごとに全品検査をして次の工程に移されている。補給部品の補充には工場内に無人搬送ロボットが使われている。また、説明員の中には、日本で研修を受けたタイ人従業員もいて、日本語での説明がされていた。

2011年の洪水で水没した経験から、随所にリスク管理が施されている。例えば、受電設備は床から高く上げ、重い機械は1階であるが、主要な組み立て過程は2階で行われている。また、機械加工は隣のサラブリ県、シンブリ県、ナコンラチャシマ県に分工場を持ち切削加工、プラステイック成型も近くの工場に分散されている。各工場の海抜は、拠点工場よりも海抜は高い。

今回、訪問した意図は、同社が2013年にラオスに分工場(面積12,000u)を設置して、労働集約的な過程をラオスに移管している点である。物流面などの制限はないのか、尋ねると700kmを超える距離はあるが、物流面では支障はない。

ただし、タイ工場は設立25年を経過して、従業員の熟練度が上がり、日本や中国とも引けを取らない。それに比べると、ラオス工場は稼働して数年という点から、熟練度の高い過程を現地に任せるには、まだ数年かかるとの返事であった。

同時に、研究開発R&D部門の設置について尋ねると、既に設計部門はタイにお来ており、日本人、タイ人も含めて10名程度の従業員がいるとのこと。

タイランド4.0ではないが、進化する日系企業ではより付加価値の高い製品づくりを目指しているのである。

(写真は、N工場の説明風景)

4.タイの産業政策と労務管理(11/23 OVTA 労務管理セミナーの基調講演から)

11月23日のOVTA労務管理セミナーで基調講演をお願いした在タイ日本大使館の坪井書記官の「タイの産業政策と労働政策」を元に、今後のタイで労務管理をする場合の3つの基礎的な視点・方向性を見てゆきます。

1) タイの置かれている状況

2) タイ政府の産業政策

3) 産業政策と労働政策

(写真:11/23 OVTA共催の労務管理セミナーの様子)

 

1)タイは高齢化社会および労働力不足にあり、日本の高齢社会の後を追っている状況です。また、一人当たりのGDPが6,000ドルと、中心国入りをしていますが、先進国入りをする過程にあります。中心国の罠と言われるように、従来の繊維、陶器を中心とする労働集約産業から高付加価値産業への転換を図る時期だと言われます。労働力不足に対しては適切な移民政策が求められます。

 

2)タイ政府としてはどのような経済政策を打ち出しているのでしょうか。地域別政策と、産業別政策、方向性、手法を紹介します。

まず、地域別政策としては、東部経済地区EEC、国境を中心に特別経済地区SEZを設け、産業別のクラスター構想を打ち出しました。

産業別政策として、10の重点的な産業の誘致、振興を図ろうとしています。クラスター政策とも関係します。具体的には、@次世代自動車、 Aスマートエレクトロニクス、B富裕・医療・健康 ツーリズム、C農業・バイオ技術、 D未来食品、Eロボット工学、F航空・ロジスティクス、Gバイオ化学、Hデジタル産業、I医療ハブです。

自動車クラスターとしては、ナコンラチャシマ県、アユタヤ県、パトムタニ県、サムットプラカン県、チョンブリ県、ラヨン県、プラチンブリ県など、自動車メーカーが既に立地している地域を含みます。

方向性としては、インダストリアル4.0というドイツの研究機関が打ち出したITを使って、国境を超えて産業を管理する、工場を管理する考え方をタイ政府は各方面でも推奨しています。

最後に、経済政策を遂行するうえで、インフラ整備には莫大な資金が要ることから財政面の制約もあり、民間資金の導入を図るという点から、プライベート・パブリック・パートナーシップ(PPP)手法の導入を図ろうとしています。

 

3)最後に産業政策と労働政策ですが、2017年1月から最低賃金の引き上げが注目されましたが、同時に労働省は産業界に産業別、職能別最低賃金の採用を推奨しています。電気電子産業では1日当たり360-460バーツの技能レベルによる最低賃金です。従業員は、労働省が認定するテストに合格する必要があります。

最初に説明したように、高齢者の雇用をどう考えるか、という課題もあります。また、労働力不足を単に移民によって補うのか、インダストリアル4.0のように機械化、省力化など企業運営のあり方も見直す必要が出てきたと考えられます。

最後に、同セミナーに寄せられたタイ労働省のメッセージを紹介しておきます。

 

テーマ:『“タイランド4.0”政策と労務管理、成功の鍵(KFS:Key Factors for Success)』 仏暦2559(2016)年11月23日.OVTAおよびコラート日本人会主催

 

過去から現在にいたるまで国家による労働力開発は、継続的な発展を伴ってきました。国家経済の発展に更なる成長を進めていく上で、労働力は源泉および資本の主要な変数です。経済・社会および安全保障の各方面で国家発展にとって重要な役割を担う機関として労働省には、“タイランド4.0”政策を経た変化に対応するために、フォーマルかつインフォーマル双方の労働者が仕事を持ち、知識・能力を有し、職業従事から適正な収入を得るよう生命・暮らしを保護する責務があります。  “タイランド4.0”は、「価値に基づく経済[Value-Based Economy]」、あるいは、「イノベーションで稼働する経済」に向けて経済構造を改革することを望む首相の確固たる決意です。労働力分野においては、とりわけ、低スキル労働から知識・専門性・高スキルの備わった労働力へと向かう改革となります。  

 

よって労働省は国家のマンパワーを継続的かつ十全に開発していかねばなりません。ついては、上記の国家戦略に合致した、マンパワー国家開発戦略20年計画(2017-2036年)を策定しています。それは次のように4つの時期に分けて実施されます。

1.生産性あるマンパワー[Productive Manpower](2017-2021年)。“タイランド4.0”時代に見合った労働者となるべく実施される労働者開発へ対応するために、労働者の基礎力(べース)が国際基準となるよう構築する期間となります。

2.革新的労働力[Innovative Workforce](2022-2026年)。仕事を遂行する上でテクノロジーとイノベーションを導入し応用できるよう国家のマンパワーをグローバルなマンパワー(Global Citizen)とするべく開発する期間です。“タイランド4.0”に向けて通過する変化にフルに対応するためです。

3.創造的労働力[Creative Workforce](2027-2031年)。マンパワーに創造的な思考が備わるよう開発する期間となります。“タイランド4.0”に向けて通過し変化した仕事における価値を持続的に増大していくためです。

4.ブレインパワー[Brain Power](2032-2036年)。“タイランド4.0”を完全なものとするために、知能労働社会を構築する期間となります。

 

したがって、“タイランド4.0”に対応するべく、労働省は、知能の力[Brain Power]を行使するポテンシャルを持つようタイ国民のスキル・知識および能力を開発していかねばなりません。ついては、当省の技能開発局に先導させ、安定し、良好な基礎保険が伴い、安全で働き甲斐のある仕事[Decent Work]の機会を持ち、公正な雇用となる仕事の創出と並行させつつ遂行していきます。

労働省の名において、海外職業訓練協会(OVTA)が人的資源開発を重視して下さっていることに御礼を申し上げる次第です。そして、『“タイランド4.0”政策と労務管理の成功の鍵(KFS)』をテーマに掲げた2016年日系企業の人的資源管理(Human Resources Management)セミナーの開催が成功を収め、所期の目的を達成なされて下さい。

(以上)

(写真は、11/23に開催されたOVTA-コラート日本人会共催のセミナー)

 

セミナー資料

161123 タイの経済政策と労働政策 (PDFファイル)

 

5.技能開発センターの事例(ナコンラチャシマ県コラート労働局)

11/23の午前中、在タイ日本大使館の坪井書記官に同行して上記の技能開発センターを視察した。コースによって校舎が分かれている。希望者には宿泊施設もある。

いくつかの研修コースがある。まず、ITを使った設計製図コースもあった。講師は、地元の大学から招いており、年に数回のコースが開催されている。人気が高いのは、調理師、自動車の整備士であった。この自動車整備コースにたまたまタイ南部から受講生が受講しており、宿泊施設も利用している。日系企業の協力を得てコースが設定されているのは、日本パイントの協力による塗装技術、ヤマハが支援するバイクと農業機械の整備技術があった。主な受講生の年代を尋ねると18歳から30歳代の前半が中心。男女の差別はないが、調理師のコースを見学すると、女性が多かった。受講料は無料。30-40時間のコースが中心である。1日3−4時間の授業だとすれば10日程度である。

たまたま、当日は調理師の技能検定テストが行われていた。3時間で、与えられた素材を使って、指定された料理を仕上げるというもの。 受験生は女性が2名、男性が1名いた。最後まで見届けなかったが、合格されて早く社会で活躍してもらいたい。

全国各県に技能開発センター、職業訓練センターがあるが、設備の整ったものは、各地方ごとに分かれる。東北部では、コラートが中心地区となる。

現在、タイ政府は、タイが中進国の罠から逃れるためにはインダストリアル4.0などの高度技術産業の誘致、高付加価値産業への切り替えを推進しているが、そのためには、必要な予算措置がまだ行き届いていない、と感じられた。

ITソフトなどは、最新のソフトを揃えるとなると、相当な資金の投入が必要となる。

(写真はコラートの技能開発センター)

 

以 上