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ロシア

作成年月日:2009年6月30日

雇用労働事情

2.1 労働市場の状況

 2008年、ロシアの経済活動は全体的に活発であったにもかかわらず、実質的な経済成長は2007年で終了した。ロシア連邦国家統計庁によれば、2008年のGDPの全成長率は5.6%となっているが、第二四半期には成長に陰りが見られ、最終四半期にはわずか1.2%の成長であった。 最終四半期は1998年の経済危機以来の最小値であり、2008年の総純利益は2007年と比較して40%も減少している
 2008年の最終四半期における工業生産高は、2007年の同月と比べると10月は6.1%とほぼゼロ成長であり、11月は−8.7%、12月は−10.3%と暴落している点が極めて重要である。

図2-1 月間平均工業生産指数と傾向
(2005年=100)
図2-1 月間平均工業生産指数と傾向

※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rossat)

 原油価格の下落が7月に始まり、8月にはロシアの株式市場の株価が急降下し、そして下落は徐々に全体的に拡大し、2008年の終りには米ドルで預金していたロシアの国際準備金から520億ドル※1が減少し、それと同時に国内通貨の価値も低下した。
 2007年には800億ドル以上の資本流入があったのに対して、2008年はロシアからの純資本逃避が1,330億ドルであった。
 外貨準備額においては、ロシアは経済危機に対する準備がかなりできていたといえる。2008年初めには米ドルで4,790億ドルの預金があり、国際市場での原油価格の下落、深刻な資本流出及び金融危機が起きても、財政上の安定を保つ余裕があったのは確かである。
 その一方で、ロシアは制度的にはこれらの状況に対する準備ができていなかった。つまり、競争のない経済、政府による市場介入、市場の状況に対する反応の悪さ、当局と関係のある非効率な企業の保護、低レベルの改革、高レベルの独占などに問題があったからである。例えば、工業製品の生産者価格は7%落ち込み(2007年12月との同月比)、鉄道貨物にかかる関税は41.1%も上昇した。
 欧米、日本がデフレの2008年末においても、ロシアでは経済危機と工業生産高の減少にもかかわらず物価が上昇している。アメリカの消費者物価指数は11月に−1.7%、12月に−0.8%、次いで日本はそれぞれ−0.8%と−0.5%、そしてEU27カ国では−0.4%と−0.2%であったが、不動産部門の経済活動はロシアよりも好調であった。

※1
1米ドル=97.01円(2009年6月30日現在)

図2‐2 消費者物価指数(前年比)
図2‐2 消費者物価指数(前年比)

※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rossat)

2.1.1 過去3年間の労働力人口、就業者数、失業者数及び失業率

 制度的な弱点の一例として、労働市場の状況がある。2008年の世界経済危機によってロシアの労働市場には劇的な変化が見られる。労働市場の通常の反応ではあるが、生産量の激減により失業者が100万人にまで増加し、失業者数が労働人口の7.0%に達している。

表2‐1 人口、労働力人口、就業者数、失業者数(2000‐08年)
(単位:100万人)
  2000年 2001年 2002年
人口 146.3 145.6 145.0
労働力人口 72.332 71.411 72.421
就業者数 65.273 65.124 66.266
失業者数(ILO)※3 7.059 6.288 6.155
失業率(%) 9.8 8.8 8.5
失業者(登録済)※4 1.037 1.123 1.500
人口増加数(前年比) −0.7 −0.6
雇用成長数(前年比) −0.1 +1.1
  2003年 2004年 2005年
人口 144.2 143.5 142.8
労働力人口 72.835 72.909 73.811
就業者数 67.152 67.134 68.603
失業者数(ILO)※3 5.683 5.775 5.208
失業率(%) 7.8 7.9 7.1
失業者(登録済)※4 1.639 1.920 1.830
人口増加数(前年比) −0.8 −0.7 −0.7
雇用成長数(前年比) +0.9 0.0 +1.5
  2006年※2 2007年 2008年
人口 142.2 142.0 141.9
労働力人口 74.156 75.060 75.892
就業者数 69.157 70.814 70.603
失業者数(ILO)※3 4.999 4.246 5.289
失業率(%) 6.7 5.7 7.0
失業者(登録済)※4 1.742 1.553 1.522
人口増加数(前年比) −0.6 −0.2 −0.1
雇用成長数(前年比) +0.6 +1.7 −0.2
※2
2006年以降、チェチェン共和国を含む。
※3
国際労働機関の略。この計算はILO方式によりロシア連邦統計庁が行ったもので、求職中及び1週間以内に就業が可能となる失業者を含む。
※4
これらのデータは連邦労働・雇用庁により、失業者として登録された人数を示している。これらの登録失業者は政府からの失業手当の受給者で、ILO方式で算出された失業者数より少ない。
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Russia in figures 2008” のデータから作成

 また一方で、これまでの労働市場の伝統的な特徴と違う点も見られる。一つには、公に失業する代わりに労働時間の短縮を余儀なくされた者が著しく増加したという点である。このような労働者は1年で2倍になり、労働調査によれば2008年の11月には93万3,000人に達した。
 もう一つの相違点は、賃金支払いの遅れが目立つようになったことである。2008年1月1日までには20万人近くの労働者が賃金未払いに苦しみ、その総額は2,670億ルーブルであったが、2009年1月1日までにはおよそ32万3,000人の労働者が賃金未払いにあい、その総額は4,670億ルーブル※5、およそ1.7倍にも膨らんだ。
 労働市場におけるこの反応には主に2つの要因があり、1つは労働者の雇用と解雇のトラブル(“ビジネスランキング”によれば、181カ国中で1位のアメリカ、17位の日本に対してロシアは101位である)、もう1つは雇用を維持するために政府が企業にかける政治的圧力である。
 全労働人口は今なお増加傾向にあるが、その間にも雇用は減少し失業率は増大している。就業者数は20万人以上減少したが、男性の就業者が16万5,000人も急増したのに対し、女性の就業者はほぼ40万人も減少し、男性と女性の間に対照的な相違がある。現在、男性の失業率は7.5%と女性よりも1%高く、女性よりも男性の失業がより深刻であった。

※5
1ロシア・ルーブル=3.34円(2009年6月30日現在)

表2‐2 男女別就業者及び失業者数の推移(2004‐08年、各年11月調査実施)
  人数(百万人)
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年
労働力人口 72.909 73.811 74.156 75.060 75.892
 就業者数 67.134 68.603 69.157 70.814 70.603
 失業者数 5.775 5.208 4.999 4.246 5.289
男性合計 37.079 37.511 37.627 37.975 38.770
 就業者数 34.177 34.710 34.996 35.704 35.869
 失業者数 2.902 2.801 2.631 2.271 2.901
女性合計 35.831 36.300 36.529 37.085 37.122
 就業者数 32.958 33.893 34.161 35.110 34.734
 失業者数 2.873 2.407 2.368 1.975 2.388
  構成比(%)
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年
労働力人口 100 100 100 100 100
 就業者数 92.1 92.9 93.3 94.3 93.0
 失業者数 7.9 7.1 6.7 5.7 7.0
男性合計 100 100 100 100 100
 就業者数 92.2 92.5 93.0 94.0 92.5
 失業者数 7.8 7.5 7.0 6.0 7.5
女性合計 100 100 100 100 100
 就業者数 92.0 93.4 93.5 94.7 93.6
 失業者数 8.0 6.6 6.5 5.3 6.4
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rossat), “Russia in figures 2008”のデータから作成

 産業別では、最も高い失業率は漁業であり、2番目は農業である。失業率が平均よりも高い水準にあるのは、ホテル・レストラン業や建設業などである。失業率が3%以下と非常に低い水準にあるのは、医療、社会的事業、金融仲介業、行政府機関、防衛、社会保険である。男女別ではいくつかの不均衡が見られ、例えば、漁業、農業、狩猟と林業、金融仲介業、そして地域、社会及び個人のサービス活動においては、男性の失業率が高い。女性の失業率が高いのは、鉱山採石業、建設業、ホテル・レストラン業、運輸業、倉庫業、そして通信業である。

表2‐3 産業別失業率
(単位:%)
業 種 総計 内訳
男性 女性
農業、狩猟、林業 9.6 10.1 8.8
漁業 14.3 15.5 4.5
鉱山採石業 5.7 5.2 7.4
製造業 5.9 5.9 5.9
電気、ガス、水道 4.0 4.0 4.0
建設業 7.2 7.0 8.2
卸売業、小売業、自動車修理、
オートバイ修理、家庭用品修理
5.4 5.5 5.2
ホテル、レストラン 7.9 5.9 8.4
運輸、倉庫、通信業 4.4 4.0 5.4
金融仲介業 3.0 4.7 2.2
不動産、賃貸及びその関連事業 4.3 4.5 4.0
行政府機関、防衛、強制社会保険 3.1 3.2 2.9
教育 3.4 3.9 3.3
医療、社会的事業 2.8 2.9 2.8
その他地域、社会、個人サービス活動 4.3 6.5 3.3
従業員のいる家内工業 データなし
国外の組織、団体 行政府機関に含める
総 計 7.0 7.5 6.4
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Labour Survey 2009”

 また今回の失業には、地域的に大きな相違がある。例えば、モスクワやサンクトペテルスブルグでは0.9%と2.0%(2007年にはそれぞれ0.8%と2.1%)であったが、イングーシ共和国の失業率は55%(2007年には47.3%)で、チェチェン共和国の失業率は35.5%(2007年は53%)である。もしこれが確かであれば、これらふたつのコーカサスの共和国に対照的な推移を見ることができる。

2.1.2 業種別労働者数

 過去4年間の雇用においては、産業構造が比較的安定している。農業、狩猟、林業、製造業において雇用の減少が見られるが、卸売業と建設業では逆に増加している。

表2‐4 産業別年間平均就業状況(2005‐08年)
業 種 人数(単位:千人)
2005 2006 2007※6 2008
農業、狩猟、林業 7,381 7,141 6,925 6669
漁業 138 146 145 137
鉱山採石業 1,051 1,043 1,040 1,041
製造業 11,506 11,359 11,368 11,292
電気、ガス、水道 1,912 1,923 1,909 1,887
建設業 4,916 5,073 5,274 5,530
卸売業、小売業、自動車修理、
オートバイ修理、家庭用品修理
11,088 11,317 11,713 12,122
ホテル、レストラン 1,163 1,185 1,260 1,294
運送業、倉庫管理、通信 5,369 5,426 5,450 5,440
金融仲介業 858 958 1,046 1,108
不動産、賃貸及びその関連事業 4,879 4,957 5,004 4,991
行政府機関、防衛、強制社会保険 3,458 3,504 3,618 3,672
教育 6,039 6,009 6,016 5,982
医療、社会的事業 4,548 4,574 4,644 4,657
その他地域、社会、個人サービス活動 2,460 2,533 2,573 2,592
従業員のいる家内工業 データなし
国外の組織、団体 行政府機関に含める
総 計 66,792 67,174 68,019 68,458
業 種 構成比(%)
2005 2006 2007 2008
農業、狩猟、林業 11.1 10.6 10.2 9.8
漁業 0.2 0.2 0.2 0.2
鉱山採石業 1.6 1.6 1.5 1.5
製造業 17.2 16.9 16.7 16.5
電気、ガス、水道 2.9 2.9 2.8 2.8
建設業 7.4 7.6 7.8 8.1
卸売業、小売業、自動車修理、
オートバイ修理、家庭用品修理
16.6 16.8 17.2 17.7
ホテル、レストラン 1.7 1.8 1.9 1.9
運送業、倉庫管理、通信 8.0 8.1 8.0 7.9
金融仲介業 1.3 1.4 1.5 1.6
不動産、賃貸及びその関連事業 7.3 7.4 7.4 7.3
行政府機関、防衛、強制社会保険 5.2 5.2 5.3 5.4
教育 9.0 8,9 8.9 8.7
医療、社会的事業 6.8 6.8 6.8 6.8
その他地域、社会、個人サービス活動 3.7 3.8 3.8 3.8
従業員のいる家内工業 データなし
国外の組織、団体 行政府機関に含める
総 計 100 100 100 100
※6
2007年以降、チェチェン共和国のデータを含む。
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Russia in figures 2008” のデータから作成

2.1.3 新規学卒者の就職状況

 近年、中等学校と中等職業学校を合わせた初級レベルの新規学卒者の数は減少している※7。この初級レベルの教育は、一般的な教育が提供され、いわゆるブルーカラーの仕事に就くためのものである。これとは対照的に、専門職の指導者レベルは急増している。2000年以降、大学入学者数は27%増の164万2,000人に達し、その4分の3が高等学校卒業者であることを考慮すると、高等学校卒業者のほとんどが大学に進学したことになる。
 低学歴者の失業率は高くなっているが、雇用者は技能労働者の不足が拡大することを懸念している。中等職業学校の卒業者数の減少につれて、技能を身に付けたブルーカラーの不足も拡大している。これは、技能労働者の需要と供給のバランスを保てない労働市場の無秩序の現れであり、不均衡は拡大している。特に、工業分野において深刻な労働力不足が生じている。これは、国立高等経済大学の要請により民間調査機関が実施した6大主要産業の製造業代表者300名に対する調査データの分析からも見てとれる。調査対象のうち、30%の企業は平均で45%の労働力が不足している。一方、62%の企業は均衡を保ち、8%の企業では余剰人員が35%に達するとしている。全体では、労働力の不足は11%となっている。

※7
教育法によると、ロシアの教育システムは一般と専門の2種類の教育がある。一般教育は小学校(4年)中学校(5年)高校(2年)で、合計で11年の義務教育システムである。専門教育は、熟練した“ブルーカラー”を育てることを目的とする初級専門学校(1-3年)、実際に適応した専門家の養成を目的とした上級専門学校(科学技術学校や単科大学)(1-3年)、高等教育機関(大学や科学技術院)は5年修学期間がある。(ボローニャシステムでは、4年プラス2年の修学期間となる。)

表2‐5 新規学卒者数(2000‐08年)
(単位:千人)
学 歴 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
中等学校 2,200 2,265 2,341 2,282 2,135
高等学校 1,458 1,473 1,477 1,519 1,546
中等職業学校 763 759 745 722 708
高等職業学校 579 609 670 701 703
高等教育機関(大学) 635 720 840 977 1,076
大学入学者数 1,292 1,461 1,504 1,644 1,659
学 歴 2005年 2006年 2007年 2008年
中等学校 1,943 1,668 1,478 1,344
高等学校 1,466 1,365 1,246 1,088
中等職業学校 703 680 656 602
高等職業学校 684 700 699 671
高等教育機関(大学) 1,151 1,255 1,336 1,358
大学入学者数 1,640 1,658 1,682 1,642
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Russia in figures 2008”

2.1.4 離職者の現状

 ロシアでは多くの労働者が離職しているが、離職者数は減少している。2008年11月の離職者数は2006年同月と比べて150万人も減少している。就労の意思がある者に分類される離職者の中では、家事従事者のみが増加している。就労の意思がない離職者の数は、2007年と比べて著しく増加し、その一方で就労をあきらめる者の数は減少した。こうした傾向は、経済危機が生活に与えた影響の大きさを示している。また、男性よりも女性の就労希望者が明らかに増加している。

表2‐6 15‐72歳の離職者数(2006‐08年)
(単位:千人)
  合計 就労の意思あり
小計 学生 定年
退職
家事
従事
その他
2006年11月 20,726 15,972 9,262 2,915 1,881 1,914
2007年11月 20,485 16,021 9,211 2,926 2,035 1,848
2008年11月 19,200 14,463 7,835 2,716 2,172 1,740
平 均
2006年2-11月 20,855 15,917 9,062 2,923 2,013 1,920
2007年2-11月 20,443 15,889 9,155 2,917 1,902 1,915
2008年2-11月 19,621 14,784 7,983 2,827 2,136 1,838
男 性
2006年2-11月 9,718 7,389 4,442 1,814 83 1,051
2007年2-11月 9,348 7,265 4,470 1,799 63 933
2008年2-11月 8,696 6,541 3,866 1,736 80 859
女 性
2006年2-11月 11,138 8,528 4,620 1,109 1,930 869
2007年2-11月 11,095 8,624 4,685 1,119 1,839 981
2008年2-11月 10,925 8,243 4,117 1,091 2,056 979
  就労の意思なし
小計 求職中
(就職
準備中)
求職
停止中
求職
放棄
2006年11月 4,755 355 4,400 942
2007年11月 4,464 382 4,082 843
2008年11月 4,737 509 4,228 806
平 均
2006年2-11月 4,938 422 4,516 951
2007年2-11月 4,554 424 4,130 825
2008年2-11月 4,837 528 4,309 775
男 性
2006年2-11月 2,329 194 2,134 525
2007年2-11月 2,083 204 1,879 414
2008年2-11月 2,155 234 1,921 416
女 性
2006年2-11月 2,609 228 2,382 425
2007年2-11月 2,471 220 2,251 411
2008年2-11月 2,682 294 2,388 359
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Labour survey”

 離職の動機を調査すると、離職者の中には、学生、退職者及び家事従事者といった労働しなくても社会的に受け入れられる理由を持つ者もいる。彼らは、個人の利益、公益の両面にわたる活動を行っている。「その他」に属する者には、そのような動機はない。また、就労を希望しながら求職活動を行わない者の離職の動機も、社会的には受け入れられない。この2つのグループの相違は、就労したくないという意向を明らかにするか否かである。最初のグループは、就職したくないとはっきりと示し、もう一方は、世論調査では社会的に受け入れられる理由として、就職したいが実際には仕事が見つからないと回答し動機を隠すグループである。
 自発的離職者は2つのグループに分けられる。第1のグループは、偶発的な収入(犯罪行為による場合もある)で生計を営むホームレス、犯罪者、アルコール及び薬物依存者等の社会の底辺層にいる者である。第2のグループは、両親、親戚、配偶者、及び内縁関係の者等に依存する者の集まりである。彼らの収入は、通常、高い水準ではないが比較的安定している。両グループの動機は社会で受容されるものではなく、社会の「モラル崩壊」の兆候といえる。2006年には、社会で受容されない動機による自発的離職者が600万人以上に達した。2007年には減少しているが、2008年も依然として600万人以上が社会で受容されない動機による離職者である。

2.1.5 職種別技能労働者数

 2000〜2007年にかけて技能労働者数は11%の大幅増となる630万人近くにまで増加し、単純労働者数は78万9,000人減少した。技能労働者の割合は上昇傾向にあり、同時期に2%以上も上昇している。技能労働者における男女の割合はほぼ同じである。
 技能労働者の増加において最も印象的なことは経営幹部層の伸びであり、1.9倍に相当する260万人の増加であった。また、身辺警護及び企業の警備といった警備関係の職業も急成長し、1.4倍増の130万人となっている。2007年には自然科学及び科学技術の分野で上級専門職の数が急増し、2000年と比較すると1.2倍相当の50万人以上も増加している。このことから、成長するロシアの産業において適切な専門家が不足していることは明らかである。そのほかにも営業担当者、モデル、金属加工等の多岐にわたる分野で専門家が増えている。

表2‐7 技能労働者数及び単純労働者数(2000‐08年)
(単位:千人)
  2000年 2004年 2005年 2006年
技能労働者 56,546 59,523 61,042 61,097
単純労働者 8,727 7,611 7,561 7,960
合 計 65,273 67,134 68,603 69,057
技能労働者の割合(%) 86.6 88.7 89.0 88.5
  2007年 2008年
合計 男性 女性
技能労働者 62,875 62,738 31,936 30,802
単純労働者 7,939 7,865 3,933 3,932
合 計 70,814 70,603 35,869 34,734
技能労働者の割合(%) 88.8 88.9 89.0 88.7
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Labour survey”のデータから作成

表2‐8 技能労働者数(2000‐08年)(単位:千人)
  2000年 2004年 2005年 2006年
合 計 56,546 59,523 61,042 61,097
マネージャー、経営者 2,710 4,995 4,805 4,559
上級専門職
(自然科学、科学技術)
2,850 3,079 3,023 2,931
上級専門職
(生物化学、農業、医療)
1,398 1,417 1,415 1,431
上級専門職(教育) 2,645 2,807 2,815 2,741
その他の上級専門職 3,489 4,479 4,656 4,948
中級技能職
(物理、エンジニアリング)
2,082 2,487 2,423 2,540
中級技能職、アシスタント
(自然科学、医療)
2,381 2,255 2,109 2,408
中級技能職(教育) 1,378 1,424 1,345 1,366
中級専門職
(財務、経済、管理、公務)
4,010 3,729 3,824 4,019
技能職
(データ処理、文書管理等)
1,379 1,276 1,423 1,517
軍務 749 723 772 718
個人向けサービス、
身辺警護
3,216 4,103 4,282 4,389
営業職、モデル 4,185 4,964 4,954 5,027
住宅、公共サービス 526 279 287 284
映画、広告 40 35 30 54
農業、林業、狩猟、漁業 3,599 2,399 3,237 2,715
鉱山採石業、建設業 3,527 2,980 3,294 3,212
金属加工及び機械建設
関連職、印刷業、手工業
4,359 4,599 4,748 4,728
運輸、通信 1,276 830 964 943
その他産業及び地質調査 1,724 1,913 1,961 1,969
工場自動加工ラインの操作手、機械及び部品の収集 2,188 2,006 2,011 1,984
自動車の運転手 6,833 6,744 6,664 6,614
  2007年 2008年
合計 男性 女性
合 計 62,875 62,738 31,936 30,802
マネージャー、経営者 5,273 4,964 3,127 1,837
上級専門職
(自然科学、科学技術)
3,468 3,128 2,133 996
上級専門職
(生物化学、農業、医療)
1,567 1,617 550 1,067
上級専門職(教育) 2,944 2,678 586 2,092
その他の上級専門職 5,569 6,100 2,005 4,095
中級技能職
(物理、エンジニアリング)
2,413 2,246 1,678 568
中級技能職、アシスタント
(自然科学、医療)
2,230 2,405 184 2,221
中級技能職(教育) 1,455 1,495 1,08 1,387
中級専門職
(財務、経済、管理、公務)
4,341 4,537 1,428 3,110
技能職
(データ処理、文書管理等)
1,379 1,534 167 1,368
軍務 739 645 57 588
個人向けサービス、
身辺警護
4,489 4,264 1,616 2,648
営業職、モデル 5,201 4,942 851 4,091
住宅、公共サービス 217 329 219 110
映画、広告 53 32 16 16
農業、林業、狩猟、漁業 2,477 2,442 1,172 1,270
鉱山採石業、建設業 3,202 3,177 2,785 391
金属加工及び機械建設
関連職、印刷業、手工業
4,656 4,292 3,801 490
運輸、通信 933 1,206 913 294
その他産業及び地質調査 1,808 1,848 739 1,109
工場自動加工ラインの操作手、機械及び部品の収集 1,901 1,972 1,137 834
自動車の運転手 6,562 6,884 6,663 221
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Labour survey” のデータから作成

 2008年には、経済危機に関連する分野の雇用減少によりこれまでの傾向が変わり、技能労働者数は13万7,000人も減少した。経営幹部層では30万9,000人、自然科学及び科学技術の上級専門職は34万人も激減した。教育分野においては、明らかに学生数の減少につれて上級専門職の人数が減少している。生物化学、農業、医療及びその他の上級専門職において人数が増加した理由はそれほど明らかではない。自然科学、医療の中級技能職及びアシスタント、教育の中級技能職、財務、経済、管理、公務の中級専門職、並びにデータ処理、文書管理等の技能職も増加した。この増加の一因は、高給取りである上級専門職の後任に少し給与の低い中級専門職を就かせる「代替効果」と説明することもできる。そのほかの分野における減少の大半は不動産及び個人サービス部門の危機と関わりがあり、最終的には個人の収入が大幅に減少し、失業が増加している。

2.2 賃金

2.2.1 法定最低賃金の最近の動向

 ロシア連邦労働法第133条により、ロシアの全地域及び全産業には統一最低賃金が適用される。さらに、特定の産業については連邦レベルでの労使間協定が結ばれている。
 一般的な最低賃金については、ほぼ毎年、政府が連邦法に基づき最低賃金を決定している。1998〜2009年にかけて名目最低賃金は51倍以上に上昇し、実質では17倍となった。2007年の9月以降、連邦の法定最低賃金以上の水準であれば地域ごとに最低賃金を決定できるようになった。2008年には全体の半数以上にあたる55の地域において独自の最低賃金が設定されている。地域の最低賃金は、連邦よりも平均で75%も高く、11の地域では2倍となっている。

表2‐9 最低賃金の推移(1998‐2009年)
施行日 月額最低賃金
(単位:ルーブル)
前回比最低賃金
増加率(単位:倍)
新最低賃金を
定めた法律
2009年1月1日 4,330 1.88 2008年6月24日連邦法
No.91-FZ
2007年9月1日 2,300 2.09 2007年4月20日連邦法
No.55-FZ
2006年5月1日 1,100 1.38 2004年12月29日連邦法
No.198-FZ
2005年9月1日 800 1.11 2004年12月29日連邦法
No.198-FZ
2005年1月1日 720 1.20 2004年12月29日連邦法
No.198-FZ
2003年10月1日 600 1.33 2003年10月1日連邦法
No.127-FZ
2002年5月1日 450 1.50 2002年4月29日連邦法
No.42-FZ
2001年7月1日 300 1.50 2000年6月19日連邦法
No.82-FZ
2001年1月1日 200 1.52 2000年6月19日連邦法
No.82-FZ
2000年7月1日 132 1.58 2000年6月19日連邦法
No.82-FZ
1998年1月1日 83.49 1997年1月日連邦法
No.82-FZ
※出典:
T.Maleva (ed).“Survey on Social Policy in Russia, The Beginning of the 2000th”から作成

 一方で、法定最低賃金は賃金決定の際にそれほど重要な調整機能を果たしていない。最低賃金労働者の割合は2006年には2.93%、2007年には1%、2008年には2.8%とほんのわずかである。農業は最低限のお金しか使わず自然経済※8の状況が部分的に機能しているため、最低賃金労働者の割合が2006年には15.6%、2007年は6.4%、2008年が12.4%であっても例外とする。農業は市場経済システムへの移行においてほかの産業部門より大きな困難に直面し、それほど賃金を上げることができなかった。2006年以降、電気、ガス、水道、教育、医療、社会的事業、その他の地域、社会及び個人サービス活動を除くほとんどの産業において、最低賃金労働者の割合は減少している。2006年のロシアの法定最低賃金は平均賃金水準のほぼ10分の1、2007年には17%、2008年には14%となっている。
 2008年は、政府関係、教育、医療、軍隊、警察及び市場経済の枠外で機能し、国家予算から賃金を支給される労働者の賃金が依然として最低賃金を基に算出されていた。彼らの固定給は統一賃金システムにおける労働者の職位によって決定される。統一賃金システムは最低水準の第1等級(法定最低賃金水準)から組織の最高責任者に与えられる第18等級まである。例えば、最低賃金が1,100ルーブルとすると、組織の最高責任者にはその4.5倍の4,950ルーブルが固定給として支給される。また、労働者は組織の経常利益に応じて固定給以外の変動給与を受け取る。2009年1月1日以降、同システムは産業の特性に配慮したものに変わり、経営幹部が部下の賃金を決定する機会が増えた。
 これまで法定最低賃金は手当及び罰金の算出基準として広く使われてきた。例えば、交通違反をした運転手は法定最低賃金から一定の割合で算出した罰金を支払わなければならない。多くの専門家は、最低賃金制度と手当及び罰金とは直接の関連性がないとしてこの制度を批判してきた。そうしたことから、2007年4月20日連邦法No.55-FZにおいて、賃金調整や一時的な就労不能(病気や家事都合等の理由による)手当の算出を除き、最低賃金をほかの目的で使用することを禁止した。

※8
自然経済とは、自給自足経済を意味する場合と現物交換を伴う経済を意味する場合があり、現物経済ともいわれる。自然経済から貨幣を媒介として商品が交換される貨幣経済へと移行し、貨幣経済が発展すると小切手・手形・株式・社債などが広く流通し、信用が経済生活の中で大きな役割を果たす信用経済となる。

表2‐10 産業別最低賃金労働者の割合(2006‐08年)
(単位:%)
業 種 2006年 2007年 2008年
農業、狩猟、林業 15.6 6.4 12.4
漁業 4.5 1.5 3.8
鉱山採石業 0.2
製造業 0.8 0.2 0.8
電気、ガス、水道 0.4 0.2 0.7
建設 1.0 0.2 0.6
卸売業、小売業、自動車修理、
オートバイ修理、家庭用品修理
3.3 0.7 1.9
ホテル、レストラン 1.8 0.4 1.4
運輸、倉庫、通信業 1.2 0.6 1.2
金融仲介業 0.9 0.3 0.4
不動産、賃貸及びその関連事業 1.9 0.7 0.8
行政府機関、防衛、社会保険 0.9 0.3 1.0
教育 4.3 1.4 6.4
医療、社会的事業 2.1 0.9 3.7
その他地域、社会、
個人サービス活動
5.5 1.7 6.6
平 均 2.9 1.0 2.8
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Labour survey” のデータから作成

2.2.2 賃金もしくは給与の実態調査結果

 2000年以降、賃金の上昇はルーブル(1991年価格)及び米ドル換算の双方において安定している。米ドル換算ではほぼ9倍に増加し、1991年価格での上昇は2.8倍と小さいが目覚しい伸びである。しかし、現状を1991年と比較すると全く別の様相を呈する。1991〜2000年は賃金上昇が停滞し、90年代の伸びは2.3倍であった。2007年は1991年の賃金を初めて11%も上回った年であり、2000年代の実質的な賃金上昇は90年代の停滞の埋め合わせに過ぎない。
 また、賃金は各産業間で5倍もの開きがある。

表2‐11 月額平均賃金(1991‐2008年)
月額平均賃金(現行価格) 月額平均賃金
(1991年価格)
ルーブル 米ドル
(公定レート)
1991 548 548
1992 5,995 22 369
1995 472,392 103 246
2000 2,223 79 238
2001 3,240 111 286
2002 4,360 139 332
2003 5,498 179 368
2004 6,740 234 407
2005 8,555 303 459
2006 10,728 395 524
2007 13,527 529 607
2008 17,226 694 677
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat),
“Russia in figures 2008”

表2‐12 産業分野別月額平均賃金(社会手当を除く)
業 種 2008年
賃金(ルーブル) 2007年比(%) ロシアの平均賃金
水準との比較(%)
農業、狩猟、林業 9,132 134.5 49
漁業 22,157 130.4 119
鉱山採石業 34,012 117.9 183
製造業 17,184 122.7 92
電気、ガス、水道 19,493 122.2 105
建設業 23,502 125.8 127
卸売業、小売業、自動車修理、
オートバイ修理、家庭用品修理
19,745 124.4 106
ホテル、レストラン 13,845 125.0 75
運輸、倉庫、通信業 21,929 125.6 118
金融仲介業 43,345 119.0 233
不動産、賃貸及びその関連事業 24,861 129.7 134
行政府機関、防衛、社会保険 21,552 125.9 116
教育 11,309 128.8 61
医療、社会的事業 12,928 128.9 70
その他地域、社会、
個人サービス活動
14,226 128.1 77
  18,578 126.1 100
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat),
“Sociorcononic position of Russia in January of 2009”

 賃金上昇のけん引役として、鉱山採石業及び金融仲介業は平均賃金水準の約2倍又はそれ以上の賃金を支給している。一方、不況業種は農業と教育であり、それぞれ平均賃金の49%、61%しか賃金を支給していない。
 最も高い成長率を示したのは農業で、前年比34.5%も上昇している。農業に次いで、漁業、不動産、賃貸及びその関連事業の成長率が29〜30%となっている。
 現在、最も重要な課題の1つは賃金の最高額と最低額の格差が大きすぎることである。

表2‐13 十分位階級平均月額賃金
  賃金総計に占める割合(%)
2006年 2007年 2008年
第1十分位 1.4 1.6 1.7
第2十分位 2.7 2.9 3.0
第3十分位 3.8 4.0 4.1
第4十分位 5.0 5.2 5.2
第5十分位 6.3 6.4 6.4
第6十分位 7.8 7.9 7.8
第7十分位 9.6 9.6 9.5
第8十分位 12.1 12.0 11.8
第9十分位 16.2 16.0 15.9
第10十分位 35.1 34.4 34.7
  100 100 100
  平均月額賃金(ルーブル)
2006年 2007年 2008年
第1十分位 1,366 1,957 2,851
第2十分位 2,631 3,631 5,108
第3十分位 3,771 5,049 6,949
第4十分位 4,931 6,481 8,846
第5十分位 6,209 8,050 10,854
第6十分位 7,654 9,858 13,093
第7十分位 9,435 12,047 15,986
第8十分位 11,920 15,036 19,897
第9十分位 15,971 20,069 26,789
第10十分位 34,582 43,305 58,602
  9,847 12,548 16,897
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat),
“Variation of the number of employees as per wage. Outcomes of the sample survey 2006-2008”

 労働者の賃金を低い順から並べて人口で10等分した平均月額賃金を見ると、第1十分位と第10十分位の格差は、2006年の25.3倍、2007年の22.1倍よりは減少しているものの、2008年も20.6倍と依然として大きな差がある。格差の減少は第1十分位の賃金が急増したことによる。格差が深刻な分野は、その他の地域、社会、個人サービス活動、卸売業、小売業、自動車修理、オートバイ修理、家庭用品修理、及び金融仲介業である。

2.3 労働時間の現状

 急激な経済改革期の労働時間は、国家、国民双方の社会経済的な状況が悪化したにもかかわらず、驚くべきことに減少している。2008年には経済成長や経営者側からの求人が拡大したにもかかわらず、労働者の週当たり平均労働時間は減少している。労働時間が週15時間以下の労働者数は増加しており、1993年の17万9,000人が、2006年にはほぼ100万人、2007年には115万3,000人、2008年は経済危機にもかかわらず100万人となっている。また、週41時間以上働く「仕事中毒者」の数は興味深い動きを示し、1993年の680万人が2006年には7分の1に相当する97万人にまで減少した。そして、2007年には再び1993年の水準の604万1,000人まで増加し、2008年も引き続き640万人にまで上昇している。一方、労働者の週当たりの平均労働時間は大幅に減少し、2008年には週38.5時間、最短労働時間は1992年よりもさらに1.5時間も減少している。

表2‐14 週当たり労働時間における労働者の分布(1992‐2007年)
(単位:千人)
合計 週当たり通常労働時間
9時間
未満
9〜15
時間
16〜20
時間
21〜30
時間
1992 71,171 118 310 1,002 2,271
1993 68,565 33 146 1,007 1,728
1994 64,858 17 97 1,278 1,674
1995 64,055 29 92 1,271 1,533
1996 63,000 7 74 1,193 1,462
1997 60,208 35 120 1,064 1,411
1998 58,464 ... 160 1,052 1,485
1999 63,633 473 924 1,581 2,245
2000 65,273 498 798 1,452 1,859
2001 65,124 67 151 1,015 1,466
2002 66,266 47 152 853 1,252
2003 67,152 268 575 1,054 1,778
2004 67,134 265 423 1,012 1,536
2005 68,169 333 658 1,131 1,706
2006 68,693 305 658 1,104 1,539
2007 70,573 426 727 1,323 1,903
2008 合計 70,603 345 673 1,275 2,049
男性 35,869 143 298 441 796
女性 34,734 202 375 834 1,253
週当たり通常労働時間 週当たり平均労働時間(時間)
31〜40
時間
41〜50
時間
51時間
以上
1992 57,138 8,788 1,544 39.8
1993 58,847 6,204 600 39.4
1994 59,930 1,651 212 38.8
1995 59,870 1,078 182 38.8
1996 58,262 1,855 148 38.8
1997 53,839 3,332 408 39.1
1998 50,662 4,661 443 39.1
1999 51,999 5,278 1,133 38.7
2000 53,888 5,661 1,118 39.0
2001 61,538 598 288 39.1
2002 63,272 445 244 39.1
2003 62,460 684 334 38.7
2004 62,847 816 236 38.9
2005 63,368 686 287 38.7
2006 64,117 710 260 38.7
2007 58,362 4,061 1,980 38.5
2008 合計 57,994 4,600 1,816 38.4
男性 29,371 2,848 1,272 39.5
女性 28,623 1,751 544 37.3
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Labour Survey in 1992-2007”

2.4 労使関係の現状

2.4.1 労働組合の現状

 ロシアには、比較的独立した労働組織の連合体からなる全国規模の労働組合が3団体ある。

  1. ロシア独立労働組合連盟(Federation of the Independent Labour Unions of Russia:FNPR)
     FNPRは、旧ソ連の公式労働組合を引き継ぎ1990年に設立されたロシア最大規模の労働組合である。公開された情報によれば、全国レベルの41組織を含む47組織がFNPRとの契約し活動している。FNPRの組合員数は、ロシアの全労働組合員の95%にあたる約2,800万人と報告されている。
     FNPR会長のミハイル・シュマコフ氏は政府首脳陣と交流が深く、通常、政府、大統領及び公的機関上層部と交渉する場合はロシアの労働組合団体を代表している。FNPRはロシアの政治体制に忠実であり、大規模なストライキ行動を活発化させることはない。FNPR組合員の大部分は「形式的な組合加盟」で労働組合活動をするつもりはない。

  2. 全ロシア労働同盟(All-Russian Confederation of Labour:VKT)
     VKTの規模は2番目に大きく、1995年当事ロシアで活動していた最大の独立労働組合によってエカテリンブルグで設立された。現在は全ロシア規模の4組織及び地域間労働組合の3組織と連携している。VKT会長はボリス・クラフチェンコ氏である。

  3. ロシア労働連盟(Confederation of Labour of Russia:KTR)
     3番目のKTRの活動はVKTと密接に連携している。両組織は、共同で「統一労働組合新聞」を発行し、若年者及び女性の共同ネットワークを創設している。近い将来、VKTとKTRは合併し、全国規模の労働組合は政府機関と密接に連携するFNPRと、現体制からは比較的独立したVKTの2組織となると考えられる。この2大労働組合は、公的支援及び労働者の組合員化をめぐって競合することになる。

 ロシアでは、高い水準で労働力が「公的な組合組織化」されている。国立高等経済大学の労働研究センターのデータによれば、ロシア企業(非公式なものは除く)の4分の3に労働組合があり、労働者の3分の2はその労働組合に加盟している。また、大多数の企業において労働協約が締結されている。
 一方で、国立高等経済大学の要請により民間調査機関が実施した製造業代表者300名に対する調査によれば、調査対象企業の47%には労働組合が存在せず、また、11%の企業では労使関係において労働組合は何の役割も果たしていない。この結果から、調査対象企業の58%は実際には労働組合が存在しないことを意味している。
 したがって、労使関係において労働組合の実質的な影響力は大きくない。例えば、労働組合は違法解雇を含む労働法令違反を毎年明らかにしているが、労働者の権利保護に対する効果的な対策が取られていない。労働組合が労働争議について調査を実施するのは全体の1割、また、違法解雇については5,000人に1人を職場復帰させているに過ぎない。したがって、労働組合と比較すると国家労働監視局の方がより効果的である。

2.4.2 労働争議の現状

 市場経済への移行期において、ロシアのストライキ発生件数には非常に大きな変動がみられた。この変動は、政府の改革政策及び社会経済情勢によるところが大きい。

表2‐15 ストライキ数(1992‐2008年)
ストライキ
を実施した
組織数
ストライキ参加者数 労働損失日 ストライキ
参加者1人
当たりの
平均不就労
日数(日)
人数
(単位:千人)
1組織
当たりの
平均人数
(単位:人)
日数
(単位:千日)
1組織
当たり
平均日数
(日)
1992 6,273 357.6 57 1,893.3 302 5.3
1995 8,856 489.4 55 1,367.0 154 2.8
2000 817 30.9 37 236.4 289 7.6
2001 291 13.0 45 47.1 162 3.6
2002 80 3.9 48 29.1 364 7.5
2003 67 5.7 86 29.5 440 5.1
2004 5,993 195.5 33 210.9 36 1.1
2005 2,575 84.6 33 85.9 33 1.0
2006 8 1.2 149 9.8 1,231 8.3
2007 7 2.9 413 20.5 2,922 7.1
2008 4 1.9 480 29.1 7,270 15.1
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Russia in figures 2008”

 2006年以降、ストライキ発生件数は減少しているものの、参加者数及び組織の損害は著しく増大し、関与する企業、組織にとってストライキは極めて深刻になった。例えば、2008年の労働損失日は2007年と比較して2.5倍、1992年とでは24倍にも増加した。また、ストライキ参加者1人当たりの不就労日数は、2007年の2倍、1992年との比較ではほぼ3倍となっている。

2.5 募集、採用、雇用、解雇の現状

  1. 募集、採用
     現在ロシアには、職業紹介機関として連邦・労働雇用庁(Federal Services on Labour and Employment:FSLE)と民間の人材紹介会社がある。
     FSLEは数種のプログラムを通して失業者を支援している。第1に、18〜20歳の中等、高等職業学校卒業者を対象とする雇用プログラムがあり、FSLEは卒業者向けの職場を提供する企業と一時的な契約を結んでいる。第2に、FSLEは求職中の失業者に対する履歴書の書き方や人事部との交渉方法も含めた研修を実施し、研修後は求人情報を提供するとともに求職者と雇用者の仲介者となって求職者を支援する。第3にFSLEは、多数の雇用者が大ホールで同時にプレゼンテーションを行う特定の「求人フェア」を開催する。このフェアは誰でも参加でき、毎年、ロシア全体で2〜300万人が求人フェアを訪れている。
     資格レベルの低い労働者の大半はFSLEを通じて求職活動を行い、技能労働者及び資格レベルの高い専門職は個人的なネットワーク、又は民間の人材紹介会社を利用して仕事を探している。多くの人材紹介会社がインターネットを活用して業務を行っている。一般的な方法は、求職者がインターネットで履歴書を(数社または多数の)人材紹介会社に送り、人材紹介会社は求職者に対して試験や就職相談を実施するというものである。中には求職者と新規従業員を募集する企業との仲介業務のみを行う人材紹介会社もある。これらの人材紹介会社は面接の機会を設け、採用が決まった場合には仲介手数料を徴収する。ロシアの労働市場において人材紹介会社が新しい制度であることを考慮すると、実質的な経験もないため効率が高いとはいえない。

  2. 解雇
     解雇は労働法によって規制されている。解雇規定は規制色が強く、企業側に大きな負担を課している。余剰人員を解雇する場合、雇用者は労働者と労働組合に対し2カ月前に通告しなければならず、大量解雇であれば事前通告期間は3カ月前となる。さらに雇用者は労働者に対して2カ月分の賃金を解雇手当として支払わなければならない。

2.6 転職の現状

 市場経済への移行期である現在、ロシアでは労働移動性が高く、労働人口の約3分の1近くが転職している。解雇が多い産業は、建設業、ホテル、レストラン業、金融仲介業、行政府機関などである。4つの産業では労働者の回転率が非常に高く、採用及び解雇が50%を超えている。
 経済危機の影響により、2008年は2007年と比較すると採用数が減少し、解雇数は増加している。産業間では差異が見られ、農業では採用が増え、解雇が減少している。漁業、建設業、卸売業、小売業、ホテル、レストラン業、運輸業、倉庫業、通信業、教育、医療、社会的事業においては採用も解雇も増加している。鉱山採石業、製造業、行政府機関、防衛、社会保険においては採用が後退し、解雇が増加した。金融仲介業は採用、解雇とも減少している。農業、狩猟、林業、漁業、製造業、ホテル、レストラン業では、解雇数が採用数を6%以上も大きく上回っている。
 年間平均労働者数に対する年末の求人倍率は、不動産、賃貸及びその関連事業、行政府機関、防衛、強制社会保険、ホテル、レストラン業では4%以上と高くなっている。
 信頼のおける予測によれば、近い将来、ロシアの労働市場の状況は悪化が見込まれている。例えば、EUの論文では、2009年のGDP成長率を3.8%として試算すると失業率は9.5%(約700万人)に達するとされている。労働市場の状況は、ロシア政府の総合的な方針次第となることは明白であり、2009年においては労働市場を活性化する兆候はないようである。

表2‐16 産業別の転職状況(2006‐08年)
(単位:%)
業 種 年間平均労働者数に対する割合
採用 解雇
2006年 2007年 2008年 2006年 2007年 2008年
農業、狩猟、林業 34.7 36.3 39.7 44.6 46.9 46.8
漁業 57.1 52.6 55.5 63.7 63.3 65.1
鉱山採石業 33.0 29.6 29.0 34.9 29.7 32.5
製造業 30.0 32.1 30.0 32.6 33.6 36.8
電気、ガス、水道 33.7 30.3 29.2 35.5 32.4 31.5
建設業 51.9 55.4 56.0 52.1 52.5 58.4
卸売業、小売業、
自動車修理業、
オートバイ修理、
家庭用品修理
58.4 67.7 68.1 52.6 58.3 68.0
ホテル、レストラン 60.1 59.7 64.2 58.8 57.8 70.3
運輸、倉庫、通信業 31.2 32.8 33.5 32.8 34.6 35.8
金融仲介業 34.1 36.0 33.4 24.4 26.2 30.5
不動産、賃貸及び
その関連事業
38.0 36.6 33.4 40.2 38.4 36.4
行政府機関、防衛、
社会保険
20.0 16.8 16.7 15.3 14.4 14.9
教育 18.2 17.2 17.9 17.6 17.8 18.5
医療、社会的事業 21.0 20.2 20.6 19.8 20.1 20.2
その他地域、社会、
個人サービス活動
36.4 35.0 32.9 34.7 34.0 32.6
平 均 30.5 31.0 30.4 30.9 31.3 32.6
業 種 年間平均労働者数に対する割合 平均労働者数(年末)
に対する欠員率
人員削減による解雇 2006年 2007年 2008年
2006年 2007年 2008年
農業、狩猟、林業 2.1 2.5 2.0 0.8 1.0 1.1
漁業 1.4 1.7 1.1 1.8 1.3 1.5
鉱山採石業 1.4 1.2 1.2 1.0 1.2 1.1
製造業 1.6 1.3 1.5 1.5 2.0 1.4
電気、ガス、水道 2.7 2.2 2.1 1.7 2.2 2.8
建設業 1.4 0.9 0.9 1.6 2.1 2.1
卸売業、小売業、
自動車修理業、
オートバイ修理、
家庭用品修理
1.3 1.3 1.1 2.0 2.4 2.0
ホテル、レストラン 1.6 1.9 2.3 3.2 4.1 4.0
運輸、倉庫、通信業 1.9 1.5 1.5 2.6 3.2 3.1
金融仲介業 1.0 1.1 1.1 3.2 4.0 2.9
不動産、賃貸及び
その関連事業
2.5 1.6 1.8 3.8 4.3 4.6
行政府機関、防衛、
社会保険
1.4 1.1 1.3 3.3 3.8 4.0
教育 0.5 0.6 0.8 0.7 0.7 0.7
医療、社会的事業 0.5 0.6 0.7 2.4 2.4 3.1
その他地域、社会、
個人サービス活動
1.6 1.1 0.9 2.2 2.6 2.4
平 均 1.5 1.2 1.3 2.0 2.3 2.3
※出典:
Russian Federal Statistical Services (Rosstat), “Socioeconomic position of Russia 2006”,
“Socioeconomic position of Russia 2007” and “Socioeconomic position of Russia 2008”


参考文献

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    http://ec.europa.eu/economy_finance/
    publications/publication15398_en.pdf
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    http://www.rg.ru/2007/04/24/mrot-dok.html
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  6. Kapeliushnikov, R. I. (2003). Wages-setting mechanisms in Russian industry. Working paper WP3/2003/07. Moscow: State University - Higher School of Economics.
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    uvp/id/preprints/DocLib/WP3_2003_07.pdf
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    http://www.rg.ru/oficial/doc/codexes/trud/
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  10. Vishnevskaya, N. T. & R.I.Kapeliushnikov. (2007). The IPL enforcement in Russia: coverage, dynamics, interregional differentiation. Working paper WP3/2007/02. Moscow: State University - Higher School of Economics.
    http://new.hse.ru/sites/infospace/podrazd/
    uvp/id/preprints/DocLib/WP3_2007_02.pdf
  11. World Bank. (2009). Doing business 2009.
    http://www.doingbusiness.org/

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