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タイ

作成年月日:2018年1月

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タイ国情報 2017年12月

1.タイ人の思考の背景にある前国王の「足るを知る経済」について

2.タイ人の「考える力をつける」教育について

3.IT産業の人材募集について

4.(質疑応答)「従業員の健康不安を原因とする解雇は可能でしょうか?」

5.(参考)タイに労働者を送り込むカンボジアの労働市場と政治について



1.タイ人の思考の背景にある前国王の「足るを知る経済」について

12/22にJCCヘルスケア委員会の視察会に参加した。タイの政策や価値観の基礎となる「足るを知る経済」と持続可能な「農業」と「食」を目指す「新理論農業システム」を学ぶのが目的である。

行き先は、バンコクから車で3時間、Chachaensao県のKhao Hin Sorn王室開発研究センターである。当初は工業団地にする予定地であったが、前のラマ9世国王の命により、1979年に農業開発センターになった。広大な畑には様々な農作物、花、池には魚もあり、学ぶ人向けの寮もある。長期、短期の授業料は無料で、作業奉仕兼学習の場でもある。

土地は1,800ライ(1ライは1,600平方メートル)と広大であるが、当初、地質が悪く、荒れ地でも育つキャッサバすら育たず、製紙原料となるユーカリ樹程度しか育たない状態であった。そこに、王室が資金を投入し、政府関係各所の知恵を集めたプロジェクトである。精神的な指導者がラマ9世であった。具体的に手掛けたのは、水の確保である。水路を確保して小さな貯水池をつくり、そこに生える水草と流れる水によって徐々に土が変わってきた。そのうえで、風や太陽光など自然エネルギーも使い荒れ地の改善を行った。国王は、ことを急がず一歩ずつ事業を取り組み、焦ることはなかった。例えば、日本の皇室から寄付をされたテラピアの養殖も手がけている。当初は、国王の住まいであるチトラダ宮殿で稚魚を育成し、全国の農業開発センターに配布された。産卵から9か月で成長する魚は、タイ人にとって安いたんぱく質の確保である。食用蛙の養殖もしている。

「新理論農業システム」といっても難しいものではない。水が豊富なタイ中央部の複合農業と、水資源が乏しい東北部でも適応できる考えである。乏しい水資源の有効利用が重要である。

具体的には、土地を30:30:30:10に分割。最初の30でため池をつくる。次の30で換金作物を畑で作り、残りの30で主食の米を栽培。最後の10が住居や鳥、豚などの家畜を飼育する。農民にも優しくわかる理論であり、それを生かして成功する農家が増えてきた。

一方、「足るを知る経済」は1970年代から毎年12月の国王誕生日に訓話される中でも言及されてきた。何事も「中庸」を重んずる考えである。現在、世界各地で言われる持続可能な経済の構築である。1997年の通貨危機でも、国王は「中庸」が重要だと諭された。

類似のセンターは国内に6か所ある。このセンターから毎年数千人、数万人の教育、指導を受けて農業の振興に貢献するのであるから、前国王が目指された国民の教育は成果を上げてきたのである。タイに来る日本人もバンコクや主要都市に住む多くのタイ国民が前国王の考え方を理解して経済運営に生かされている点を忘れてはならない。2016年10月の前国王の崩御から337日の弔問期間に約1,300万人が参列し、2017年10月の火葬の儀には400万人が参列した。

 

(写真は、Khao Hin Sorn王室開発研究センターにて)

 

2.タイ人の「考える力をつける」教育について

11/22に開催されたOVTA公開講座のK講師にタイ人の教育に、以下の日本の国語教育でも提唱されている「考える力」をどう身に着けさせるか、という基本について、尋ねた。タイのワーカーは、小中学校とも記憶重視の学習が多く、自ら考える、機会を持つのは少ない。

新しい発想、改革の能力が乏しいと言われてきたが、同時に、タイからの新しい産業、商品も出てきたので、さらにそれを加速させるに必要な教育は何か、考えてみたい。

「国語指導の福嶋隆の教育論では、考える力とは何かを今一度認識し直し、段階的・系統的にそれを身につけさせる授業をしよう、と提唱されているが、タイ人の教育にも適用される考え方ではありませんか?」

では「考える力」とは何なのか?

1)言いかえる力……抽象・具体の関係(同等関係)を整理する技能、2)くらべる力……対比関係を整理する技能、3)たどる力……因果関係を整理する技能 分かりやすく言えば、次の3点である。

 

1)言いかえる力……「どういうことですか?」という問いに答える力

2)くらべる力………「どう違うのですか?」という問いに答える力

3)たどる力…………「なぜですか?」という問いに答える力の3点」である。

 

これに対して、K講師からいただいた返事は以下の通り。

 

「考える力の骨組みは、ご紹介いただいた通りだと考えさせられます。私の(タイ人を指導する)仕事でも、

 

・「なぜ?と考える習慣」が大切です

・「1W1H(なぜなのか、どのように)」が重要です

・「帰納法と演繹法」の使い分けをしましょう

 

など、常々留意しており、改めて考え方の整理ができます。」

 

(写真は、タイの地方の学校)

参考:(https://mine.place/page/a61210c5-2309-4129-98f8-d6e3c24614be)

3.IT産業の人材募集について

あるIT業界の幹部から、人材募集について相談を受けた。

社長の希望は、次の通り。

「M社のY(社長)です。私が目指すのは、2020年までに売り上げ倍増。高収益体質の確立です。そのためにSI事業へ注力しようとしております。夢という大げさですが、どんな会社にしたいかはホームページの挨拶文が全てです。」

 

ホームページには次のような内容が紹介されていた。

「これより当社は新たなステージを目指します。それはこれまで多くの実績をあげてきた日系製造業様向けITインフラ構築、CAD/CAM、生産管理、会計といった得意領域をコアビジネスとして、サービス業、流通業等の新たな業種の企業様、あるいはタイローカル企業様、更にはタイ国外へその活動の幅を広げる事で、大きな飛躍を遂げる事です。」

 

そこで、伺った人材募集の条件はこれまでの経験と能力に応じて採用ということであった。

候補者を2名紹介して、書類選考で1名は却下。1名は面接まで行ったが、本人のキャリアに関して、社長、人事責任者、営業責任者の意見が一致せず、却下となった。

タイ国では新しいタイの産業づくりの方針としてタイランド4.0を掲げ、ソフトウエア開発にも3つの大きな投資が必要だと言われる。

1) デジタル時代の優秀なタレントを採用する

2) 自社の素晴らしい資産を再度開発し、再教育すること

3) 実行したこと、効果が上がったことを正当に評価をすること、の3点。

 

しかしながら、タイの大学から供給されるIT人材は少なく、人材紹介会社に登録している応募者も多くはない。2015年のNRI(野村総合研究所)の調査では、当時、日本でのSEプログラマーが85万人に対して、アセアン全体では70万人であった。これを2020年には100万人を目指している。そのうち、タイの2020年の目標が16万人である。また今回のM社のように採用希望者の条件が厳しい場合は、内定者の決定まで時間がかかるのである。

(写真、大手IT業界の事務所があるバンコク市内の新しいオフィスビル)

 

4.(質疑応答)「従業員の健康不安を原因とする解雇は可能でしょうか?」

自動車部品会社S社から労務管理の相談を受けた。

 

(質問)

「タイの法律上は入社から119日が試用期間で120日勤務以後は正社員に採用される。当社に新規に採用した日本人のセールスエンジニアH氏の場合は、日本のルールも応用し正社員への登用は半年後 にできないか、との相談があった。また、H氏をセールスエンジニアとして正式採用するに際して、顧客との接客用のゴルフができない、また、糖尿病など健康面で不安があり、このような理由で解雇は可能か、お教えください。」

 

(回答)

まず、試用期間は企業や職種により独自に定めることは可能です。しかし、タイの労働法上では、119日までの試用期間と120日以後の期間では取り扱い方が、多少異なる面があります。

次に、タイの労働法に詳しい弁護士に相談したところ、以下の意見を受けました。

 

1. もし、この会社が従業員を解雇すると決定した場合は、連絡をください。このような健康不安を理由とした解雇は、労働法上「解雇要因とならない理由での解雇」とみなされる恐れがあります。従業員側の、不注意や無責任が起こした原因ではないからです。従業員の働きが不十分であるという理由も、解雇要因にならない理由での解雇とみなされることがあります。そのような場合は、労働法が規定する解雇手当などを支払う必要があります。

 

2. タイの労働法では、たとえ、試用期間中であっても給与支払い日の前に、予め文書で通知する必要があります。もし、雇用主が予告をせずに解雇した場合、1か月分の給与が予告しなかった代償として支払う必要があります。

 

3. 労働法118条によれば、労働者が120日以上勤務した場合は、解雇手当を支払う必要があります。もし、H氏が8月14日に採用された場合は、12月11日で120日勤務したことになります。もし、雇用主が解雇手当を支払わずに従業員を解雇する場合は、12月11日前に解雇の予告をしておく必要があります。 しかしながら、雇用主は、解雇の予告なしに即座に解雇することも可能です。ただし、その場合は、上記に述べた給与支払い日前の予告に代えての代償として1か月前の給与を支払う必要があります。

 

4. もし、このセールスエンジニアが継続して雇用を希望した場合でも、会社側は本人がその職にふさわしいかどうか、判断できます。もし、会社側が、その職務にふさわしくない、と判断する場合は、次のような方法で解雇は可能です。

 

a. 会社が本人に予告期間を与えて解雇は可能です。その場合、会社は期限を次の給与支払い日まで勤務することを認めねばなりません。もし、次の給与支払い日まで勤務して本人が120日以上勤務することになれば、解雇手当として1か月分の給与相当額を支払い必要があります。

 

b. 会社側は試用期間中に即時解雇することも可能です。この場合、上記に述べたように予告の代償として1か月分の給与も支払う必要があります。

 

5. 会社が、解雇する場合、本人の働きぶりが、その職にふさわしくない場合でも説明できる理由を付記する必要があります。顧客を接客するためのゴルフができないとか、糖尿病などの病気があるという理由は、解雇の正当な理由にはなりません。解雇には、労働法に定める正当な理由をつける必要があります。タイの労働法では、従業員側は不当に解雇された場合、労働裁判所に不当解雇だと訴えることができます。もし、法廷が不当解雇だと認定した場合は、会社側は慰謝料を支払う必要があります。会社側は、従業員を解雇する場合は、十分に注意が必要です。

(Mr.Ittichai弁護士の回答を翻訳)

 

(写真は、タイの最高裁判所)

5.(参考)タイに労働者を送り込むカンボジアの労働市場と政治について

2017年年末から年始にカンボジアを縦断し、ベトナム南部のフーコック島を旅行した。

JETROやJICAのカンボジア事務所、現地の友人などから教わった情報をもとにタイとの関係について報告をする。

 

現在のタイの労働人口は3,830万人(総人口6,700万人)と推察されている。未熟練労働者が1,690万人で、労働人口の45%に当たる。特に、1,120万人の大半が農業分野で他は労働集約産業に勤務する。高齢化が進むタイの人口増加率は0.3%で、しかも出生率は1.45%である。(UNDP2016年)

 

一方、カンボジアの人口は1,577万人で、人口増加率は1.8%、出生率は2.9%。そのうち30歳以下の比率が65.3%、そのうち労働人口が480万人である。毎年20万人の新規労働者が誕生している。

 

これに国内の新規労働者を雇用吸収する産業としては、第1次産業の農林業16%や漁業7%を含むと28%程度。製造業17%を含む2次産業は20%で、建設11%、商業9.9%を含むサービス関連が残りの50%を構成する。このような産業構造から、新規の海外投資か、または労働者自らが海外で働く以外に新規受け入れ先が少ない。

 

このため、1980年代以後、カンボジアの内戦が落ちついてからも、タイ、ベトナムの周辺国か、香港などで働く家政婦はカンボジアからの出身が多い。正確な数値は出ないが、タイで働くカンボジア人は推計で20万人を超えているとみられる。主な産業は3Kと言われる建設現場、農業、水産家畜業の力仕事が多い。2017年初頭のタイでの外国人労働の登録が義務付けられて、一部は罰金刑を課せられるという噂が出た際には、タイからカンボジアに逃げる労働者が多数、国境に押し寄せた時期があった。

 

カンボジア人民党の党首であるフンセン首相は2013年選挙で大勝利を納めたため、以後の地方振興政策がだいぶ怠ったようである。その間を狙って、サムランシーを党首と仰ぐカンボジア救国党が躍進。2017年の地方選挙では投票率は高く、与党の得票数が350万票、野党は300万票を獲得。これによって、今まで30年近く政権を握ってきた与党としては相当、危機感を抱いたようだ。そのため、欧米社会から批判を受けないように法の支配を前面に出して、論理武装をしたうえで、2018年の総選挙を前に、2017年11月に最高裁判所の判決で最大野党の解党を決定した。2017年の地方議会で当選した野党議員も野党のままでは活動ができないため、国外に出た議員もある一方、与党に寝返った議員も少なからずあった。フンセン首相としても国内の経済の安定を維持すべく、しかも、国家財政を使わないで労働者の信頼を高める策として、国内の最低賃金を、2017年に縫製業の月150ドルを2018年には180ドルまで引き上げる方針を発表。

 

ちなみに、国内の最低賃金を自国政府ではなく外国通貨で最低賃金を決める国はカンボジア以外には知らない。しかも、国内の通貨取引の84%が米ドルで、自国通貨のカンボジア・リエルは残り16%であるため、フンセン首相は2017年から、国家収入は自国通貨のみ、また、国内取引は自国通貨しか認めない、という方針を発表。噂では、現在66歳のフンセン首相(1951年4月4日生まれ)は75歳まで首相の席にとどまるといわれる。

 

労働政策についても、当時、野党が主張していた福利厚生充実を先取りした。例えば、社会保険料の労使1.3%ずつ合計2.6%の負担を、使用者側に2.6%全額の負担を決めた。使用者側としては、賃金コストの引き上げによる国際競争力の低下を懸念して、法人税などの引き下げを要望している。

(写真は、タイとカンボジア国境)

以 上