OVTAは企業と国際化と人づくりを応援します。
![]()
米国の職業教育(Career and Technical Education:CTE)には、連邦政府から多額の助成金が出ているが、主体は各地域の公・私立学校であり、州及び自治体からの補助金や民間からの寄付金も受けて実施されている。中・高校を除いた職業教育の70%は民間の職業教育機関で、残り30%はコミュニティーカレッジ(公立短期大学)と政府の運用する成人教育センター、軍の技能教育センターである。政府は民間職業教育機関で学ぶ学生にも奨学金を提供している。本項では、政府(連邦及び州を示す)の助成金を受けて実施される職業教育について述べる。
かつて、中学や高校では木工・板金工、タイピング、簿記、製図、自動車修理などの職業訓練授業が行われていたが、最近、高校では進学重視のためこれらの授業は大幅に削減されている。その代わり、生徒に職業に関する技能を学ばせるために、新たな技能教育授業、通称「学校から就職への移行プログラム(School to Work、School to Career)」が企画、導入されている。国や州の方針に沿って、インターンシップのような職場体験を通して学問と職業とを関連付けた教育が行われている。
職業教育に関して重要な法律はパーキンス法(Carl D. Perkins Career and Technical Education Act)である。この法律は1984年に法令化され、2006年7月に改定された。2012年まで全州の職業教育に毎年13億ドル※1を拠出するものである。パーキンス法により設立された基金は教育局の傘下にある職業・成人教育局(Office of Vocational and Adult Education:OVAE)が管轄している。OVAEは高校の技能教育、成人のキャリア教育、生涯教育、コミュニティカレッジ教育の推進やペルグラントプログラム(経済的な理由で高校卒業後の進学をあきらめざるを得ない学生への奨学基金)なども合わせて管轄している。
他に、職業教育を進める労働省雇用訓練局(Employment and Training Agency:ETA)があるが、詳細は後述する。
国際経済における競争力を維持するには、国民の技能を向上させることが肝要である。公的機関の職業教育のほとんどは失業者と潜在失業者(終日雇用や正社員になれず、やむを得ずパートタイムの職に就いている者)が対象で、目的は雇用拡大が期待される成長業種が必要としている技能を習得させることである。
条件を満たした者は自らのキャリアップのために、個別訓練給付金(Individual Training Accounts)を受給できる。特に、貿易に従事する者で輸入増加による影響でレイオフされた者には長期の教育も用意されている。
その地域で行われている職業教育一覧は企業に公開されている。企業が求人を考える場合には、コース修了者の履歴書を入手することができる。つまり、企業にとって職業教育の実施機関は必要な技能を身につけた人材の供給源になっている。
企業が職業教育の修了者を採用しても、さらに現場教育が必要な場合には、かかる費用の50%まで還付を受けることができる。この窓口はワンストップキャリアセンター(One-Stop Career Center)であり、失業者の再雇用を促進する労働力投資法基金(Workforce Investment Act Funds)に基づいて運営されている。
各州は経済の活性化のために州内をいくつかの地域に分け、地域ごとに労働力投資委員会の下で雇用の拡大を図っている。この委員会でワンストップキャリアセンターの設置場所や運営管理方法などを決め、成長業種の見定めと将来の雇用拡大に必要な労働力等の調査・分析も行っている。法律により委員会の理事の半数以上は地場企業の代表者で構成されている。
公的な職業教育は失業中又は潜在失業中の状態の者を対象にしている場合がほとんどだが、州や地方自治体の中には、地場経済活性化に寄与できる職種の技能教育については、就業者を対象にしているところも多い。この就業者対象の職業教育は生涯学習(Lifelong learning)と呼ばれることもあり、広く普及してきている。国際競争力をさらに強化するためには、このような技能教育の継続が求められている。
認定徒弟訓練制度(A registered apprenticeship programs)も従業員の能力開発の1つの方法である。座学講義の後に実地研修を修了すると、認定職種に就け、昇進も可能になるプログラムである。企業の多くはこのような徒弟訓練制度があることによって人材の応募が増え、離職率が減少し、従業員教育の総コストも減ると認めている。
大統領発令の「成長業種の職業教育推進と職業訓練補助金制度(High Growth Job Training Initiative and the Community Based Job Training Grants: CBJTG)」の執行を受けて、政府は公的雇用促進制度の充実のために、官民・産学すべてを巻き込んだ革新的な教育モデルを助成している。また、各地方自治体の労働力投資委員会も地場産業界やコミュニティカレッジなどの教育機関との連携を強化している。この発令は産業の成長業種、人材不足の業種及び安定し活気ある業種に労働者がチャレンジできるような技術を身に付けさせることを意図したものである。例えば、ヘルスケア、ITや最先端製造業では人材が不足しているため、これらの分野では求人募集が多く、キャリアパスとして有望である。大統領発令は労働者にこれらの分野で就業できるための必要な技能を身に付けさせることを目的としている。
雇用拡大が見込まれる成長業種の選定条件は次のとおりである。
該当する業種は、先端製造、航空宇宙、自動車、バイオテクノロジー、建設、エネルギー、金融サービス、ヘルスケア、ホスピタリティー(ホテルなど)、小売・サービス及び運輸である。
また、雇用訓練局(ETA)はすべての業界に次のような雇用対策を優先するように指導している。
「成長業種の職業教育推進」は労働者の能力開発・技能向上のために、以下のような施策を国家規模で行っている。
「成長業種の職業教育推進と職業訓練補助金制度」は、労働力投資制度の基に、企業及び教育機関が協力して、産業界が必要とする技術者を育成する制度である。具体的には、コミュニティカレッジで行われる技能教育に対し助成するものであり、補助金は地場産業のための教育カリキュラムの作成、教師の採用、実地研修の実施、教育機器の導入などに使われる。また、技能教育だけでなく、技能習得者の雇用継続や採用拡大を通して労働者の所得向上を狙っている。
雇用訓練局は年間約1,000万ドルの補助金をSTEMと呼ばれる分野である、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の教育に投じている。補助金の支給は次の点から厳しい2段階の選考を経て決定される。まず、STEM分野の教育の充実と強化のために斬新な方法を取り入れているかどうか、ワンストップキャリアセンターで失業者や恵まれない若者にSTEMキャリアを目指すよう勧めるような体制を取っているかである。このことが地場企業の競争力向上につながると考えられている。
中高年労働者対策チーム(Aging Worker Initiative: AWI)は中高年労働者層に最適な雇用機会を提供できる制度を模索している。対象者は55歳以上で成長分野での職種教育を受講できる者である。以下の条件を満たせば、教育助成金を受けることができる。
国の雇用促進制度(Public workforce system)は地方自治体と連携して、21世紀の経済発展とそれに見合った労働力の強化を支援する制度で、産学や地域指導者と協力して地域経済の発展に取り組み、産業界が必要とする人材の育成に力を貸している。
労働省雇用訓練局は、各州がワンストップキャリアセンターで実施する成人、失業者及び青少年を対象とした職業教育に助成金を出している。これらのプログラムは地域産業が求める技能に沿っているため州ごとに違いはあるが、目的は雇用と所得の安定である。助成金の対象プログラムは次のとおり。
成人教育プログラム、徒弟プログラム、失業者や原住民(アメリカンインディアン)、ジョブ・コープス(Job Corps;青少年教育・職業支援)向けプログラム及び、農業季節従事者、障害者、貿易で損害を受けた人たち、退役軍人、青少年などを対象としたプログラムがある。
雇用促進制度の要はワンストップキャリアセンターであり、全米に3,200カ所設置されており、1カ所で求人や求職情報を得ることができる。求職や転職、技能を修得したい者が利用し、企業側も求人募集に活用している。
職業・成人教育局(OVAE)が統括する職業教育は以下4つの分野がある。
キャリア教育協会(Association for Career and Technical Education:ACTE)は1926年設立の青少年や成人への技能教育として最大の民間機関である。協会はキャリア教育の講師やカウンセラーなど約3万人を抱え、連邦・州政府からの助成金を受けて、職種技能の向上、キャリア教育に対する社会の認知度と評価の向上、地域の産業発展への貢献を目指している。
技能教育における重要点は以下のとおり。
ACTEは教材一式を作成しているが、活用方法は各州に任されている。各地域の職業教育プログラムはその地域の高校やコミュニティカレッジの改善や教育方針について指導的な役割を担っている。ACTEは教育に関する学術論文や投稿記事などを通して、最新の情報を収集・分析するキャリア教育調査室(CTE Research Clearinghouse)を設け、キャリア教育内容、技能や学力への効果、キャリア相談など、社会により理解されるために、啓蒙活動を行っている。
他に、国が州の奨学制度を支援する技術教育プログラム(Technical Preparation: Tech Prep)がある。州はこの助成を受けて、高校・大学を通した4年間の技術教育を行っているコンソーシアム(高校とコミュニティカレッジ、大学の提携)に補助金を出し、技術教育修了者には準学士が授与される。このプログラムは高校と大学を繋ぐコンソーシアムを強化することも目的としている。パーキンス法は上述の技術教育(Tech Prep)プログラムに以下の7つの要素を条件付けている。
技術教育(Tech Prep)プログラムは、1990年のパーキンス法で取り上げられ、1994年の学校から職業への移行機会法(School to Work Opportunities)で改定された。米国の教育改革運動で重要視されている教育である。また、同プログラムは早くて9年生(日本では中学3年時相当)から始め、大学での2年間又は、徒弟訓練プログラムを2年間続け、修了者には資格を与えるものである。したがって、技術教育は就職のためのステップとして極めて重要ですべての生徒に学業と働くことのつながりを意識させる役割を担っている。各州政府から優先的に支援を受けられる技術教育プログラムは次のとおり。
また、修了後には、学生は以下のような成果を得ることが期待される。
なお、学校から職業への移行プログラム「School to Work」の名称は「School to Career」に変わり、大学へ進学しない生徒への職業教育として重要な役割を果たしている。
以下、サンフランシスコ近郊にあるマリン郡の学校の例を取り上げる。
マリン郡では1997年に教育界、産業界や政府が一体となって生徒に職業を意識させ体験させる「学校から職業への移行機会共同プログラム」を立ち上げた。目標は極めて意欲的で遠大であった。
このプログラムは成功し、この地域で根付くことができた。今では毎年3,000名の生徒が参加しており、職業体験(Internship)や見習い体験(Job shadows)、職場見学、教師対象の専門教育、専門家による講演などを行っている。
また、800社以上の企業から職場体験、見習い体験の受け入れや教師への専門教育の機会提供も行われ、教育委員会やカリキュラム作成委員会などからも参画や協力を得ており、産業界、教育界、自治体との良好な関係が築けている。企業側は将来の働き手の養育に積極的に協力することになり、生徒も社会に出るための有意義な勉強ができている。この「学校から職業への以降機会共同プログラム」運営の財政的支援は、マリン郡教育局、学校群、地域の諸団体及び企業200社が行っており、就職だけでなく進学する生徒にも役立っている。
職業教育への政府拠出金は主に雇用訓練局(ETA)が管轄している。2010年度はETAに87億ドルが予算化されている。その多くは失業者救済のための失業保険給付である。87億ドルのうち32億ドルは失業者数に応じて各州に配分され、失業保険給付手続き及び職業教育に費やされる。再就職支援に昨年度より1,000万ドル増加し、5,000万ドルが拠出され、ワンストップキャリアセンターで失業者への職業紹介や失業保険給付資格相談に応じている。
以下、連邦政府の職業教育予算の配分について述べる。
グリーンエコノミーNPO団体、グリーン・フォー・オール(Green For All)※2によれば、経済復興法により職業教育や雇用支援予算の40億ドルのうち、5億ドルが特にグリーンエネルギー産業(低炭素型産業)への職業教育(Energy Efficiency and Renewable Worker Training: EERWT)プログラム開発に配分され、グリーンエネルギー関連事業の調査、労働力の受け入れ、雇用のための教育などに使われる。この分野は新しい産業分野であり、有資格者の確保が課題になっている。グリーンエネルギー分野での雇用創造には次のような政府基金が使われる。
連邦政府も、学生の高等教育進学支援金を用意している。これはペル基金と呼ばれ、返済の必要はない経済的に困窮する学生1人当たり4,731ドルまでが付与される。ペル基金には12億5,000万ドルが予算計上されているが、昨今の急激な授業料高騰で、20年前には総コストの60%を補填できていたが、今では31%しかカバーできていない。2005〜2006年の奨学金受給者の57%は家庭所得が2万ドル以下で、そのうち35%の生徒が2年生短期大学へ、42%は4年生大学へ進学している。
外国や国際機関から職業教育への援助金はないが、進出企業は社員教育に多額な費用を掛けるだけでなく、新しい教育方法を取り入れている。外国企業からの直接投資は、輸出の拡大や新規事業、雇用の創造などで経済の発展に貢献するため、米国政府は税制や法制面に透明性を持たせ、社会基盤を整備し、外国企業に市場を開放したりと積極的である。また、雇用拡大のために外国企業の進出も歓迎している。米国への投資(Invest in America)プログラムの下で、政府は外国政府や海外投資家へ働きかけ、州政府による外国企業誘致の支援、ワシントンの行政監査(Ombudsman)による国際投資機関への経済情勢や事業状況などの情報提供を行っている。実際、米国は海外からの直接投資を世界で最も受け入れている国で、2007年だけで2,370億ドルであった。このことはいろいろな点で米国経済へ良い影響を与えている。
外国企業の米国子会社は米国人を530万人雇用しており、それは民間就労者全体の4.6%である。2003年から2007年の間、外国企業によって3,300を超える新規プロジェクトが起こり、1,840億ドルの投資と44万7,000人の新規雇用が生まれた。外国企業の米国子会社が払う給与は米国企業より平均で25%高い。国際的な企業が支払う米国人従業員への1人当たりの平均年間給与は6万8,000ドルを超え、その給与総額は3,640億ドルにもなっている。米国の輸出1,950億ドルのうち約19%は外国企業の米国子会社の貢献といえる。米国子会社の総従業員数の30%は製造業分野で、米国製造業の総従業員数の12%を占めている。また、外国企業による直接投資総額の60%はサービス関連産業で米国の国際競争力向上に寄与している。2006年、外国企業は研究開発に340億ドルを、設備や工場建設に1,600億ドルを、また従業員の教育に多くの投資を行った。外国企業の進出と投資が米国内に事業資本と企業間競争の増加をもたらし、結果的に米国の生産性は向上した。また、米国の労働者の生活水準、技能及び企業の国際競争力が向上している。つまり、外国からの直接投資は労働者の技能向上に役立っているといえる。
キャリア教育協会(ACTE)の調査によれば、キャリア教育は学力の向上、所得の増加、青少年や社会人の技能向上に効果が出ていると評価されている。得られた効果については以下のとおり。
一方で、職業教育は重要であるが、成功例ばかりではないと指摘する研究報告もある。労働省の調査報告書「労働力投資法執行により生じた効果とその評価に関する最終報告書(Workforce Investment Act Non-Experimental New Impact Evaluation Final Report)、2008年12月号」によると、連邦政府の職業教育プログラムはレイオフされた人たちにほとんど役立っていない。職業教育を受講した人たちと受講しなかった人たちの間には給与支給額や雇用機会に全く差がなかった。
最終報告書の著者や数人の経済専門家はレイオフされた人への再教育に効果が出にくいのには理由がいくつかあると述べている。まず、レイオフによる失業者は高齢者で1つの分野で仕事をしてきた人たちである。彼らはすぐに職を見つけたいため、比較的短期間であまり役に立たない再就職教育しか受けない。2つ目の理由は、雇用を前提としない職業教育には意味がない。経験がない新しい分野に再就職すると失敗することもある。州の調査データやインタビューによると、新しい分野の仕事についても長続きしていない。また、新しい分野に再就職した者の収入を以前と比較すると、ほとんどの者がマイナスとなっている。
もちろん景気後退も大きな原因の1つであるが、再教育の効果が上がるまでには時間がかかる。労働者の技能レベルを上げることができれば、企業を誘致でき、新しい企業も育つことになる。
厳しい経済状況ではあるが、公的な職業教育が成功するためには成長する産業分野で雇用機会を増やすことである。職を失ったり、給与や年金が減額されたり、将来の展望が見えない者の多くが、自らの技能を高めるために学校に行き始めている。
雇用が拡大している職もある。医療・健康関連の職は増え続け、病院は2009年の上半期で2万人近くも採用している。またグリーンエネルギー関連業界も事業拡大投資を行っており、金融業界も特にリスクマネジメント職のような一部の職種を増やしている。また、技術者や科学者で管理や技能に優れた人には雇用機会が多い。
経済不況のこの時期、コミュニティカレッジや大学、民間技能教育機関などは活況を呈してきている。したがって、職業教育のカリキュラムやコースを産業界のニーズに合うように見直している。また、政府の政策や助成金を受けてコースの種類や受講生の受け入れを増やそうとしている。コースによっては授業料減額が適用されたり、補助金支給を行っている機関もある。斜陽産業でレイオフされた者は技能審査を受け、専門機関の短期講習やワークショップなど自分に適した教育を受講できるが、まったく違った業界で職を探すには、学位や資格などが必要になってくる場合がある。政府の公表データや労働者団体などの予測によると、最も雇用拡大が期待できるのはヘルスケア、教育、環境関連業界であるといわれている。どの業界へ入るのにも教育は必須である。上述の成長する業界ではおおむね幅広い職種で求人がある。
労働省は求人に関する職種や技能をデーターベース化してオーネット(O*Net)と呼ばれるウェブサイトで公表している。このサイトはすべての業界での職種情報を提供し、最も求人が多い業種、職種ごとに求められる実務経験や学歴・給与などの情報を網羅している。また、このサイトではシステムアナリストやエクセルなどの技能条件で求人を検索することも可能である。このサイトや全米にあるワンストップセンターで失業者が持っている技能が他の仕事に適用できるかどうかなどのカウンセリングを行っている。証券アナリストには数学や科学の先生が不足している教育業界、情報サービス業の管理職経験者には対人関係や管理能力が必要な医療・健康関係業界の事務管理部門への再雇用機会を紹介している。
産業界で個人の能力や適性を示すものは資格である。業界によっては、学歴や認定証なども必要な場合がある。生涯学習を行っているコミュニティカレッジや大学では専門職になるための必要な要件について助言や相談を受け付けている。また、中には地場企業と提携して企業が求める技能教育のカリキュラムを設け、受講した学生がそれらの企業へ就職できるようになっているところもある。
地方の労働管理局(Department of Labor)でも失業者の相談を受け付けている。例えば、教育の受講申請をする者のうち、どのような者が失業保険を受給できる資格があるか、どの教育プログラムが認定資格になるのかなどの相談を受けているが、件数はまだ少ない。公的機関は政府からの助成金対象教育プログラムや教育プログラム修了者の就職率や認定資格取得者数などのデータを公表しているが、民間教育機関は公表していない。
職業教育の多くはコミュニティカレッジで行われており、コミュニティカレッジは米国高等技能者養成機関(Workhorses)と考えられている。これから社会に出る若者や、レイオフされ新しい技能をつけようとする者、働いているが夜学で学びたい者、仕事についているがさらに技能を身につける必要がある者などへの教育プログラムを提供している。コミュニティカレッジは重要な役割をこなしているにもかかわらず、あまり評価されていない。
オバマ大統領はコミュニティカレッジが中流層の生活や国富の向上への活力源としての役割を果たしていると主張し、その役割を重視している。2009年9月、ミシガン州での演説で、「目標は高技能で国の繁栄を担う労働力を創造することである。今後10年で大学卒を500万人増やす意欲的な計画を持っており、全国1,200のコミュニティカレッジがその役割の中心となる」と述べた。
全国で労働力養成に最も成果を上げている大学にオハイオ州デイトン市のシンクレアコミュニティカレッジ(Sinclair Community College)がある。この学校はゼネラルモータースやその取引企業をレイオフされた数千人を対象に地方自治体や地場企業と連携して、成長産業分野で再雇用するための職業教育を行っている。教育費用のほとんどは地域住民の税金から拠出されている。
一般に、コミュニティカレッジでは2つの進路が用意されている。1つは学費の安いコミュニティカレッジで単位を取得し、4年制大学へ転入するケースである。2つ目は職業教育コースを履修することである。シンクレアコミュニティカレッジでは2009年は学生数が25%増え、3万7,000人になった。この理由は就職難であることと、年間授業料が2,000ドルと安いこと、奨学金が充実していること、及び170もの教育プログラムが用意されていることである。シンクレアコミュニティカレッジには地域に住む成人の50%が学んでいることから、地域にとって不可欠の存在になっている。入学者をさらに受け入れるために、大学進学を考えたこともない生徒への一風変わった奨学制度を設けている。例えば、高校で職業教育を履修し2、3年生時の平均成績がC+(5段階で3以上)の生徒に3,000ドルの奨学金を授与するもので、この額は1年半の授業料に相当する。この制度のお陰で、職業教育を履修する学生の授業料はほとんど無料になっている。また、シンクレアコミュニティカレッジは高校53校と共同で高校の技術コースのレベルを上げ、カレッジへの進学が容易になるようにしている。また、創設した400万ドルの基金を使ってデイトン市にコミュニティカレッジを支える公立キャリア教育高校を設立し、電子、放送や産業工学分野の技術コースを開設する予定である。
デイトンは長い間、自動車産業、自動車部品産業が築き上げた町である。米国の自動車産業が危機に直面している今日、デイトン市も同様に困難な状況にある。シンクレアコミュニティカレッジは地域社会で産業分野を見直し、地域活性化につながる活動も行っている。例えば、大きな空軍基地があるため、地域社会のリーダーと共同で地域活性化のために宇宙工学研究開発や最先端素材の開発と製造、ヘルスケアを成長産業と定め、コミュニティカレッジが先端情報工学などの資格コースを設けている。これは衛星からの遠隔感知データを解析したりする学科で空軍やCIA等での雇用を期待している。また、シンクレアコミュニティカレッジは地域経済の強化のために、先端製造技術センターにスタッフを置き、地場企業へ生産性向上や事業拡大の相談・助言などを行っている。このセンターのロボット工学専門家が製造プロセスの設計や新商品の試作品開発に協力している。また、警察官、消防士、調理師、看護師、自動車工への職業教育も続けている。
コミュニティカレッジ全米1,200校の中で、シンクレアコミュニティカレッジは革新的な教育校(League for Innovation)20校の1校に選ばれている。学生19人に対して教授1人の割合はオハイオ州内の大学で最も高く、キャンパスが5カ所あり、夜間コースも行っている。四半期ごとのオンライン授業だけで5,000人の学生が受講している。このコミュニティカレッジの職業能力開発の目的は「斬新でハイレベルな消費者重視の教育プログラムを提供して、企業、コミュニティーや個人が必要な技能を修得できるようにすること」とされている。
シンクレアコミュニティカレッジは他のカレッジに比べ資金が豊富である。1960年代以降10年ごとの投票で、地域の固定資産税をコミュニティカレッジの運営資金に配分することが可決され、年間運営予算1億3,500万ドルのうち固定資産税からの拠出金が3,400万ドルを占めている。大学は2,900万ドルを授業料補助や奨学金に当てており、学校の収入は税金からの補助と学生が支払う授業料で賄われている。また、シンクレア基金は奨学金や特別教育プログラムへの支援として個人、団体及び企業からの寄付を受けている。
シンクレアコミュニティカレッジは1989年、革新的な大学メンバー(League for Innovation in the Community College)に、2001年は、その中でもトップ12校にランクされ先進的な教育校(League’s elite Vanguard Colleges)に選ばれた。30以上のプログラム(学科)とその下に180以上ものオンラインコースもある。
以下のようなカリキュラムがある。
シンクレアコミュニティカレッジを修了すると、学位や資格を取得することができる。また、4年制大学への編入や就職などで助言や支援も受けることができる。
2009年2月、マイクロソフト社は米国技術向上プログラム(Elevate America)と呼ばれる3年間で最大200万人に対して技術教育を行うプログラムを発表した。画期的なことは資格取得や教育が無料で提供されることである。
まずマイクロソフト社は国民の技能向上を助ける目的でウェブサイトを立ち上げ、個人の求職の履歴書を企業へ送るサービスを開始した。米国の失業者が数百万人にも達したことがきっかけでこのプログラムを始めたが、当の会社でさえも今日の経済不況でレイオフを行っている。マイクロソフト社は支援策の一つとして州政府や地方自治体と共同でe-ラーニングや資格教育への無料利用券を百万人分用意した。マイクロソフト社がこのプログラムにいくら拠出するかは、無料利用券が実際に使われるまでは分からない。無料利用券の価値はコース当り100〜300ドルで、資格受験料は85ドル相当である。また、この地域の教育機関にプログラム実施のための整備にソフトや支援金を寄贈している。無料利用券はオンラインのマイクロソフトワードの基礎コースから高レベルのコース受講や資格受験にも使える。
レベルの高い資格を持つ者は仕事を見つけやすく、給与も高い。コンピュータ技術を必要とする仕事はそうでない仕事に比べ平均して年収5,000ドル以上も多い。
「米国の技術向上」プログラムはマイクロソフト社の壮大な計画の一部であり、同社製ソフトの技術教育を対象としており、政府の財政支出を必要としていない。2009年初めにマイクロソフト社は1,400人をレイオフし、さらに5,000人を2010年まで削減する計画を発表しているが、新規事業に2,000〜3,000人を採用する予定であるといわれている。
官民共同で職業教育を進めているニュージャージー州のバイオNJ(Biotech New Jersey)を紹介する。バイオNJは州のバイオテクノロジー振興協会(Biotechnology Trade Association)で連邦政府の労働省やニュージャージー州の労働開発局からの助成金を受けて運営されている。このバイオNJは労働力強化のため、ニュージャージー州のコミュニティカレッジ、ラトガー大学、プリンストン大学など多くのパートナーと連携し就労者の能力向上、起業家養成教育、生命科学関連の企業へのインターンシップなどを実施している。バイオNJは1994年にニュージャージー州のバイオテクノロジー企業代表者たちが創設し、バイオ医薬品、バイオ医療、バイオ農業事業を代表しており、現在230社の会員企業を抱えている。経済の活性化のため新興企業を含め世界中から企業をニュージャージー州へ誘致している。
環境に関するグリーン技術の教育には、多くの公的及び民間機関が参入している。例えば、ミシガン工科大学とウエイン州立大学が次世代のハイブリッド自動車やバッテリー開発に携わる大学院コースを設けた。このプログラムは「ミシガンアカデミーグリーンモビリティ(Michigan Academy for Green Mobility)」と呼ばれている。このプログラムの運営資金はミシガン州エネルギー・労働・経済開発局(Department of Energy, Labor & Economic Growth: DELEG)が拠出し、上記の2つの大学が自動車開発技術者に代替エネルギー開発の入門教育を実施するものである。専門コースは技術者に最先端のハイブリッド及びバッテリー技術を習得させるものである。このプログラムの運営は州政府主導で理事会メンバーは産業界、教育界、教育実施機関、労働力開発機構や州政府から選出されている。ミシガンアカデミーグリーンモビリティの目的は自動車排気ガス対策、部品設計、製造、維持管理などの最新技術を教育することである。
また、ミシガンアカデミーグリーンモビリティは3年間で10万人に成長産業分野が必要とする職種の教育を行うという、ミシガン州の「No Worker Left Behind宣言」(落ちこぼれ労働力ゼロ)に即している。ミシガン州は条件を満たす者を対象にコミュニティカレッジや大学で最長2年間の授業料を無償にする奨学制度を予定している。2009年6月30日現在、8万1,667人がこの教育を受講した。
この教育コースの内容は以下のとおり。
官民共同による就業者(企業の従業員)への教育はあらゆる州で実施されている。例えば、テネシー州の労働力開発局は「従業員教育と徒弟訓練制度の推進」(Incumbent Worker and Apprenticeship Training)の基金を使って、地場企業17社に総額22万4,260ドルの助成金を出し、600名もの従業員教育を実施し、過去4年間では累計1,000万ドル以上を拠出し、3万7,000人以上の教育を実施した。この従業員への教育推進プログラムは地場産業のニーズに答えるもので、対象は州内で1年間の事業実績があり、かつ正規従業員を5名以上雇用している企業である。助成金を受ける条件はレイオフを回避するためか、又は従業員の技能を高める目的を持つ企業である。
徒弟訓練は成長産業分野で熟練技術者が不足している職種で、テネシー州で徒弟教育プログラムを利用している企業が連邦政府労働省の徒弟教育統括局から認可を得ると助成金を受けることができる。
このページの内容をプリントアウトしたい方は、以下のPDFファイルをクリックしてください。
米国−職業能力開発の政策とその実施状況のPDFファイル(69KB)
掲載されている内容をご利用になる際は、こちらを一読いただきますようお願いいたします。
各国の情報はPDFファイルでも作成されています。PDFファイルを見るためには、Adobe Readerというソフトが必要です。
Adobe Readerは無料で配布されています。ダウンロード・インストールする場合には、下のアイコンをクリックしてください。
![]()