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タイ

作成年月日:2017年8月

海外情報プラス

タイ国情報 2017年7月

1. タイ人の人材育成について(タイ工業省、投資委員会幹部との意見交換)

2. タイ政府の起業家支援体制について

3. 北米の取引先で起こった会社再建法適用に対処するタイ国縫製業のリスク管理事例

4. (相談案件)自動車産業の研究開発の課題と対策

5. (トピック) 外国人の就労管理に対する勅令、その後の影響



1.タイ人の人材育成について(タイ工業省、投資委員会幹部との意見交換)

7/25にタイ工業省、タイ政府投資委員会(BOI)幹部と日系企業との懇談会があった。

BOIなどが強調する戦略的タレントセンター(STC)ではなく、中等教育を受け日系企業の製造現場を担う、ワーカーの教育が抱える課題について意見交換ができた。

タイ政府は、7/3にSTCを立ち上げて、登録された科学・技術分野の専門家、エキスパートと民間企業の求める人材のマッチングを行う事業を開始した。STCはタイ政府の5つの機関、BOIとタイ国科学技術省、研究機関評議会、科学技術開発庁、科学技術およびイノベーション政策局が共同して立ち上げた。

一方、シンガポールの人材指導力機関(Human Capital Leadership Institute)、INSEADビジネススクールおよびADECCOグループによる118か国対象のタレントの国別競争力調査がある。これによると、タイ国は118か国調査中、73位に位置する。職業能力、技能の10項目を比較検討している。具体的には、@中位レベルの技能(97)、A中等教育の労働力(84)、B中等教育を受けた労働力人口(90)、C技能工および専門家(85)、D雇用者にとっての生産性(71)、E雇用のしやすさ(87)、F熟練工の採用のしやすさ(69)、G経済に関連した教育システム(64)、H科学者とエンジニアの対応力(44)、I主要な投資家の求めるものと技能とのギャップ(83)など。( )はタイの順位。

この数値は、各国が投資家を呼び込むための参考数値になる。技術は、機会であって課題ではない。教育は、単に知識を移転するのではなく、どのように学び、どのように自分自身に応用するかを一生通じて学ぶことである。シンガポールのような都市国家は国民の資質向上が容易であるが、大国になると都市と農村との格差が避けられない。現在、タイ政府はタイランド4.0という国家目標を掲げて、新しい技術立国、知識集約産業国家を目指しているが、教育制度の改革は10年単位で考えねばならない課題でもある。今までのタイの教育は、「私が言うように」という指導者の教えを忠実に守ることを優先してきたが、今後は、「私がやるように」という実践指導が求められるのである。近代国家といっても、まだ100年あまりの歴史であり、物体としてのコンピュータの存在も50年しかたっていない。先進国の多くは、過去を振り返るよりも未来志向である。タイも同じ方向性が求められる。教育制度、先進技術を学ぶには新しい思考形態が求められている。

(写真は、タレントの国際競争力調査、アセアン諸国の比較)

2.タイ政府の起業家支援体制について

タイ政府の起業家支援体制をみよう。7/6-7/9 Start Up Thailandというタイ政府機関が起業家を推奨する催しがあった。その開会式で、Dr. Atchaka科学技術大臣は基調講演をされている。内容をYouTUbeで公開されているので、その一部を紹介する。タイ政府の支援機関は50団体、2,000名の専門家を組織化して、36,000名もの起業家セミナーの参加者があった。政府の技術革新振興基金を150%増やして86百億ドルにする。それに応募する起業家の件数は、2016年は8,000件あり、700社に支援を決定。7,500人の雇用を創出した。2017年は1,500社に増やす予定。民間のベンチャーキャピタルも拡大されて3億ドル規模になっている。しかし、100社起業しても継続する企業は5社程度と厳しいのも事実である。主な制約は法律と規制である。例えば、Airbanbのように厳しい規制で、民宿のネットワーク加盟件数の増加は難しい。そこで、タイ政府はInnovation districtとして規制緩和の地域を指定した。バンコク都内11カ所、郊外に27か所を指定。そこでは、28の大学、7つの職業訓練学校の30,000人の学生に起業家精神を育成、Fintech、Healthcare、Agriculture Tecjnologyを指導する。女性のSMEも支援する。

同時に、バンコクは起業のしやすさではアジアで1位。Peopleperhourの調査では、東南アジアが成長のポテンシャル、人口規模から世界中の注目を集めている。タイはその中心という好立地。世界では、カナダのバンクーバーが1位で、ベルリン、マンチェスターと続く。アジアでは、バンコクが1位(世界7位)で、バンガロール(同10位)、クアラルンプール(同11位)、シンガポール(同12位)と続く。科学技術大臣は、スターチアップ企業に対する政府の支援、民間のスタートアップ企業への協力があるからと説明。大臣は、2017年は上期だけで1,500件のスタートアップが始動し7,500人の雇用が創出されたとしている。

(写真はStart up Thailandの模様2017.7.7 QSNCCにて)

 

3.北米の取引先で起こった会社再建法適用に対処するタイ国縫製業のリスク管理事例

1)事件の経緯:6月22日のCNNニュースでは次のように報じられた。

 

カナダのシアーズ百貨店は6月20日に倒産による資産保全を裁判所に申し入れた(実質倒産)。

これは、伝統的な小売業が危機に陥っている証拠でもある。しかも、シアーズのような代表的な小売業でも同じである。CNNによると、2016年と2017年の小売業の倒産件数が30%増加傾向である。

 

(注)同社のカナダ国内にある店舗を再編して、赤字店舗を閉めて、好調な店を再開すれば復活できる可能性がある。

 

2)タイ企業の対応

タイと米国との貿易は1833年から開始された。過去10年の貿易バランスをみるとタイからの輸出超過である。米国からの最大の輸出品目は農産物。タイからの輸出品目は、コンピュータ、自動車および部品、ゴム製品、米を含む農産物、宝石など。繊維製品は、貿易額からすれば小さな比率であるが、タイの縫製業からもOEMで輸出している。

シアーズの場合、6/22の裁判所への申し出とともに、海外の仕入れ先に対して、これまでの発注は全てキャンセルとの連絡をだした。

 

輸出先が、倒産した場合の輸出企業としてどのような対応が考えられるか?

@  商品を輸出したが、代金が支払われない場合。

A  商品の製造する前の材料の仕込みをして、縫製中であるが、まだ輸出する前の段階。

B  商品の発注は受けたが、材料の仕込みもせず、準備段階の場合。

 

@ の場合は、債権回収を裁判所の許可がないと、回収できない。

A の場合は、同社のため仕込んだ材料が他に流用できるが、タイの縫製企業の場合は、シアーズと素材を共同開発して、そのため、他社には流用しないという覚書があった。そこで、同社は、シアーズの代理店が香港にあるため、代理人と交渉して、シアーズの再建が可能なら、協力する、と申し入れた。

B の場合は、直接被害がない。

 

どのビジネスでも、取引先が倒産すれば、大きな被害を受けて、自らの事業にも影響がある。

 

3) 企業のリスク管理と内部組織

課題を整理したい。直接的には、営業部門が、取引先の日常の取引形態をウォッチする、という必要がある。財務部の資産管理部門と、営業部門との共同作業で、個々の取引先のリスク評価がされていたのかどうか? 特に、売り上げの10%以上の大口取引先の倒産等云う事態では、企業内部の影響が大きい。

同社では、海外取引先との開拓、フォローアップを香港の代理店に任せていたため、日常の管理が遅れていたこと、長年の取引先ということから定期的に財務諸表を入手するなどの対策がなされていなかった。今回の、経験を経て、営業部門と管理部門と、今後のリスク防止対策を講じているところである。

なお、トランプ大統領は、プラユット首相をホワイトハウスに招いて、二国間協議を開始して、貿易バランスを是正したい、という意向がある。プラユット首相は、当初、8月下旬の訪米を模索したが、有効な是正策がなく、軍需品の米国産の調達を検討をしたのみ。二国間貿易によって影響を受ける先は、タイでは相当数あり、絶えず、取引先の政治、経済に対する情報収集が欠かせないのである。

(写真は、米国の流通市場で旧来型小売業が衰退し、AMAZONなどが成長している実態)

4.(相談案件)自動車産業の研究開発の課題と対策

(相談内容)

自動車業界は大きな変革期を迎えている。1次サプライヤー、設備サプライヤーである当社(A社)として、次なる発展には研究開発が重要であると最高幹部も理解しているが、課題は多い。その一つとして、自動車業界、素材業界の実務経験者を同社の研究開発の要員に迎え入れたいが、どのような人材募集が考えられるのか? 良いアイデアがあれば、教授してほしい。

 

(回答)

タイ政府投資委員会は、関係省庁と協力して「戦略的人材センター」(Strategic Talent Center;STC)を設置した。http://www.boi.go.th/stc/

STCは自然科学、技術分野で研究開発や技術革新を起こす人材を集め、民間企業に供給することを目的に設置された。その中には、海外の専門家もタイに登録されて民間に紹介する仕組みもある。もしこの仕組みが理解されるとタイ在住の査証(visa)や労働許可も与えられるとになっている。

ただし、STCは設置されたばかりで、政府の意気込み通り成果が上がっているという実績を説明することは難しい。同じく、タイランド4.0という国家目標に掲げられた10の産業の一つである次世代自動車開発にA社は含まれている。その仕組みに応募するスキームで民間企業とタイ政府機関、大学などとの提携、共同作業が条件となっている。

しかも、科学技術省、サイエンスパークなどにある鉄鋼、ナノテクなどの政府系研究機関と民間との人事交流を図る事業がある。A社が欲しい分野の研究機関、大学を訪ねて、人事交流制度を利用されてはどうか。これ以外にも、自社の研究員のネットワークを使って同じ研究分野の人材を探すことも考えられる。有益な人材が見つかることを期待しております。

(写真は、A社の工場が所在する工業団地)

5.(トピック)外国人の就労管理に対する勅令、その後の影響

先月の情報でも紹介したタイ労働省が、6月22日に外国人の就労管理に関する新しい勅令を公布した、その後の影響について報告する。

今回の勅令では、仮登録者と違法就労の合計340万人が影響を受ける。労働省はこの外国人就労管理を厳しく取り締まり、雇用者にも違反すると違法就労者を活用していると外国人1名につき10万バーツの罰金を含む厳しい規制に乗り出した。

これに対して、さっそく民間団体から異論が出て、プラユット首相は、即日実施という規制を半年間、猶予するという命令を発した。

では、移民労働者がどのような分野で働いているのか。いわゆる3D(危険Danger、汚いDirty、難しいDifficult)分野の仕事で、主に建設、食品加工業界から小さな食堂や小売店など幅が広い。ところがタイ政府は景気浮揚策として、道路、港湾、空港などインフラ整備に財政投資を行っており、タイ経済の成長率、年3.6%の目標が、現場のワーカー不足から遅延の恐れがある。タイ商工会議所のMr. Pornslip 副会頭は、最近のバーツ高は短期的には影響が大きいが、インフラ整備が遅れ、国際競争力が上がらないことは、長期の成長の足かせになる、恐れがあると発言されている。

なお、労働省は7月24日から8月7日まで、全国100か所に窓口を設けて、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど周辺国からの移民労働者の申請受付を実施した。しかし、雇用局が想定した60-80万人程度の申請があると見られていたが、7月末現在で10万人程度の申請しかない。残りは、短期就労が主で、正規な就労許可をとらないまま、就労する可能性もあるのである。

発展途上国の労働市場を見るときには、底辺の労働市場の動きに、製造業などの最低賃金で働く労働者との比較は欠かせないのである。

(写真は、高速鉄道の起点となるタイ国鉄中央駅のインフラ整備中)

 

以 上