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作成年月日:2018年11月

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タイ国情報 2018年10月

1.タイの新しいモビリティ・サービスと労働法の関係と課題

2.タイの労働者保護法、改正の動き(MHM Asian Legal Insightsから)

3.タイの汚職防止法と汚職防止対策(JCC運輸部会から)

4.タイのデジタル産業化と人材育成について(9/19の公開講座の質疑応答、その2)

5.タイの企業での意思疎通、タイ語と日本語の壁をどう破るか

6.(労働関係情報誌)タイランド4.0と早期退職制度(日系事例)について



1. タイの新しいモビリティ・サービスと労働法との関係と課題

シンガポールでは、新しい情報通信メディア(ICM)技術を応用した自動車や自転車などの乗り物シェアリングがわずかな期間で急速に広まり、市民の足の1つとなったが、タイではどうか。

シェアリングサービスの第1のスタートとして、バンコク都は自転車のレンタルサービスを2012年末から開始した。バンコク高架鉄道BTSの主要駅の近くには、パンパン自転車サービスの駐輪場所があるが、大抵は留まったままである。ここ数年、バンコクでは自転車の愛好家が増えて、週末のサイクリングだけではなく、一部は通勤にも利用する方が増えたが、レンタルやシェアする比率が上がるほどではない。

さて、タイでも注目されているGrab BikeやGrab Taxiはどうか。 携帯のアプリを使ったGrab Bikeについては、荷物配送サービスは問題ないが、配車による旅客サービスは違法である。一方で、Grab Taxiは合法性が十分ではない。各メディアで報道されたように、UBERが東南アジア事業を同業者のGrabへ売却した影響によってUBERのシステムがGrabへ移ったので、去る2018年4月9日よりタイに加え、インドネシア、マレーシア、ベトナム、ミャンマー、カンボジアではUBER(のAPP)が使えなくなった。

5月中旬にサニット・ポホムウォン陸運局局長は、Grab Bikeについて、違法行為・営業である旨を公共の場で告知し、市民がGrab Bikeのアプリ配車による旅客サービスを利用しないよう呼びかけた。タイ国内の関連交通法規は、公共配車サービス事業を展開する車両を合法的に分類し登録させ、サービス料金徴収については法定運賃に従うことを定めている。Grab Taxiとは異なりGrab Bikeはそうした基本的な法的要件を明らかに欠いている。よって、同サービスを提供する者を捕まえると明言した。とはいえ、Grabのアプリ経由で配車による旅客サービスを提供するGrab Bikeは違法ではあれ、合法的なBikeよりもその利便性とサービス品質の面で評価がより高いので、市民の中に依然として需要があることも認識されている。

Grab Taxiの違法性については、同社がコスト削減のために年2回の車検、事故時の損害補償、社会保険料や超過勤務料金などの労働関連法に関わる所定の義務負担・支払いや公共車両(そのプレートは黄色)に義務づけられた登録料金の支払いを回避している点が挙げられている。

新しいモビリティ・サービスが市場に参入した場合に、従来の法規制では考えられなかった課題があるということに注目する必要がある。また、政府当局も、労働法を規制の材料に使っているのである。従い、新市場に参入する場合の規制として、労働法の確認も欠かせないのである。

 

 

(写真は、バンコク都が推奨する自転車のレンタルサービス)

 

2.タイの労働者保護法、改正の動き(MHM Asian Legal Insightsから)

2018年10月MHM Asian Legal Insights(森濱田松本法律事務所発行)からタイの事例を紹介する。

労働者保護法は1998年の施行後、何回か、社会環境、労働環境の変化により改正されてきた。

2018年9月20日に雇用主と労働者の相互関係から労働者保護法のさらなる改正が立法議会で予備承認をされていた。

 

改正案の概要として、次の点が紹介されている。

@ 新設合併による労働者の承継(13条) 合併により、労働者の雇用が自動的に継続されるのではなく、労働者個別の承認が必要になった。

A 解雇保証金の最大支払い率の変更(119条の1項) 今回、勤続年数20年以上が追加され、解雇保証金が400日分になった。

B 休暇に関する変更 用事休暇(34条)の取得が3日まで可能。出産休暇は従来の90日以内が98日以内まで延期(41条)

C 就業場所移転の場合の対応に関する変更点 タイにおいて、雇用主が事業所を他の場所に移転し、それにより労働者または家族の生活に重大な影響が生ずる場合、雇用主は30日以上前に労働者に通知する必要があります。労働者が移転を望まない場合、上記の移転通知があった日、または事業所移転から30日以内に雇用契約が終了する権利を有し、かつ特別補償金を受領する権利があるとされてきました。

しかし、従来の最高裁の判決により、事業所を移転する場合は、現在の事業所が閉鎖され、新規の事業所に移転するのみとされてきました。

 

しかし、上記の解釈では、労働者の保護の観点から不十分であるとされ、改正法案においては、新設の事業所への移転のみならず、既存の他の事業所に移転する場合も、雇用主はその旨を事業所内の目のつく場所に掲示しなければならず、労働者は移転により生活に重大な影響が生ずる場合、上記通知の掲示から30日以内に雇用主に対して、雇用契約の終了を通知することができるとされています。

 

実は、かつて同じ企業に2工場があった事例がある。同じ県内の2工場で、第1工場を閉鎖して、本社の第2工場に集約しようとした際に、従来の労働法による企業内の配転としての企業は人事権を行使した。第1工場に勤務した社員は、労働法の規定で、解雇扱いとして、解雇手当を要求したが、会社側が拒否をした事例である。最終的には、会社が多少の手当てを支給したと推察されるが、閉鎖によって勤務状況が大きく変わり退職をせざるを得なかった社員には不満が残った事例である。幸いにも、労働争議には至らなかったが、職場集会などあって、会社の理不尽な工場閉鎖を訴えた意見もあった。今回の改正では、このような社員も配慮することが求められる。 今回の改正によって、日系企業として運用に影響が及ぶことから、改正法案の審議状況については、フォローアップをする必要があります。施行に際しては後日、この欄で報告します。


 

(写真は、タイ労働省労働者保護局)

3.タイの汚職防止法と汚職防止対策(JCC運輸部会から)

10月18日にバンコク日本人商工会議所(JCC)運輸部会で、汚職防止対策の講演があった。 以下は、その内容の概要と、日系企業として何を注意すべきか、紹介をする。

講師はBaker Mackenzie, Bangkokの阪本法子弁護士である。

内容は、次の5点。 1.はじめに、2.外国の贈賄防止法の域外適用、3.タイの反汚職関連法、4.内部統制措置の義務化、5.コレクテイブアクション、である。

タイの反汚職関連法は、刑法、仏歴2502年(西暦1959年)の国家機関職員の犯罪に関する放置、仏歴2561年(西暦2018年)汚職防止・取り締まりに関する憲法付属法である。

今回の部会で取り上げた背景には、今年成立した汚職防止法で内部統制が義務化されたからである。

 

講師が説明された8つの原則を紹介すると以下の通り。

1) トップのリーダーシップ

2) リスクアセスメントを明示する。

3) ハイリスク分野の重点対策を講ずる

4) ビジネスパートナーへの適用も忘れない

5) 良好な会計システムが必要

6) 贈賄防止のための人材管理方針

7) 内部通報制度

8) 定期レビュー の8項目です。

 

以下は、当日の講演終了後の質疑応答を紹介する。

(質問A) 汚職をしたといういわれのない密告に会い、警察から事情を聞かれたが、今後はどうすればよいのか?

(回答A) 告発するかどうかは、警察ではなく検察。

この検察も確実な証拠がないと立証できない。

謂れのない、密告も背景を検察が確認して、事実ではない、となれば、告発されない。正々堂々と対処ください。

 

(質問B) 会社のため止む無く汚職をした場合、自ら申告した場合は、減刑があるのか?

(回答B) 刑事罰に関しては最低と最高は決まっているが、自主申告した場合と、最後までしらを切った場合では、検察側の求刑や、裁判官の判決に多少、影響を与えるかもしれないが、単純に申告したら、減刑になるとは言えない、中身がどうかも重要である。

 

(質問C) 止むを得ず、会社のために贈収賄をした場合、会社として、個人としてどう考えると良いのか?

(回答C) 弁護士としては、どちらの依頼により助言するかで、変わる。会社側の要請なら、個人責任を追及する。個人からの弁護依頼なら、会社側の責任を追及することになる。

 

(質問D) 私立病院の医師だと思って、便宜を図るように要請したが、実は週に1回だけ大学の教師を務めていた。この場合も、公務員に対する贈収賄に問われるのか?

(回答D) 私立病院の医師の80%は公立病院の医師も兼務している、というデータもある。当然、医師との面談の際に、経歴など予め聞いておくべきである。病院の医師紹介はホームページでも明らかになっているので、もし不明な場合は、会社の要請で医師の経歴を伺いたい、とお願いすれば、大抵は資料を提示してくれる。

 

(質問E) 公務員の局長クラス以上になると、天下りはあるのか? また、その場合、元の職場への影響力はあるのではないか?

(回答E) 公務員の現職中に、定年後、天下りをして受け入れるという条件で、その見返りを求めた場合は、問題がある。たまたま、定年後、再就職先として受け入れた場合とは異なる、であろう。

 

(質問F) 欧米には、ファシリティ・ペイメントを認める事例もあるが、タイでは認められているのか?

(回答F) タイにはファシリティ・ペイメントを認めるという条項はない。認められているのは、関税局の時間外手当や警察の時間外手当を申告者に要求する場合はある。

 

(写真は、JCC運輸部会の様子)

 

4.タイのデジタル産業化と人材育成について

10月27日のバンコクポストでタイのデジタル人口について次の数字を紹介している。

タイの総人口:69.11百万人、都市人口比率53%

インターネットの利用:57.00百万人、浸透率82%、

ソーシャルメデイア利用者:51.00百万人、浸透率74%とネットの利用者が多い。

 

10月25日のJCC通信部会でもタイ政府が5G導入に積極的で、日本の総務省と導入に関して協力関係を結んでいると日本の総務省から出身の日本大使館の書記官から報告があった。

 

しかし、民間の携帯電話会社の意見では,5G時代になっても通話料の収入が上がるのではなく、IOT技術を使った遠隔医療や、自動運転が応用されるなど、アプリケーションの普及によって市場が拡大すると期待をされている。

 

9/19のOVTAセミナーであった質問を先月号でも紹介したが、デジタル化に関して人材育成をどうするか、との質問については、10月に取材した企業の事例も踏まえて、補足をする。

 

【9/19OVTAセミナーの質疑応答から(先月号からの続き。その2)】

モデレータ:「最後の質問は、 コストをかけないでIOT技術を教える方法があれば伺いたい、ですが、この質問には、参加者の皆様にお答えいただきたい質問ですね。会場のSさん、いかがでしょうか?」

 

Sさん:「コストをかけないで、IOTを学ぶ、という質問ですね。最近は、インターネットでいろいろなことが学べます。例えが、ユーチューブを見れば、IOTについて解説されているものが多数あります。」として紹介を受けた。

多くの事例から2点挙げると次になります。

 

IOTとは? 具体例を交えて解説 森永卓郎 - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=1byF9OEpgIU

IoTで広がる世界とそのセキュリティ - YouTube

https://www.youtube.com/watch?v=nxll_hKtr1Y

 

IoTは都市計画や企業のサービスに革新をもたらし、そしてネットにつながる機器やサービスを家庭に導入する一般消費者にも大きな影響が。


5.タイの企業での意思疎通、タイ語と日本語の壁をどう破るか

1)日系企業でも社内の言語はタイ語で意思疎通を

日系の食品メーカーy社は、社内の共通言語がタイ語である。少ない日本人もどうするかというと、会議など正式な場では通訳を使うが、その他の勤務時間内は日本人がタイ語を学び、社内で使用しないと、数少ない英語の理解できるスタッフを通じてしか、意思疎通ができない。おのずから、日本人駐在員がタイ語に慣れ親しむまで駐在期間が長くなる。

タイ人から見ると、日系企業として英語での意思疎通が必要だと委縮していたが、入社して社内で自由にタイ語で意思疎通ができることから、同社のスタッフの会社への帰属意識が高い。

広告宣伝、出店計画など。タイ人からの提案が多く受入れられている会社である。

 

2)タイ企業に働く日本人

タイの地場のWエンジニアリングサービス会社には日本人の社員が1名在籍する。来タイしたきっかけは、日本の親会社と同社のk親会社が合弁で事業会社を設立する構想があったが、日本側の都合で出資をせず、技術供与だけになった。そのため、その交渉の担当であったS氏が、日本から出向して在籍しているのである。同氏の場合、親会社にも1名のs日本人顧問がいるので、日本語でわからない場合は、相談できる。s顧問はタイの在住が長く、家族もタイ人ということでタイでの暮らしには問題が無いが、社内の意思疎通としては英語を使う。それは経営幹部が欧米の大学留学ということから、幹部も英語の理解ができるからでもある。 10月に同社は社員研修と福利厚生を兼ねて全社員をベトナムの旅行を実施した。企業としてタイだけではなく周辺国の実情を社員に見せたいという思惑がある。また、その視察の後も、経営幹部は中国の視察も行い、建設業界、エンジニリング業界として中国の実情視察にも余念がない。

 

3)大手自動車メーカー系列の1次サプライヤーH社に見る人材育成

人事担当部長として2015年に日本から赴任したH社の、人材育成の歩みを伺う機会があった。

1年目は観察の期間。2年目は問題点の把握と方向性の理解。3年目からHRプロジェクトを発足させて、会社方針に沿った人材育成を進めてきた、と説明された。

結論として、人材育成の取り組みにおけるハードルの理解と、解決に向けて内外の人材を活用。人事を活用して、企業文化が構築できれば、タイでも日本人でも同じ考え、価値観で良い経営ができると、説明された。特にタイ人の考え方、価値観に理解するとともに、日本人が変化してゆかないと企業の成長がない、と強調されたのである。

(写真は、H社の人材開発を説明された様子)

 

6.(労働関係情報誌)タイランド4.0と早期退職制度(日系事例)について

Thai Labour Chronicleという労働関係情報紙がある。1980年から発行されているタイ語、英語の労働関係の情報誌である。10月18日号(通算538号)で政府が推奨するタイランド4.0と労働者階級から見た現状を紹介している。

ロボット化、機械化によって労働者が削減されることで、タイ経済が成長をするのか、という。たとえ、タイランド4.0が美しい夢で、タイ政府の高官や高級官僚からの情報と、投資家が現状を見た場合の実情との比較をすべきだと提唱をしている。

その中で、早期退職制度について日系の自動車会社の事例があったので紹介する。

1) トヨタ・モーター・タイランド:10月の最終日に同社は、希望すれば定年よりも前に早期退職できる制度を報道している。同制度は3種類ある。

 

@作業員からスパーバイザーまでの社員で、45歳から54歳までは、早期退職の場合で最高54か月分の特別上乗せがある。

A課長補佐から部長クラス、50-54歳で早期退職の場合、最高54か月分の上乗せ

B作業員から部長クラス、55歳以上の退職の場合27ケ月分、56歳の場合18か月分、57歳の場合9か月分の上乗せ

 

労働組合のMr.Putarn Smata委員長は、会社の提案は妥当である。55歳の定年や、58歳、60歳まで調整せずに退職するものは別の仕事ができるチャンスがある。ある経営幹部は、この制度はコストを下げる、だぶついた層を削減するというものではない。また、我々の生産能力にも影響を与えるものではない、と説明をしている。

 

2) 三菱自動車:すでに早期退職制度を2回実施している。これによって会社の経費を調整し、親会社が考えるタイの会社の達成すべきターゲットに合わせるため、妥当な方法である、と説明をされている。

 

3) ホンダ:定年は50歳である。女性は50歳又は55歳で早期退職制度に応募できる。 このように自動車産業ではロボットの導入など、インドネシア、ベトナム、マレーシアではすでに導入をされてきた。いったん、部品製造で機械化が進めば、自動車組み立て産業としても追従することになる。

 

(写真は、トラックの架装業者が導入したロボット)

 

以 上


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