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米国経済は今、1930年の金融恐慌以来の最も深刻な不況に陥っており、雇用労働状況は大きく変貌してきている。全米の6月末現在の失業率は、労働省の発表によると9.4%、カリフォルニア州のように11.2%と高い失業率を示している州もいくつかある。数百万人もの規模でレイオフ(解雇、一時解雇)が実施されているため、国民は政府の雇用対策に注目している。特に、レイオフされた人たちは失業保険の法的な受給資格や補償内容などに強い関心を持っている。また、現在仕事に就いているが、レイオフに不安を感じている人たちも同様である。
オバマ大統領は極めて民主的な考えの持ち主で、雇用や労働に関する法律や規則を変更する権限も持っているが、就任間もないため、これらの法律を変えるための十分な議論はまだできていない。労働省人事に関して言えば、すでに主要ポストの指名及び着任は済んでいる。ブッシュ前大統領の政権時は雇用主や企業寄りの政策であったが、オバマ大統領は労働者保護の意識がより強いため、向こう数年以内に法律改正が行われると予想される。
国民の多くは仕事を失ったり、差し押さえによって住宅を失ったりするような苦難に直面している。連邦政府の公的資金投入が実施されて、経済は上向きになり始めたが、銀行は回復の兆しを見せていない。2009年6月現在レイオフ件数は減少しているが、失業率はまだ高い状態にある。雇用や労働に関しては、180以上もの連邦法があり、現在特に重要なのは、増加する失業者の救済に関する法律である。中でも医療保険については、ほとんどの国民は企業を通して加入しているが、レイオフされるとその保険が自動的に失われるため、深刻な問題となっている。
以下は、オバマ政権の景気対策の中で、労働省が発表した情報である。
雇用の健全化を図る主要な法律は米国再生・再投資法(American Recovery and Reinvestment Act:ARRA)である。労働省はこの法律に基づいて、失業者を救済保護する施策を行っている。具体的には、技能の向上を目指す教育訓練の提供や、将来成長が見込まれる分野、例えばクリーンエネルギーや医療IT分野での新規雇用を促進するような支援を行っている。
オバマ政権が労働省を通して、発足後100日余りで実施した対策は次のとおりである。
米国の労働法を執行する責任官庁には労働省と州政府の2つが存在する。労働省は全米の雇用に関し、賃金、労働時間などの雇用規則を定めており、州政府はそれらの規則を州内でも定め施行している。2つの労働法には条項や内容に大きな違いが見られるため、企業はその違いを把握し、どちらの法律が従業員に有利であるかの判断に沿って、企業の就業規則などを定める必要がある。
その他特筆すべき法に、雇用機会の公平性を定める雇用機会均等法がある。この法律を監督するのは雇用機会均等法委員会(Equal Employment Opportunity Commission:EEOC)である。ここでは雇用に関するあらゆる差別を監視しており、具体的には、セクシャルハラスメントや人種差別、年齢差別、障害者差別、国籍による差別、妊婦への差別などがある。また、雇用主による報復の問題もある。つまり従業員が雇用主へ雇用機会均等法に違反していると苦情を申し立てたことに対する雇用主からの報復であり、これは法律違反である。
オバマ政権は労働者や急増する失業の救済のために多くの条例や規則の改定を急いでいる。労働省はブッシュ政権時代に結果的に賃金の低下を招いた条例や、労働組合からの申し立て手続きが複雑なために労働者に不利となっている、いくつかの条例を廃案にする検討を始めた。
ARRA法では、ARRA基金を活用する企業や機関は労働者の就業権利を守るよう文面化されている。基金を活用したプロジェクトに従事する労働者は、労働省の雇用保護局の監視の下、雇用労働法で完全に保護されることになっている。
労働省の各局は、今回の不況で困窮している労働者への救済に全力を傾けている。従業員給付保障局(The Employee Benefits Security Administration:EBSA)は、米国再生・再投資法(ARRA)によって拡大された医療保険補償適用枠に、失業者が適用申請を行えるように働きかけている。労働者管理基準局(Labor-Management Standards)はARRA基金を活用している交通輸送プロジェクトで働く労働者の就業権を保護するように、労働組合へ理解と協力を働きかけている。基金からは、数十億ドルも大型交通輸送プロジェクトへ拠出されている。賃金及び時間管理局(Wage & Hour Administration)はARRA基金を活用した建設プロジェクトの労働者保護、労働安全衛生局(Occupation Safety and Health Administration:OSHA)は建設業界や基金を活用したほかのプロジェクトに対しての職場安全管理の監視を強化している。
労使間で結ぶ労働契約もしくは雇用契約は、明文化されているものもあれば、互いの暗黙の了解のものもある。すべての従業員は認識するしないにかかわらず、この契約に拘束される。例えば、新たに勤め始めたとき、その会社の規則に従う旨の誓約書に署名すると、雇用契約を結んだことになる。 労働組合と交わす労働協約を除いて、通常は雇用主・企業側が雇用契約条項を決める。米国では雇用は自由意志(At Will)とみなされ、雇用契約を締結していない場合は、従業員はいつでも理由なしに解雇される立場にある。一般に雇用契約の内容を交渉できるのは上級幹部職の候補者だけである。労使どちらかによる契約違反は、訴訟になる場合もある。
雇用契約の退職契約はレイオフ(解雇)と一般退職について記述されており、一般に雇用解除契約、退職契約、離職契約と呼ばれている。レイオフは人員削減(Reduction in Force)とも言われ、会社が事業規模を縮小したりするときに行われる。これらの契約内容は企業側にとって有利で、決して従業員にとって有利ではない。企業はレイオフの対象になりうる者に雇用解除契約に同意してもらうため、退職金、特別退職金や退職条件などを事前に提示するのが一般的である。
従業員の多くは退職金の額に満足して雇用解除契約に署名同意するが、署名がどういう意味をもつのか、またなぜ企業は従業員を削減するために退職金を払うのかが分かっていないことがある。つまり雇用解除契約は実は従業員にお金を払って労働者の権利を放棄させる契約である。法律的には、企業は退職金を支払う義務はない。
雇用契約終了に当たって、従業員に競合会社に転職しないことを定めた競業禁止契約に署名するよう求める企業が多く、雇用解除契約の中に盛り込まれている場合もある。この内容は極めて拘束的であり、しばしば訴訟問題になる場合もある。他には、機密保持契約もあり、会社の事業内容、顧客リスト、その他知りえた事業機密を漏えいすることを禁じている。機密保持契約(Non-Disclosure Agreements:NDA)、は企業機密保持契約(Trade Secret Agreements)又は秘密保持契約(Confidentiality Agreements)などとも呼ばれている。
企業は従業員の採用、退職、レイオフ時、又は雇用期間中に機密保持契約への署名を求めるが、そのためには事業上の正当な理由が必要である。この契約書の意味及び内容は次のとおりである。
連邦、州政府共に機密保持契約を合法と見なしているので、企業は企業機密を守る権利がある。しかし、罰則などの執行に当たっては、事業に損害を与えるという正当な理由があるかどうかで判断される。例えば、企業側が機密情報であると主張しても、業界の中で実際に知りうる情報である場合は、機密保持契約の罰則にすべて該当するわけではない。
法律で保護される機密はそこに企業の事業価値があり、外部に知られると事業存続に脅威となるものであるが、機密保持契約の内容が不当であると判断される場合は裁判所によっては契約そのものが認められない場合もある。
1930年の金融恐慌以来最悪の経済状態のため、2009年も残念ながら数百万人が職を失っている。企業の多くは危機を乗り切るためにレイオフを実行しており、とりわけ金融業や小売業、不動産業界は最悪の状態である。不況は国民の生活に深刻な打撃を与えている。
米国では労働者は自由意志による就業であるとみなされているため、労使間の雇用契約が締結されていない場合は理由のいかんにかかわらず、レイオフされる可能性がある。失業は収入が無くなるだけでなく、企業が掛け金を負担している医療保険も失うことになる。大企業の従業員の場合は医療保険を継続することが可能であるが、その場合は保険の掛け金が自己負担になってしまう。したがって、医療保険を失うことを防ぐためいくつかの法律が制定されている。包括予算調整法(Consolidated Omnibus Budget Reconciliation Act:COBRA)、医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act:HIPAA)及び育児介護休業法(Family Medical Leave Act:FMLA)などである。
レイオフなど会社都合により退職させられた失業者は法的に失業保険が受けられる。ただし、過失などによる懲戒免職者は除外される。失業保険は州で定められた資格を満たす失業者が一定期間受けられる生活補償である。失業保険の給付は連邦法に基づき、各州の規定に従って実行される。
雇用機会均等法(Equal Employment Opportunity:EEO)は差別による解雇を禁止している。差別とは具体的に年齢、人種、宗教、性別、国籍、障害や兵役の有無などである。逆に言えば、企業は差別以外の理由ならば、社内に悪影響を与える扇動者なども含めて誰でも解雇できるということである。
連邦法上は、企業は退職者の最後の給与(賃金)を退職日までに支払う義務がないが、州によってまちまちである。公正労働基準法は最後の給与に未払い分があればそれも含めて精算するように規定している。労働省の賃金時間部は企業に従業員の未払い給与を支払うように指導しているが、従業員と企業が法廷で争う場合もある。
公正労働基準法は、未払い給与や超過勤務手当の支給について述べている。まず、賃金及び時間局が企業に未払い賃金の支払いを促すが、企業が受け入れない場合は、労働省長官が未払い賃金と損害賠償を提訴する手続きを取ることもある。従業員も同様に企業に対して弁護士費用や裁判関連費用も含めて訴訟を起こすことができる。労働省長官は賃金と超過勤務手当てを不当に支払わない企業に対しては公正労働基準法違反とみなし事業の差し止めを命令することができる。
賃金及び時間局の勧告で未払い給与が回収できた場合や、労働省長官名で企業を提訴する手続きが行われた場合には、従業員が直接企業を告訴してはならない。一般に未払い給与の出訴期限は2年、悪質なケースでは3年である。
最低賃金は連邦政府と州政府が法律でそれぞれ規定しており、州政府の規定額の方が連邦政府の額よりも高い例が多い。最初の最低賃金は1938年に連邦政府が公正労働基準法で規定し、時間当たり25セントであった。その後、何度かの改定があり、2009年7月24日には時給7.25ドルになっている。20歳以下の時給は初めの90日間は4.25ドルで、その後は20歳に達するかもしくは勤務が90日を越えた場合に5.85ドルに引き上げることが義務付けられている。
カリフォルニア州の最低時給は、連邦政府よりも高く、8ドルと規定している。労働者には高い方の時給が適用される。州政府ごとの最低時給表は労働省のホームページで公表されている。
公正労働基準法では、企業は給料日に月給制の従業員には時給換算した時の連邦最低時給以上と週40時間を越える超過勤務手当については時給換算の1.5倍を、支給することと規定されている。
福利厚生についての労働省の調査によると、有給休暇は平均で年10日、バケーション休暇(無給)は9.4日となっている。中規模以上の企業は半数以上が、従業員に対して明確に定めた福利厚生あるいは従業員も拠出する年金プランを備えている。全体の75%の企業は医療保険に加入し、従業員の保険掛け金を一部負担している。
そのほか福利厚生を重視している企業はボーナスやフィットネスクラブ年会費、授業料補助、フレックスタイム(裁量勤務時間)、託児サービスを持ち、また社内にクリーニング屋を備えているところもある。調査によると65%の企業はこのような福利厚生が従業員を惹きつけると考えている。従業員が最も好むのはカジュアルな服装での出勤とフレックスタイムである。
労働法は、職場での差別やハラスメントからの女性保護と男女平等の処遇を企業に義務付けている。
職場の安全衛生に関しては、労働安全衛生局が労働安全衛生法(Occupational Safety and Health Act:OSHA)を管轄し、官公庁及び民間企業に職場環境の安全確保を義務付けている。安全衛生局はこの規定を遵守させるために事業所に立ち入り検査を行う場合がある。また、職場安全ガイドなどの改善支援プログラムを用意している。
若年者の労働に関しては、連邦政府が制定した児童労働法(Child Labor Law)があり、非農業分野の最低労働年齢は14歳以上と規定している。法で定められた年齢別の労働規則を次に述べる。
両親が経営する自営業では若年労働の年齢制限はないが、採掘業や製造業の場合には16歳未満は禁止されている。また、労働局が指定している危険な業務には18歳未満は就労できない。新聞配達や映画、テレビ、劇場に出演する若年者には労働時間も含めて公正労働基準法の適用はない。
州によっては18歳未満の若年者は学校か労働局で就労許可書(Employment/Age Certificates)を受ける必要がある。18歳になると、児童労働法の適用から外れる。
就業規則を定めることは企業にとって問題の発生を未然に防ぐ意味で重要である。従業員の安全保護のための規則や、態度、服装、喫煙についての規則などもある。ハラスメントに対する就業規則もある。よく知られているセクシャルハラスメント以外にマイノリティー(少数派)へのハラスメントなどもある。このような行為を禁止する規則を作ることは企業経営上大切なことである。
ハラスメントは州法の規定にもよるが、裁判沙汰になる可能性もあるため、たとえ従業員数が15名以下の企業でも注意が必要である。個人企業主の場合は、職場の従業員に対する自らのハラスメントだけでなく、管理職や従業員、顧客、納入業者、及び会社と関係する人たちによる個々のハラスメントにもすべて責任を負うことになる。
ハラスメントが禁止事項であることを就業規則に盛り込むことは、損害賠償請求や事業への影響を未然に防ぐのに大切なことである。州によっては企業にセクシャルハラスメントに対する規則の作成を義務付けるところもある。この規則に含まれる内容は次のとおりである。
障害者法(American with Disabilities Act:ADA)はTitle VIIとも呼ばれ、従業員数15名以上の企業に適用される。この法律の障害者の定義は次のとおりである。
企業は障害者法に該当する従業員に配慮した処遇をしなければならない。また、次の行為は禁止されている。
この法律は障害者を採用するにあたって、業務内容や必要な資格の説明、健康診断の実施、障害の程度についての聴取、及び休暇取得や職場安全管理などについても言及している。また、2009年1月に、障害者及び生活に支障が生じる障害の定義を改正した障害者改正法(ADA Amendment ACT of 2008:ADAAA)が執行された。改正法では、視力障害については眼鏡やコンタクトレンズで矯正できる場合は除かれた。また、雇用主が不当な視力基準を採用条件に盛り込んではいけないことになった。一方、従業員は障害定義にわずかに入ることを理由に正当な対応を主張してはならない。今回の法改正のポイントは障害認定者個人への差別禁止から、すべての認定障害への差別を禁止することになったことである。
オバマ大統領は民主党であるため労働組合寄りだと思われている。実際に労働組合は大統領選挙期間中に応援したため、関連の法律を労働組合や労働者側に立って強化してすることが期待されている。
労使報告公開法(Labor-Management Reporting and Disclosure Act 1959:LMRDA、別名Landrum-Griffin Act)は、労働組合と組合員に関する法律であり、連邦政府の労働管理基準局(Office of Labor Management Standards:OLMS)が施行監督を行っている。この法律は組合の資金管理と活動の民主化促進を目的に、組合に年次報告を課し、組合幹部、企業、労働コンサルタントに、活動報告と組合員代表選挙の実施基準の作成を義務付けている。
他に、全国労働関係法(National Labor Relations Act:NLRA)がある。この法律は企業や労働組合からの不当な処遇や行為、つまり不当労働行為から従業員を守っており、下記のような従業員の権利が記述されている。
全国労働関係局(National Labor Relations Board:NLRB)は全国労働関係法に基づいて、民間企業、労働組合と従業員の関係を監督している。
企業も全国労働関係法に守られている。例えば、労働組合が意図的に生産力を低下させたり、従業員を増やすように要求することなどを禁止している。
全国労働関係法は労働者すべてに適用されているわけではなく、適用を除外される職種がある。以下がその例である。
米国では法的な問題は裁判所に訴える場合が多いが、費用が掛かることと、勝訴するか分からないリスクがある。したがって、労働争議の多くは裁判を避け、仲裁(Arbitration)に解決を委ねることが増えている。
解決方法として、第三者が仲介者として両者の和解を促す調停(Mediation)があるが、調停者の決定に法的拘束力はない。調停の利点は次のとおりである。
米国仲裁協会(American Arbitration Association:AAA)によると、調停件数の85%が和解にいたっているが、和解できなかったケースは仲裁に持ち込まれる。
仲裁は第三者機関(仲裁人)による法的な問題解決であり、訴訟の代案と考えられ、仲裁による決定事項は企業と労働組合に法的な拘束力を持つ。
労働協約や企業と従業員間の雇用契約で生じる問題は、訴訟でなく、仲裁に委ねるところが多い。仲裁は国の仲裁人又は機関が当事者双方の意見聴取を行い、解決案を提示する。調停と同様に審議日程を事前に決めるため、比較的早く合意に達し、審議では訴訟に比べて対立する議論などは少ない。
連邦保険拠出法(Federal Insurance Contribution Act:FICA)に基づいて、雇用主(企業)は従業員への支払い給与から社会保障税(Social Security Tax)6.2%と医療保険税(Medicare Tax)1.45%を源泉徴収することになっている。雇用主は同額を負担し、合算して納税する。
労働者災害補償は、従業員が業務上の傷害や病気に見舞われた場合の治療費や生活の補償であり、企業が保険の掛け金を負担している。結果的に、従業員からの訴訟を事前に避けることができている。労災補償の掛け金は企業の給与支給総額と業務上過去に発生した傷害や病気、重症度などの履歴によって決定され、例えば、製造業はほかの業種に比べ掛け金が割高になっている。労災補償は州政府が管理統括している。
いくつかの例外を除いて、すべての州は企業に加入を義務付けている。補償には治療費と休職期間の給与(就業中の3分の2)が含まれる。従業員補償の手続きは、まず雇用主(企業)が州政府に労災適用を申請する。
雇用保険つまり失業保険は失職してから一定期間支払われる補償である。その財源は、連邦失業保険税法(Federal Unemployment Tax Act:FUTA)に基づいて企業が支払う税金で、従業員一人一人の年収の7,000ドル分に6.2%が掛けられている。(2008年及び2009年の連邦失業保険税6%に加え暫定追加税分0.2%)、従業員の給与が7,000ドルを超えても、それ以上の課税はない。
自己過失(懲戒解雇)による失職でなければ、受給資格を満たした失業者には失業保険が支払われる。他に、大統領が認定した災害で事業被害を蒙った場合、雇用主や自営業者には事業救済支援が行われる。失業率の異例な高さ、深刻な場合には失業保険給付期間が延長される措置もある。
その他の失業救済には、外国からの輸入増により被害を蒙った事業者の所得減税や退役軍人の失業者への支援、及び自営業者への早期再就職支援などがある。
米国では健康保険は企業を通して加入するが、現在4,600万人もの国民が健康保険に加入していない。オバマ政権は国民皆保険制度を導入する計画であるが、向こう10年間で10兆ドルもの財政負担になるため、議会を通過するかどうか不明である。米国は世界で最も医療費が高いと言われている。健康保険に加入していない人達は民間医療保険に加入するかもしくは老人や貧困層向け公共医療を受けるしかない。米国は先進国の中で、平均寿命や幼児死亡率の面で遅れていると言われている。
オバマ政権が計画する国民健康保険制度が首尾よく導入されれば、全国民の医療費のほとんどを保険がカバーすることになる。しかし、体外授精から神経内科医療にいたるすべての医療を含む健康保険は、国民が負担できる保険料を遥かに超える高額な負担になる。また、この計画は病気になる確率にかかわらず、すべての加入者が一律に負担する地域保険料率(Community Rating)を全米で展開することになり、そうなると、老人は国の補助があるため安くなるが、若者に負担が重くのしかかることになる。また、住んでいる州以外の保険に加入できないため、州ごとの保険掛け金に格差を生むことにもなるだろう。
政府はパブリックオプションといわれる公的医療保険制度を意図しているが、これは現在連邦政府が行っている高齢者向け医療保険制度と同じになる。経済学者の多くはこの新しい計画では保険掛け金は下がらず、むしろ値上がりすると警告するものもいる。国民皆保険は国家予算を使うので、国民は高齢者向け医療保険制度の例のように、高額の治療を無駄遣いするだろう。その上、現在の保険制度よりも患者数が多くなり、膝の手術から神経内科医療に至るまで医療需要が飛躍的に増えることになる。また、政府は医療費全体を低く抑えるため、病院や医師は増加する患者に満足いく治療ができなくなる恐れがある。
健康保険に加入していないのは失業中であることが多く、労働省はこのような人たちに健康保険を継続できる道を設けている。連邦政府の包括予算調整法(COBRA)では、企業はレイオフで失業した人たち(退職を含む)に、健康保険を18カ月間延長するように勧めなくてはならないと定めている。ただし、延長期間中の保険掛け金に企業補助分はなく、すべて個人負担である。さらに企業割引が適用されていた保険の場合は、個人の保険掛け金はその割引分も合わせて一層高くなる。したがって、米国再生・再投資法(ARRA)は経済復興の失業者救済策として企業に退職者の保険掛け金の35%を9カ月間補助するように義務付けるようになった。
この健康保険の期間延長プラン(COBRA)はレイオフされた全員に適用されるのでなく、保険加入し事業が安定している企業が申請でき、小企業や倒産企業は対象外である。
健康保険期間延長の18カ月を過ぎても再就職できない人には、州によって違うが、さらに18カ月間の再延長が可能な場合もある。州政府の保険局が管轄しており、失業者からの質問を受け付けている。
一般的な年金は確定拠出型年金(Defined Contribution Plan)別名401Kと呼ばれ、企業と従業員(任意)が基金を積み立て、投資運用を行ない、年金の受取額は投資運用結果で決まる仕組みである。他には、確定給付型年金(Defined Benefit Plan)があり、退職後に受け取る額が事前に決まっている。
確定拠出型年金は受給額を確定しない。企業と従業員が従業員名義の口座に、例えば年収の5%と決めて積み立て、それを基金として株式・債権投資で運用する。したがって、年金の受取額は投資回収の結果による。確定拠出型年金には401Kや非営利団体職員向けの403Bがあるが、広義の意味での年金として、他には従業員持ち株制度や企業業績に見合った利益分配制度などもある。
401Kには規則があり、例えば、給与からの積立額の金額制限や同額を拠出する企業側が積立金額を決めるなどがある。積立金額や投資運用結果による将来受け取る金額は従業員の自己責任となる。
一方、確定給付型年金は受給月額を事前に決め、例えば、月額100ドル、過去5年間の平均年収の1%などとする仕組みである。この方法の良い点は年金給付保証公社(Pension Benefit Guaranty Corporation:PBGC)の連邦保険により、一定の条件はあるが、退職者にとって受給額が確定保証されることである。
簡易従業員年金(Simplified Employee Pension Plan:SEP)は個人年金として積み立てる預金である。従業員は個人年金口座を開設し、企業からの負担分を加え、税優遇措置を受けて積み立てる。簡易預金なので、運用機関は最低限の情報開示・報告義務しかない。
民間企業の年金は従業員退職所得保障法(Employee Retirement Income Security Act:ERISA)によって保護されている。企業及び従業員は年金運用情報を知る権利を有し、年金資金の運用者は法律による信用規定を満たす必要がある。この法律は従業員給付保障局(EBSA)が執行管理している。
一方、国が社会保障制度(Social Security System)に基づいて提供する年金もある。それを賄う財源は社会保障税(Social Security Tax)で、別名連邦保険拠出法税(FICA Tax)とも言われ、内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)が徴収する。受給開始の平均年齢は約66歳となっている。
2007年に労働省と証券取引委員会は、より良い年金プランを提供するため、投資会社がターゲットファンドを創設できる規則を導入した。この基金は安全でリスクを犯さないような金融商品に投資される。従業員は401Kに加入するときに、退職までの残年数を伝え、その期間に応じた安全な株式や債券に投資する計画を立てる。もし、従業員が若く残年数が長期の場合は高いリターンが見込まれる投資を勧め、退職まで数年になった場合は、株式の変動を避けより安全な債権を重視した投資を勧めることになっている。
しかし、2008年、2009年の株式相場は大幅に下落し、これらターゲットファンドも40%が目減りしてしまっている。スタンダード&プアーズ500種指数の38.5%よりも低いため、証券取引委員会(SEC)は、株式や債券取引に規制があるにもかかわらず、ターゲットファンドがなぜ大幅な運用損失を出したのか調査している。証券取引委員会がターゲットファンドの投資先ガイドラインを示さなかったことが一因であり、債権にのみ投資した基金は、11%の損失に留まっている。
401Kは従業員が投資先を選定するのが基本であるが、2006年に米議会で可決された法律により、選定しない場合には、自動的にターゲットファンドに組み込まれ運用されることになった。現在1,820億ドルがこの基金で運用されている。今回の証券市場の下落により、議員の多くは運用状況及び取引手数料などの情報開示を強化するような立法を提案している。
社会保障障害保険(Social Security Disability Insurance:SSDI)は従業員が障害者と認定された場合に、収入を補償する制度である。世帯主が障害者に認定される、又は死亡した場合、家族の生活は補償される。その財源は社会保障税から拠出される。補償の対象は本人、寡婦、寡夫、子供及び子供時代から障害を認定されている成人である。
法律で規定されていないが、企業の多くは障害による休業補償として短期障害保険(Short Term Disability insurance)に加入している。補償期間は最長1年間で、団体もしくは個人でも加入できる。他に長期障害保険もある。
米国の職業能力開発は、各州政府が連邦政府からの助成金を使って、労働力投資法(Workforce Investment Act:WIA 1998)に基づいて実施している。州政府は地域のワンストップセンターを通して主に失業者や若者、障害者への職業教育や求職支援、福祉教育、職業技能教育、社会復帰教育などを実施している。さらに、職業教育に関して州政府独自の法律もある。
オバマ大統領はかねてより職業教育開発の重要性を主張しており、2009年5月に以下のような演説を行った。
「4月の失業者が53万9,000人であったと報告を受けた。この数字は過去6カ月の中では最も少ないが、失業率は過去25年間で最悪の状態であり、まだ経済不況の厳しい状況が続いている。
21世紀の社会において、知識は最も価値あるスキルであり、教育は個人の成功のためだけでなく、国家の発展のためにも最良の方法である。大卒者は高卒者の賃金より8割も高くなっており、高等教育と技能教育の充実に厳格な姿勢で臨む必要がある。失業者が求職や就職に役立つ教育や技能訓練を受けられるよう、制度を変えていくことから始める」
職業教育は連邦政府と州政府からの拠出金で実施されている。連邦政府の拠出金は具体的には労働省雇用・訓練局が管理し、州政府へ配分し、地域のワンストップキャリアーセンターが職業教育プログラムを実施している。職業訓練は州によって異なり、それぞれ独自の職業教育を行っているが、目的は労働者の雇用と所得の増大である。
また、連邦政府は失業者への奨学金、ローンなどを提供している。最近、大統領は失業手当受給者の教育訓練に対する学資援助を発表した。具体的な支援としては、短大、大学、職業専門学校、技術育学校の教育費を連邦政府が最高5,350ドルまで補助するペル奨学金がある。
ペル奨学金のような学資援助の受給には、失業中であること、世帯所得が一定以下であることが要件である。連邦学生ローンには所得制限はない。ペル奨学金などの受給審査では、失業者の経済状況を考慮して決定するよう要請されている。
受給資格は1.学生ローンの滞納履歴がないこと、2.高卒もしくは相当の学力レベルであること、3.米国市民か条件を満たす者であることなどである。既に学士を取得している者には資格はない。
ペル奨学金は大学卒業資格の取得を目指す学生(失業後、学生になるものも含む)が申請でき、奨学金の内容は次のとおりである。
職業能力評価には2つある。1つ目は検定資格である。職業訓練機関での修了資格で、法律による規定はないが、訓練プログラムについては、各州が管轄しているので、公的な助成を受けている機関は管轄部局の規定に従わなくてはならない。
2つ目は高度な職業資格(ライセンス)である。カリフォルニア州の場合、会計士、建築士、保険鑑定士、不動産鑑定士、医師、歯科医、看護師、自動車修理工、電気工事技師、理髪師などがあり、これらのライセンスのほとんどは州が認めた公的資格である。
雇用労働に関しては、連邦法、州法及び地域の規制などさまざまな取り決めがあり、すべてを理解することは困難であるため、雇用主が基本的な規則を知るには、労働省、州の労働局や専門の弁護士などに聞く必要がある。雇用労働での問題を避けるために、あらかじめこれらの基本的な規則を理解することは大切である。
現在、米国には大勢の失業者がいるため、再就職は最大の関心事である。2009年6月時点で失業保険受給者数は670万人にも上り、失業保険を受けられない労働者も沢山いる。失業保険は州政府が管理監督しており、再就職支援を行っている。再就職にはまず、職業教育を受講することから始めるのが一般的である。
国レベルでの支援は労働省の雇用訓練局が窓口となり、相談窓口の開設、再就職の教材作成、求職者・レイオフされた人への支援・求人情報などの提供を行っている。
州レベルでは連邦政府からの助成金を基に運営される地域のワンストップセンターを通して、失業者の求職支援を無料で行っている。また、職種別給与比較、成長職種、ほかの公的雇用サービスの情報提供や履歴書の書き方、就職面接などについての助言も行っている。
外国人が米国で就労できる仕事は、米国人の適任者が不足しているか、それとも嫌う仕事である。例えば、ハイテクなどの技術者や農業従事者である。景気が大きく停滞している昨今は、外国からの労働力は大幅に減少している。しかし、米国では依然としてインドや中国からのハイテク専門家の需要は高い。
産業界は外国人就労ビザの発行数を増やすように議会に働きかけている。例えば、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長はワシントンの議会で、「世界の中で、米国の競争力は憂慮すべきところまで落ちてきている。したがって、外国人専門技術者の雇用拡大と研究開発や教育への財政投資を拡大すべきだ」と訴えている。また、同氏は外国人留学生が大学を卒業すると帰国しなければならない現在の米国の方針を特に批判している。2005年の理工学系の修士取得者の43%、博士取得者の59%は外国人留学生であることが、2008年の国立科学財団の調査で判明しており、米国人ハイテク技術者は不足している。
さらに、同氏は「就労ビザ(H-1)の発行数が少なすぎるため、マイクロソフト社では外国人技術者の採用予定枠の3分の1が不足した。米国の外国人技術者の受け入れ政策は他国に比べ不合理に思える」と述べた。マイクロソフト社は2008年にこの問題を解決するために、カナダに開発拠点を開設することにした。
労働省雇用訓練局外国人雇用証明室(Office of Foreign Labor Certification:OFLC)はワシントンDCに本部を構え、処理センターがアトランタとシカゴにある。企業に外国人労働者を採用するための情報を提供している。
外国人労働者を採用するにはいくつかの連邦機関の認可が必要である。まず、企業は労働省に労働許可書(labor certification)を申請し、認可されれば、次に、企業が米国移民局(U.S. Citizenship and Immigration Services:USCIS)にビザ(入国査証)を申請する。労働許可書を受けていてもビザは却下されることもあるが、ビザが認可されれば、国務省(Department of State:DOS)が当事者(外国籍労働者)に入国ビザ番号を通知する。当事者は移民国籍法に基づいて、母国の米国大使館の審査を受けてビザを取得することになる。米国の企業は、採用する外国人の給与について、同職種に就く一般的な米国人の給与と同額かそれ以上の額を保証しなければならない。
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